ANOTHER HEAVEN 13




夜明け間近の砂漠に、乾いた風が一陣吹き抜ける。
町を正面に見据える砂漠の小高い砂丘の上で、五つのバイクの群れがその風を受けていた。


「野郎共。準備は良いな?」
『へい!』
「よし、行け。」

ジャギの一声で、バイクの群れは四散した。
北に南に散って行き、東へ西へ駆け抜けて行く。
それを見送って、ジャギはちらりと背後のに視線を向けた。

落ち着いた表情をしている。
先程までは待ちきれなくて仕方が無いといった顔をしていたが、今は丁度良い位の冷静さを取り戻しているようだ。


「・・・・・行くぜ?」
「ああ。」

言葉少なに言い交わすと、ジャギとは残った手下を引き連れて、砂丘を駆け下りた。









「ヒャッホーー!!!」
「侵入者だーーっ!!応戦しろ!!!」
「一人も入れるな、皆殺しにしろーーッ!!」

町の中では、早くも至る所で攻防戦が始まっていた。
突破しようとする手下達と、それを阻止しようとするオルガの私兵部隊の殺し合いを横目に、ジャギとはフルスピードで駆け抜けた。
だが、流石にそう簡単には侵入出来ない。
次々と現れる傭兵が、二人に弾丸の雨を降らせようとする。


「ちぃっ、邪魔だよ!!どきな!!!」

ジャギの巧みなハンドル捌きでそれを避けながら、は敵に向かって容赦なくマシンガンを乱打した。

「ぐあぁっ!!」
「この女〜、死ねぇ!!」
「ちくしょう、何てしつこい奴らだ!!殺っても殺ってもキリがない!!」
、手ぇ貸してやろうか!」
「要らないよ!!アンタは運転に集中して早く進みな!!こっちは命預けてんだ!!」

敵を一人、また一人と撃ち殺しながら、はその轟音に負けない声でジャギを急かした。

モタモタしていたら、仇を殺す前に弾が底をついてしまう。
それに、この騒ぎに気付いてすぐにでも逃げ出してしまうかもしれない。
それだけはさせて堪るものか。


「ええい、くそっ!これでも喰らいな!!」

は、尚も後を追って来る敵に手榴弾を投げつけた。
今度は不良品などではない、その証拠に、凄まじい爆発が連中の間で起こり、たちまち血肉の雨が降って来る。

「今だ、行くぞ!しっかり掴まってろよ!!」
「ああ!」

辺りに黒煙が立ち込めたのは、二人にとって絶好のチャンスだった。
ジャギはその煙に身を隠し、そのまま町の中央まで一気に駆け抜けるつもりだ。
頬に飛んで来た血の雫を乱雑に拭って、はジャギの腰にしっかりとしがみ付いた。








館の前には、まだ多数の敵が居た。それを相手に闘っているジャギの手下の数はまだ少ない。
まだ各々の持ち場で苦戦しているのだろうか。
空になったマガジンを外して捨てて、新しい物と取替えながら、はジャギに呼びかけた。


「駄目だ、突破するには数が多すぎる!アンタは連中を蹴散らして!後ろからあたしが仕留める!」
「ヘマすんじゃねえぞ!!」
「そっちこそ!!」
「ケッ、言うじゃねえか!行くぜ!!」

ジャギはバイクの前輪を大きく持ち上げると、敵に向かって踊りかかった。
大きな車輪の下敷きになるのを避けようと逃げ惑う敵に向かって、が銃を乱射する。


「くそッ!!しつっこいんだよ、退け退けーーッ!!」
「埒があかねえな、手ェ貸してやるぜ、!」

だが、敵は次々と館の内部から飛び出して来る。
一人に任せていては、館に侵入する前に日が暮れてしまうと踏んだジャギは、運転を片腕に任せると、もう片方の腕で己も敵に向かって掃射を始めた。

敵味方の叫び声、断末魔、そしてエンジンや銃や火薬の爆音のせいで、耳が次第に麻痺してくる。
状況は相変わらず多勢に無勢だ。
従っては、背後から追って来る一人の敵の存在に気付く事が出来なかった。
ハッと気付いた時には、もうその敵の雄叫びをすぐ真後ろに聞いていたのだ。


