舌根沈下A
主治医はすぐに対策を考えてくれ、次の診察の時には機材の手配をしてくれていた。
「ネーザルCPAP(シーパップ)という鼻にマスクをつけ気道に強い空気圧をかけ、気道を確保するやり方をやってみましょう。最近、小さくて軽いCPAPの機械がいろいろでていますし」
機械の到着予定日にあわせ、かあちゃんはゆーさくの入院の段取りもする。
こうして、舌根沈下によるネーザルCPAP導入目的の入院を向かえた。
用意されたネーザルCPAPは分厚い辞書くらいの大きさで、とても軽かった。
品名や型番の他に”VENTILATAE”と書いてある。
「ベンチレータ?」かあちゃんがおぼつかない発音をすると、主治医が「呼吸器だよ」と苦笑いをした。
「へぇ、こんなんでも呼吸器なんですね」とかあちゃんはいったのだが、内心は少し複雑な気持ちになる。
”酸素療法に人口呼吸器かぁ・・”とはいえ、たいそうな呼吸器ではなく、おもちゃのような機械だったので、ゆーさくが人工呼吸器を使っていると人に言うには、本当に呼吸機能の低下により人工呼吸器を使っている人に申し訳ないくらいであった。
このネーザルCPAP導入で、一番主治医がてこずっていたのは、ゆーさくに合う鼻マスクがない、ということであった。
段々大きくはなってきているけれど、0歳くらいのころのゆーさくは脳の萎縮が起こっていて、頭囲が小さいのである。
鼻全体を覆う三角形のマスクをヘッドギアで固定するのだが、メーカーさんがいろいろ探して着てくれたにもかかわらず、ゆーさくに装着すると、どのマスクも口や目にマスクの端がかかってしまい、空気圧がそこから漏れかけたりする。
ヘッドギア自体も私がゆーさくにあわせ、ベルトを縫ったり輪ゴムで止めたりなど、少し工夫が必要であった。
鼻マスクに関しては、主治医も他の病院の先生などに聞いたりして調べてくれることになり、使いながら調整していくこととなった。
ネーザルCPAP導入の効果は・・・
びっくりするくらい、ゆーさくのいびきは一気になくなった。
さらに、舌根沈下だけでなく、ゆーさくの体の他の機能にも劇的な効果を得る結果がでたのであった。
何時ごろからかはよく覚えていないのだが、ちょっとした風邪などで血液検査をするたびに主治医が「血中CO2の値がすこし高くてあまり良くないんですよね」といっていた。
血中CO2の値が高い、ということは、肺でうまく酸素と二酸化炭素の交換ができていない、つまりは呼吸状態があまりよくない、ということである。
即治療が必要というほどの悪い値ではなかったので、様子を見ていた。
ところが、ネーザルCPAPを使い始め、数日後に調べた血液検査の結果で血中CO2の値がすこっとよくなる。
また、主治医曰く、聴診するとネーザルCPAP装着中は胸の音がとてもよくなるし、聴診をしなくても胸の胸郭が広がってきたのである。
ネーザルCPAPは気道に空気圧をかけるのだが、気道の先は肺であり、肺にも空気圧をかけて肺を強制的に広げていることにもなる。
思わぬ相乗効果であった(とはいえ、理屈上では当たり前のことなのだけど)。
主治医は「入院中は夜だけでなく昼も一日中CPAPを装着しておきましょう」といった。
呼吸リハビリをする大ちゃん先生もびっくりしていた。
しかし、「ゆーさくがCPAPを使ってこれだけあからさまに肺の状態が良くなるということは、結局今までのゆーさくの肺の状態ってあまり良くなかってことだね」と大ちゃん先生はいった。
とうちゃんもかあちゃんも”そっかあ、ゆーさくはやっぱり肺機能がまだまだ未熟だったんだな”という現実を改めて知らされたのであった。
ネーザルCPAPを導入し1週間くらいたって、退院して家に帰ることになった。
おもちゃのような機械だけど、一応我が家にとってははじめての在宅人口呼吸管理が始まったのであった。
退院と同時に、大ちゃん先生の提案もあり、外来のリハビリで食事指導で嚥下訓練を行うことになった。
それまで、C病院で食事指導を受けたことはあったが、そこでは誤嚥を理由に殆ど口からは何も食べさせていなかったし、さらにC病院は1年ほどで通院をやめてしまっていた。
その後は家でひたすら何かをなめさせる程度にしかゆーさくの口には刺激を与えていなかった。
B病院での嚥下訓練を開始することで、寝ているときの舌根沈下はネーザルCPAPでしのぎ、昼間はもっと口や舌を使う機会を増やそう、ということになったのだ。
舌を使う機会を増やすと、舌のコントロールができるようになるかもしれない、そうなると舌根沈下も多少は改善されるかもしれない、という淡い期待であった。
大ちゃん先生のリハビリ、認知運動療法の考えに基づいた嚥下訓練を開始した。
気管切開へのきっかけへ
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