ONLY ONE
〜THE DARK SIDE〜 1




間柴と が付き合うようになって、しばらく経った。
二人はゆっくりと、確実に、愛を育んでいた。


、今度の日曜空いてるか?」
「ごめんなさい、日曜は用があるの。」
「・・・そうか。」
「ごめんね、ちょっと実家に用があって。夜には戻ってるから、帰ったら電話する。」
「分かった。」
「じゃあおやすみ。」
「あぁ。」

電話を切って、は溜息をついた。
本来なら、次の週末も間柴と過ごすはずだった。しかし昨夜実家の母から電話がかかってきた。
大した用事じゃないと言いつつも、どうも様子のおかしい母が気にかかり、は実家に行くことにしたのである。


何もないといいんだけど・・・


妙な胸騒ぎを覚えて、は自らの身体を抱きしめた。
その漠然とした不安が的中することになろうとは、この時のには知る由もなかった。





そして日曜。は実家へとやって来た。
チャイムを鳴らすが、誰も出てこない。仕方がないので、持っていた鍵で玄関のドアを開けて中に入る。

「ただいまー。母さん?千夏?」
玄関先で母と妹を呼ぶ。すると奥から心持ちやつれた様子の母が出てきた。


?どうしたの急に。」
「そっちこそどうしたの?チャイム鳴らしても誰も出ないから、留守かと思ったじゃない。千夏は?」
「遊びに行ったわ。とにかく入んなさい。ドア鍵かけてよ。」

言われた通り玄関の鍵を閉めて、奥の茶の間へ向かう。
母が熱いお茶を入れて勧めて来た。はそれを一口飲んで、話を切り出す。


「ねえ、こないだの電話なんだったの?様子がおかしかったけど。」
「・・・ちょっとね・・・」
「何?話してよ。何があったの?」

母は溜息をつくと、決心したように話を始めた。

「・・・実はね、ちょっと前に妙な人が来たのよ。」
「妙な人?」
「ガラの悪そうな男でね。父さんの居場所を聞きに来たんだけどね。」
「それで?」
「父さんとは全然連絡取れないし、知らないって言ったのよ。その時はそれで帰ったんだけどね・・・・。」
「また来たの?」
「電話が何回か。何でも父さん、お金を借りたまま消えたらしいのよ・・・。」

は、恐れていた事態が起こった事に強いショックを受けた。

取り乱してはいけない。落ち着いて。

そう自分に言い聞かせて、母に話の続きをするよう促す。

「それで?」
「本人がいないなら、家族が返せと言って来て・・・」
「幾らなの?」
「何でも400万程らしいわ。」
「400・・・!!そんなお金ある訳ないじゃない!!」
「どうしよう、・・・・、母さんどうしたらいいの?」

抱え込んでいたものを吐き出した母は、泣きそうな顔での手を取る。
は弱々しい母の手を、安心させるように握り締めた。

「大丈夫、何とかなるわよ。まず父さんを探さないと。どこか心当たりはないの?」
「母さんが知ってる限りは探したんだけど、見つからなかった。」
「電話もないの?携帯も繋がらないの?」
「うん。毎日何回も掛けてるんだけどね・・・。」


ピンポーン。

玄関のチャイムが鳴った。
あからさまに怯える母を残して、は玄関へと向かった。



「はい。」
さん、ちょっとお話があるんですけどねー。開けてくれませんか?」
「どちら様ですか?」
「お宅のご主人に金貸した者ですがね!」

わざと近所に聞こえるような大声で話す男に、はドアを開けざるを得なかった。

「大声出さないで下さい!何のお話ですか!」

震えそうになる声を必死で励まして、目の前の男を睨みつける。
尋ねてきたのは、30ぐらいの、どうみてもまともな社会人には見えない男であった。
男はを見て一瞬意外そうな顔をした後、ニヤリと笑った。


「あんたここのお嬢さん?」
「そうです、父ならおりません。お引き取り下さい。」
「そうはいかないんだよ。こっちも商売だからね。貸した金返してもらわないと。」
「私共には関係ありません。もう二度とここには来ないで下さい!」

は毅然とした態度で早々に会話を終わらせようとする。
一方的に言い放ち、玄関ドアを閉じようとすると、男の足がドアの隙間から割り込んで来た。


「おぉっと、ちょっと待ってよお姉ちゃん。」
「帰って下さい!」
「本人もトンズラ、あんた達家族も払えないってんじゃ、他の人に払ってもらうことになるけど、それでもいいのか?」
「他の人?」
「あんた達の親戚、職場の人間、隣近所、こっちは金さえ返してもらえりゃ誰でもいいんだよ。ん?」
「脅迫なんて卑怯じゃない!警察へ訴えるわよ!!」

精一杯の殺気を込めて、男を睨みつける
しかし男は平然とした顔で、それを受け流す。

「やれるもんならやってみろ。金の貸し借りの問題は、警察は取り合ってくれねぇぜ。」
「そんな・・・!」
「本当だぜ?何なら今から一緒に警察に行ってやろうか?ヘヘヘ。」

男の発言に呆然とする

「なぁに簡単な事だよ、金返してくれりゃそれで終いだ。こっちだって何もしねぇ。」
「返すも何も、400万なんてお金ありません!」
「んじゃ仕方ねぇな。他当たらせてもらうとするか。そうさなぁ、あんたの彼氏とかどうだ?ハハハ。」

の脳裏に、間柴の顔が浮かぶ。

「止めて下さい!!他の人達は巻き込まないで!!」
「いい加減にしろよ。借りたもんは返すのが道理だろうが。金がなきゃ作って払えや!」

さっきまでニヤついていた男の顔が歪む。その剣幕にの足が竦む。
男は再びニヤリと笑い、スーツのポケットから名刺を取り出して、の手に握らせた。

「あんたならいくらでも稼げるぜ?その気になったら連絡してこいや。まあそうするしか他に方法もないだろうがな。」
「・・・・」
「今日のところはこれぐらいにしといてやる。早くしねぇと大変な事になっても知らねぇぜ。」

そう言って男は去って行った。
は、渡された名刺を握りつぶして唇を噛み締めた。




back   next



後書き

表の『ONLY ONE』のダーク話です。
とうとう書いてしまいました(痛)!
ヒロインこれからエラいことになっていきそうです。そして間柴兄さん、今回出てこなかった(笑)。
それからヒロインの妹の名前と同じ名前の方、ごめんなさい!
ヒロインの妹は実質出てきません(仮に出てきてもあくまで脇役です)ので、ご安心下さい。