ONLY ONE
〜THE DARK SIDE〜 2




怯える母を勇気付けて、は警察へと出掛けた。
あの男の言ったことが出鱈目だと考えての行動であった。

しかし実際はあの男の言う通りであった。
母から聞いた限りの状況を説明したが、ろくに取り合ってもらえなかった。
行方をくらました父の捜索願だけは受け付けてくれたので、仕方なくその届だけを出し、母にその旨を連絡してそのまま帰宅した。
部屋に入るなり、バッグを投げ出してベッドに倒れ込む。


いつかこんなことになるんじゃないかと思っていた。
どうしよう、どうすれば解決できるだろう?

はバッグからくしゃくしゃになった名刺を取り出して見つめた。
400万なんて大金、実家にはない。
自分のなけなしの貯金も、その額には遠く及ばない。
ましてこんな大金を貸してくれる心当たりなどない。


どうしよう、もたもたしていたら色んな人に迷惑が掛かる・・・!


『あんたならいくらでも稼げるぜ?その気になったら連絡してこいや。』

あの男の言葉が頭をよぎる。その言葉が何を意味するかぐらい百も承知している。
そんな事は絶対にしたくない。しかしこのままではそんな大金など用意できない。
は、出口のない迷路に突き落とされたような気分に陥った。



しばらくして、の携帯が鳴った。
着信を見ると『間柴了』となっている。

「はい。」
「俺だ。」

もう聞き慣れたその声に、涙が出そうになる。
胸に支える塊を飲み込んで、は平静を装った。

「ごめんなさい、さっき帰って来たところだったの。」
「・・・そうか。」
「うん、ごめんね、遅くなって。」
「実家はどうだった?」
「うん、いつも通りだった。」

は、今日の出来事を間柴に言えなかった。
動揺が声に出ないように努めて明るく言う。

「・・・そうか。」
「うん。」
「明日・・・」
「何?」
「帰りにメシでも食うか?」
「うん、食べる。」
「明日、いつもぐらいに教室に行くから待ってろ。」
「分かった。じゃあまた明日。おやすみなさい。」
「おぅ。じゃあな。」

電話を切った後、はその場にしゃがみ込んだ。
涙がこぼれないように、きつく唇を噛み締めて。





「待たせたか?」
「ううん、そんなに待ってないよ。練習お疲れ様。」
「おう。」
「早く行こう!」
「どこがいい?」
「どこでもいいよ。」
「ならこないだの所でいいか?」
「うん。」

普段通りの会話をしながら暗い道を歩き、目的の店へと着く。
注文した料理が運ばれて来て、二人は食事を始めたが、の食がいつもより進まない。

「どうした、具合でも悪いのか?」
「ううん、元気よ。どうして?」
「さっきから箸が進んでねぇから。」
「別に何でもないよ。お昼食べ過ぎたからかな?」
「・・・ならいいがな。」

明るく笑うに違和感を感じる間柴。


何隠してやがるんだ・・・・?


問い詰めようかとも思ったが、言いたければ本人から言うだろう。
間柴は敢えて何も言わなかった。


食事を済ませて店を出た。いつも通り、の家の前まで送る。
一見普段と何も変わらないだが、どこか妙な感じがする。
それが何かはっきりとは分からなかったが、間柴は漠然と胸騒ぎを覚えた。


「じゃあ、おやすみなさい。また明日ね。」
「あぁ。」

手を振ってマンションの階段を上がっていくに、間柴は呼び掛けた。

「おい。」
「何?」
「お前・・・、いや、何でもねぇ。じゃあな。」
「・・・おやすみなさい。」


何を隠してるんだと問い詰めるつもりだったが、聞けなかった。
この妙な気分は、言葉にするにはあまりにも漠然としすぎている。


一体何だってんだ・・・・。


ついこの間までは普通だった。よく考えてみれば、実家に行ったという夜の電話からどこか妙だった。
実家で何かあったんだろうか?
しかしそれなら自分に言えないことはないだろう。付き合い出してから、どんな小さな事でも話していたはずだ。
それなのに自分に言えない事とは、一体何なのか?
間柴は益々嫌な予感が募るのを感じた。
頭がの事で一杯になったまま、足早に歩き去る。

だからのマンションを見上げる一人の男の存在など、間柴の目には入らなかった。




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後書き

やっと兄さん出てきました!全然気付かないようにしようかとも思ったんですが、
「勘のいい兄さん」にしてみました。まだまだ続きます。事態はどんどん深刻化する予定です(←え)