ANOTHER HEAVEN 5




それから何の変化もなく、数日が経った。
建物の中は自由に動き回っても構わなくなったが、相変わらず外には一歩も出して貰えない。
毎日する事といえば、眠って飲んで食べて、あのヘルメットの男・ケンシロウとセックスする位だった。

だが、それでは余りに退屈だし、何より非生産的だ。
まだここが何処かも知らないし、連中が保有しているであろう武器の事なども知りたい。
いつか来るチャンスに備えて、情報を収集し始めようとは考えた。





階下のフロアは、真昼間にも関わらず数人の男達が暇そうに溜まっていた。
ボスの留守中だからか、酒を飲んだり博打を打ったりと、思い思いに羽を伸ばしている。
聞こえてくる会話はどれも次元の低い下劣な話で、男達の頭の程度が良く知れるものであった。

「馬鹿ばっかりだね、どいつもこいつも。」

しかし、こういう馬鹿な連中程、扱い易いというものだ。
男達の様子を上から覗いて笑いながら、はゆっくりと階段を下りていった。





「何だ、何か用か?」
「面白そうな事してるじゃない。あたしも混ぜなよ。」
「ケッ、何言ってやがんだ、男の博打にしゃしゃり出てくんじゃねえ!今大事なとこなんだ!」

五枚のカードを睨みながら邪険に手を振るモヒカンの男に近付いたは、男の手の中にあったカードをひったくると、ついでに男が座っていた椅子まで取り上げて、どっかりと腰を下ろした。


「おい、何しやがんだ!」
「まあ良いから、あたしに任せなよ。ふ〜ん・・・・・」

カードを見て考え込んだは、うち数枚をテーブルの上に捨て、新たなカードを捨てた枚数分だけ取った。

「ん・・・・・・、こんなもんだろ。あたしは良いよ。次はアンタの番だ。」
「ヘッ、面白ぇ。余裕こいてられんのも今の内だぜ・・・・・、見ろ!」

の向かいに座っていた男は、意気込んで己の手の中のカードを開いて見せた。

「フルハウス!どうだ!!」
「残念。あたしの勝ちだ。エースのフォーカード。」
「何っ!?」

が開いたカードを見て、目をひん剥く男。
一方、にカードを奪われたモヒカンの男は、掛け金代わりの食料や弾丸などを上機嫌でひったくり、に酒を一杯勧めた。


「やるじゃねえか!へっへ、儲かったぜ!」
「フフン、まあね。」
「おい、まだ勝負は終わっちゃいねえぞ!もう一回だ!!次は・・・・・そうだな、姉ちゃんよ、アンタの身体を賭けな。ヘッヘッへ。」

男は負けた腹いせに、とんでもない事を言い出した。
その途端、他の取り巻き連中も皆目の色を変えて賛成する。

「おお、そりゃ良いぜ!」
「こうしたらどうだ!?一勝負負ける毎に、服を一枚ずつ脱ぐ!」
「おうおう!そんで素っ裸になったら、その後は・・・・・、グヘヘヘヘ!」
「ハッ・・・・、ったく、どいつもこいつも不細工な面して盛ってんじゃないよ。」
「盛りもするぜ!毎晩毎晩堪んねえ声聞かされてるこっちの身にもなってみろよ。」

男達は葉巻の煙を吐き出して、厭らしい目付きでを見た。

何しろジャギは、このの事をいたく気に入っている。
お陰で、自分達はいつまで経ってもお零れに預かれない。
夜毎ジャギの部屋から聞こえてくるの喘ぎ声を聞きながら自慰に耽るのも、皆いい加減辛くなってきた所だったのだ。
鬼の居ぬ間に何とやら、ジャギの留守を良い事に、男達はすっかりその気になっていた。

ところが、当のは全く怯えもせず、モヒカン男から葉巻を奪い取り、それを吹かし始めた。


「ふふっ、知らないよ?ケンシロウにバレて殺されちまってもさ。」
「大丈夫だ!ジャ・・・ケンシロウ様は夜まで帰らねえ。お前さえ黙ってりゃ、バレやしねえよ!」
「さあ、早くやろうぜ!!」
「フ〜ッ・・・・・、ま、そう焦るんじゃないよ。お楽しみはゆっくりいこうじゃないか。」