「このアマがぁ!死ねぇ!!」
「しまっ・・・」






思わず硬直した瞬間、の視界は壁のような何かに塞がれた。
大きな黒い影と、鮮やかな血の赤だけがはっきりと見て取れる。
やられたのだろうか。こんな所で倒れてしまうのだろうか。
そう思ったが、身体は何処にも異変がない。

「え・・・・・・?」

異変があったのは、目の前の『壁』だった。
ジャギの手下の一人、あの男だったのだ。
驚いてその大きな身体を見上げてみれば、長刀の一撃を肩に深々と受け、傷口から噴水のように血飛沫を噴き出している。


「あんた・・・・!」
「ヘヘッ、ちぃと遅れちまったが・・・・・、何とか間に合ったな。」
「い・・・良いから下がってな、殺されちまうよ!!」
「ヘッ、こんぐれえ屁でもねえ、ぜっ・・・・・!!」
「へべっ!!」

男は怪我をしていない方の手に持っていた大鉈を振り上げると、攻撃を仕掛けた敵の首を一刀のもとに斬り落とした。
男は『へへっ、どんなもんだ』と誇らしげに言うと、ジャギに向かって叫んだ。

「ジャギ様、東は片付けて来ましたぜ!追っつけ他の連中もここに!!」
「よし、良くやったぞハルク!」
「ここは俺達が引き受けやす、早く中へ!!」

早くも現れた次の敵と格闘しながら、ハルクと呼ばれた男は、血に濡れた顔に獰猛な笑みを浮かべて二人を追い立てた。

「恩に着るよ、ハルク!!」
「良いって事よ、早く行け!!!」

ハルクをはじめ、ジャギの手下達が開いてくれた道は、真っ直ぐ館の扉に続いている。
二人はそこを真っ直ぐに走り抜けた。









けたたましい音を立てて扉を突き破ってから、ジャギはようやくバイクを停めた。
奥から敵が出て来そうな気配は、今のところない。
もう殆ど外に駆り出されてしまっているようだ。
しかし油断なく構えながら、二人は館の奥へと進んでいった。


『死ねぇ!!』

二階へと続く階段が見えた瞬間、柱の影から二人の敵が躍り出て来た。

「遅え。」

だが、ジャギはいとも容易くその二人の銃口を掴み、床に叩きつける。
そして。

「ひぎ・・・・・ひ・・・・・げぎゃ!!」
「ぶべらっ!!」

頭や胸などを指で一突きしただけで、男達は爆竹を飲まされた蛙のように破裂した。
以前も見た北斗神拳の真髄、経絡秘孔。何度見ても惨たらしい死に様だ。
背中に冷たい汗が伝うのを感じながら、それでもは余裕の笑みを浮かべた。


「・・・・・・やるね。」
「朝飯前だ。雑魚は俺が薙ぎ払ってやる。お前は心置きなく仇を殺れ。」
「ククッ、頼もしいよ。」

敵になれば危険極まりない男だが、味方につけばこれ程心強い男も居ない。
は己の敵だけを見据えて、二階へと続く階段を上り始めた。








二階にある部屋の一際大きく重厚な扉、そこが恐らくオルガの居る部屋であろう。
そう踏んだは、ドアノブに手を掛けた。
だが。

「どうした?」
「鍵が掛かってる。」
「退け。壊してやる。」

小賢しくも鍵の掛かっているドアノブに、ジャギは己のショットガンを至近距離から浴びせ、ノブの吹き飛んだドアを乱暴に蹴り開けた。
大きく観音開きになった扉の奥には、精鋭の兵士であろうか、数人の男達とあの男が、こちらを油断なく見据えていた。


「あれか?」
「・・・・・ああ。」

久しく見ては居なかったが、忘れる筈もない、あの顔。
卑劣な外道の素顔を隠す、誠実そうなあの仮面。


決して劣らぬ気迫でもって、仇を睨みつけるの横顔を一瞥して、ジャギはその背を軽く押した。

「行くぞ。お待ちかねの獲物だ。」
「ああ。」


こうして対峙してみると、却って気持ちが鎮まっていくから不思議だ。
ようやく待ち焦がれた瞬間が訪れた事により、興奮が飽和状態に達したのであろうか。

はその一歩を、静かに踏み出した。




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後書き

う〜ん、やっぱりな!!
戦闘シーンがショボい!!難しい!!
あと二話程で最終回です、もう暫くご辛抱を(笑)。