夏を調子よく過ごし秋に入ったころ、かあちゃんはあることに気づいた。
 ゆーさくが夜、いびきをかいて寝るようになっていたのだ。
 とうちゃんもいびきが酷い人なので、「さすがとうちゃんに似て・・・親子でいびきかいな」とかあちゃんは呑気に思っていた。
 
 ところがゆーさくのいびきは、日々徐々に酷くなっていく。
 最初は「ガーガー」といういびきだったのに、その内「ガッ、ガッ、ガッ、ガー」といびきの音は途切れ途切れになるようになった。
 さらに、寝起きのゆーさくはいつも顔を真っ赤にしていて、全身汗だくになるようになる。
 
 一度、主治医に「最近えらいいびきをかくようになってきたんですけど・・・」と相談した。
 そのとき主治医は「昼間のゆーさくさんの様子はどうですか?寝てばかりということはないですか?」と聞く。
 かあちゃんはその当時はそんな昼間保育園で毎日楽しそうに遊んでいて昼間の活動性が低いということはあまり感じていなかったので、「いや、そうでもないです」と答えた。
 「いびきをかいてゆーさくさんが夜あまり寝れていないようならば考えなあかんけど、昼間元気そうならだいじょうぶかな」と主治医は言った。
 かあちゃんは「そうかあ」と納得した。

 しかし、その内夜だけでなく、昼間のちょっとした昼寝などにもゆーさくはいびきをかくようになる。
 夜は部屋が暗いのでよくわからなかったけど、いびきをかいているときは顔色が悪いような・・・。
 
 そんなさなか、主治医の定期診察の時、待合でゆーさくはいびきをかいて寝始める。
 診察室に呼ばれたとき、ゆーさくは立派ないびきをかいていた。
 診察室に入る。
 いびきをかき寝ているゆーさくを見た主治医は「完全に舌根沈下がおこっている・・・」と少しあせった様子で言った。

 主治医からこの時初めて舌根沈下についての説明を受けた。
 睡眠時、体の力が抜けたときに舌をコントロールする周りの筋肉の力も低下し、舌の根元が気道や食道に垂れ込み、気道を塞ぎ(上気道狭窄)、呼吸困難を招く、といったことであった(詳しくは・・・病気・障害−呼吸に関すること舌根沈下へ)。
 かあちゃんは、そうなんだぁ・・・と主治医の説明に納得。
 このとき別に新たな障害判明にたいするショックはかあちゃんにはなかったように覚えている

 なにしろ生まれつきゆーさくはミルクや食べ物飲み物を口から食べないのである。
 生まれたその日から、人は母乳やミルクを飲み、また言葉をしゃべることで、1日舌をよく使っている。
 口にものが入るのを拒否し続けてきたゆーさくは1日に何分舌を使っていたのだろう・・・。
 舌根沈下の確かな原因は、専門家でないので分からないけれど、素人なりに考えても、ゆーさくの舌や舌周りの筋肉の機能の低下―舌根沈下はかあちゃんにはすぐ理解できた。

 「舌根沈下への対応は要は気道確保です。ゆーさくさんにはとういう方法で対応するのがベストなのか、ちょっと調べさせてください」と主治医はいった。
 とりあえず、その日の診察後のリハビリでPT大ちゃん先生に、ゆーさくをうつ伏せ(腹臥位)で寝させるように指導を受けた。
 バスタオルをゆーさくサイズに丸めた抱き枕のようなものをつくり、ゆーさくを腹臥位で寝さすのだ。
 腹臥位をさせ、顔を下向きにすると、舌は気道方向へ垂れ込まず、重力により下向きの前歯の方向へ垂れるのである。

 うつ伏せ寝により、夜はなんとか暫時舌根沈下による呼吸困難はしのげるようになる。
 しかし、眠りが浅くなりゆーさくが起きかけたとたん、筋緊張が入り、ゆーさくの腹臥位は崩れることがおおかった。
 一番困ったのは、昼間の車での移動中だ。
 チャイルドシートに座らせての移動なのだが、ゆーさくが寝てしまい舌根沈下を起こし始めても、運転中の私はどうしようもない。
 「ガッ、ガッ、ガッ」というゆーさくのいびきを背に運転しなければならなかった。
 酷いときは、バックミラーでみるゆーさくがチアノーゼを起こしていることもよくあった。
 病院などの目的地につくと、ゆーさくはいつも汗だくになっていたし、かあちゃんも冷や汗をかいていたのであった。


                                                       
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