だらしなく開いている男の口に葉巻を返すと、はおもむろに男の膝に座った。


「へえ、あんた良いモン持ってるじゃない。」
「お、お・・・・・・、ゲヘヘ・・・・」
「見せて。」

悩ましげな手つきで男の腰を撫で回すと、はそこに下がっていたマシンガンを手に取った。

「お、おい、何する気だ!?」
「何もしやしないさ。ただ見てるだけだろう?・・・・・・ふ〜ん、なかなか良いね。こんな物、何処で見繕ってくるのさ?」
「そりゃお前・・・・・、俺達に手に入れられないものなんて何もねえよ!大きな町なんかを襲ったらこんなモンぐらい、山のように手に入らあな。」
「へぇ、大したもんじゃない。」
「ヘッ、まあな。」

から銃を受け取って元通り腰に収めながら、男は得意げに言った。

ちょっと褒めればすぐこれだ。
こんな連中は怖そうななりをしていても根は単純、掌の上で転がす事など朝飯前。
ちょっとした演技にコロリと騙されて、母親に褒めて貰った子供のような顔をするのだから、何とも可愛いものではないか。

薄く笑ったは、更に男の顎やら胸板やらを撫で擦った。


「そんなに沢山あるの?」
「おうよ。地下の武器庫に腐る程あらあ。銃だけじゃねえぜ、ボウガンもナイフも、ダイナマイトに地雷だってある!お前さんが持ってた不良品の手榴弾なんか目じゃねえぐらい、威力のあるやつがな。」

そうか、何処かで見た顔だと思ったら、この男はあの荒野に居た中の一人だ。
一人納得しながら、は不意に男の膝から離れた。



― 地下か・・・・・

広いといっても、そう大きくはない建物だ。
地下への下り口を探すのは、大して難しくないだろう。

考え込みながらバーカウンターへ歩いて行くの後ろを、締まりのない顔をした男達がゾロゾロとついて歩く。
余程その下世話なゲームがやりたいのだろう。
は呆れつつも彼らを無視して、ラックから勝手に酒の瓶を取り出し、そのまま呷った。


「でさ、一つ訊きたい事があるんだけど。」
「おう、何だ。」
「ここ何処なの?」
「ここか?ここはセブンシーズの町だ。ジ・・・ケンシロウ様が治めておられる町よ。」
「セブンシーズ・・・・、聞いた事ないね。」

にそう言われた男は、当然といった風に頷いて答えた。

「元はチンケな町さ。けどよ、最近水脈が見つかったんだ。その噂をいち早く聞きつけた俺達が・・・・」
「乗っ取った、って訳?」
「ま、早い話がそうだな。そんな事より早くこっちに来いよ・・・・!」

もうこれ以上我慢出来ないのか、男達は鼻息を荒くしての手を引く。
その手をやんわりと解いて、は更に訊いた。

「そう焦るんじゃないって言ってるだろ?町の名前だけ言われたって分かんないよ。一体どの辺よ?」
「そんな事知ってどうする!?」
「訳も分からない所に閉じ込められているこっちの身にもなってみな!気味が悪くてしょうがないよ!」
「チッ、ったくしょうがねえな。ほら、これを見ろ。」

男は面倒臭そうに顎をしゃくって、壁に貼ってあった地図を示した。
一体誰が書いたのか、構図も文字も酷いものだが、大まかには理解出来る。

「良いか、ここがセブンシーズだ。」
「ああ、なるほどね。ふ〜ん・・・・・・」

感心する振りをして、は目を皿のようにして地図を見た。
このセブンシーズからずっとずっと南に行けば、あのサザンクロスがあるらしい。
だが知りたいのは・・・・・・


「・・・・・・・あった・・・・・」
「ん?何がだ?」
「別に。」

地図の右上、このセブンシーズからまっすぐ北にある小さな点を、はじっと見据えた。

地図には尺度など書かれていない為、距離は分からないが、要は方向さえ分かれば良い。
とにかく北に行けば良いのだ。



「オラ、もう良いだろ?早く来いよ!」

地図を射抜くように睨みつけるの手を引いて、男達は騒ぎ出した。

「くぅ〜〜ッ、ゾクゾクしてくるぜ!」
「オラ、早くひん剥いちまえ!」
「何しやがるこの野郎!!」

着ていた服を肩口から無遠慮に引き裂いた男に向かって、は怒鳴り散らした。

「脱ぐのはゲームで負けたらの話だろう!?」
「しゃらくせえ!もう待ってられるかってんだ!!こちとら何日もお預け喰ってんだ、ガタガタ騒ぐんじゃねえ!」
「ふざけんじゃないよ!」

