おいしい記憶
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a la famille

ア・ラ・ファミーユ、これは「家庭風の」とか「家族のための」という意味のフランス語です。私は家庭菓子の魅力に惹かれています。

「そりゃぁ、素朴さ、それとあたたかさでしょう。お母さんの作ってくれるお菓子って手早くて簡単だけど、おいしいでしょう。全神経がそこに費やされているわけだからねぇ。」、と。

専門学校に通っているとき、外来講師として、ある有名なパティシエが講義に来てくださったことがありました。こんなことを質問してもいいものだろうかと思いつつ、そのパティシエの人柄に惹かれて思い切って質問をしました。

「家庭菓子の魅力はどんなものだとお考えですか」、と。すると迷わずこうおっしゃってくださいました。

そして「限られた環境と手持ちの道具で作ることのよさ」、「出来上がりを目の前で食べてもらえること」、を付け加えられました。当たり前のようですが、プロであり、しかもお菓子の世界において第一人者であるその方から、迷わずその言葉が出てきたこと、素人の私に真摯に答えてくださったことに感激したことを覚えています。

その昔、我が家にも母特製のお菓子がありました。バースデーケーキ、アップルパイ、クッキー、ドーナツといったところでしょうか…。ちょっと固めのスポンジに大好きな缶詰のみかんをたっぷりサンドした生クリームのバースデーケーキは生まれてこのかた一番おいしい記憶のケーキです。ドーナツは母のうしろで私が型抜きをして母が揚げる。これがパターンでした。記憶に残る光景は、こっちを向いたり背中を向けたりの母の姿です。
私が今思うのは、生き方の多様化したこの時代、いろいろな人にお菓子作りの楽しさを味わってもらいたいということです。家族に限らず、いろいろな形があってほしいと思うのです。例えば、誰かにおいしい記憶をあげるもよし、自分で作って自分で食べるもよし、性別も年齢も関係なく、興味がある人にはぜひトライしてみてほしいと思います。作って食べるという空間には何ものにも替え難い贅沢さがあります。味とともに光景が脳裏に焼き付いている、そんなおいしい記憶を作るほんの少しのお手伝いができれば幸いに思います。
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