露になった白い胸を片手で庇い、もう片手で男の手を振り払った時だった。




「テメェら・・・・・・、俺の留守に随分と楽しそうな事して遊んでんじゃねえか。」
『ヒッ・・・・・、ジャジャジャジャジャギ様!?』

突如開いた扉から入ってきた男の姿を見て、一同は潮が引くようにその場から一斉に後ずさった。
そう、ケンシロウだ。
彼らのボスである、ケンシロウが帰ってきたのだ。

「ジャギ?」

だが、何故『ジャギ』と呼ばれたのだろう。
ケンシロウというのは、偽名だったのだろうか。だが一体何故?

訝しそうに首を捻るを一瞥すると、ジャギはゆっくりと自分の部下達に歩み寄った。



「何してやがった?ん?言ってみろ。」
「い、いいいいいえ、別に何も・・・・・・!」
「ほう?ならなんであの女の服が破れてるんだ?」
「さ、さあ・・・・・、何ででしょうね・・・・?」
「何でだろうなあ。可笑しな話もあるもんだ。」

やけに穏やかな口調で言うと、ジャギは不意に目の前に居た男の頭と股間を鷲掴みにした。

「ひぃっ!!や、やめて下さいジャギ様・・・・・!!」
「俺の命令が聞けねえ馬鹿はコイツか?それともコイツか?」

そう言いながら、ジャギは片方ずつ手に力を込めた。
下手な事を言えばどちらか片方が、最悪両方が握り潰される。
滝のように脂汗を流しながら、男はただひたすらに命乞いをした。

「も、申し訳ござやせん・・・・!つい出来心で・・・・!もう二度としませんから・・・・!」
「さてどうだかなあ。口で言っても分からねえ奴には、身体で分からせるしかねえだろう?」
「た、助けてジャギ様・・・・・・!!」

情けなく涙目になりながら必死で許しを乞う男を見て、はふと思いついた。

ここで見殺しにするのは簡単だが、助けてやれば後々何かと役に立ってくれるかもしれない。
少なくとも大きな恩を売れるのだ。その可能性は高い。


「そんなカス放っておきな。」
「テメェは黙ってろ、。」
「フン、なにさこのホモ野郎。男とじゃれてる方があたしと寝るより楽しいっての?」

誘うような眼差しをジャギに向けて、は胸を隠していた手を僅かにずらした。
その隙間からちらりと見えた桜色の乳頭に、男達はごくりと生唾を呑む。


「・・・・・ったく、その口汚さ、何とかならねえのか。」

ジャギは憎まれ口を叩きながらも、男を無傷で放してやった。
その瞬間、男は脱兎の如く部屋の隅に逃げ、はしてやったりとほくそ笑んだ。

「お生憎。口の汚さをアンタにとやかく言われる筋合いはないね。」
「チッ、まあ良い。来い。」

の腰に手を回して、ジャギは階段を上がっていった。
その腕に大人しくしな垂れかかりながら、は階下に向かって口元を吊り上げてみせる。
残された男達は、その様をぽかんと見送った。

「・・・・・堪んねえなチクショウ・・・・・」
「またお預けか、クソッ・・・・・・、いつになったら俺達の番が来るんだ?」
「あの様子じゃ当分無理だろう。」
「ああ、信じられねぇぜ・・・・・・」

あの無慈悲で短気なジャギが一度怒れば、相手が死ぬまでその怒りは治まらない、筈なのに。
の一声で、それがいとも容易く治められたのだ。
男達が我が目を疑うのも、無理はなかった。

は確かに良い女の部類には入ると思うが、それ程に素晴らしいのだろうか。
あのジャギを虜にする程に。


『ああ、堪んねえ・・・・・・』

邪な想像はますます膨らみ、男達は揃って溜息をついた。




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後書き

ヒロイン、姐さんになる、の巻でした(笑)。
こういう悪党キャラって、ちょっとボケてる方が可愛くて好きです。(何)
それにしても今作は、どいつもこいつも柄の悪い言葉ばかり話すので、書くのが楽です(笑)。