脳性麻痺について、麻痺の原因となる脳の疾患(ゆーさくの場合はPVL脳質周囲白質軟化症)そのものは、進行性の病気ではない。
 しかし、ゆーさくの誤嚥や舌根沈下などのように、体が麻痺して動かせない為に起こる障害は、どんどん程度が酷くなっていく。
 使わない使えない体の機能は低下していくのであり、それを2時障害という。
 もっともよくあることとして、異常な体の筋緊張による異常姿勢により、背骨がゆがみ(側湾)内臓に悪影響を与え、呼吸障害や消化器障害を発生することなど、よく聞く。
 その2次障害は成長とともに月日がたつにつれ顕著になっていく。
 
 正直、ゆーさくはまだその当時2歳にもなっていなかった。
 こんなに幼くても2次障害は発生するのか・・・。
 体の麻痺で口や舌が使えないということは、食べることだけでなく呼吸にもかかわってくるのか・・・。
 かあちゃんはびっくりした。
 と同時に、かあちゃんは、もっと食べ物や飲み物の経口摂取に積極的に自分から取り組んでいれば、舌根沈下の発生を遅らすことができていたかもしれない、とかなり悔やんだ。
 
 単にゆーさくの心身の発達にとうちゃんもかあちゃんも目が行きがちだった。
 もっともっと、呼吸することや食べることなど、生活の生理基盤の発達に気を配り、対応をしないといけなかったのだ。
 数ヶ月前に、嘔吐物をのどに詰まらせて大変な目にあったというのも、まだまだ考え方が甘かったのだ。

 話は少しさかのぼる。
 ネーザルCPAP導入を主治医に初めていわれたとき、気管切開の話を聞いていた。
 以前、嘔吐物をのどに詰まらせたときだったか、雑談か何かで脳性麻痺の子の気管切開について主治医の口から聴いたことはあった。
 そのときはまだまだ年単位でかなり先の話でゆーさくさんも可能性があるかも・・・というレベルであった。
 しかし、年単位でかなり先の話ではなくなっていたのであった。
 「今はCPAPがうまくいきそうなので頭の一部くらいでとどめておいてほしい話ですけど、舌根沈下の上気道狭窄が出てきたということは、ゆーさくさんの今後に気管切開の選択肢の割合がかなり出てきたということでもあります。
 数ヶ月前に嘔吐物を詰まらせかけるようなトラブルも起こしていますし。
 気管切開は気管の病気や奇形ならばいずれ閉じることができる場合があるけれど、ゆーさくさんのような脳性麻痺の気管切開は一生閉じることはないと思って下さい。
 だから、今すぐに手術というわけでなく、頭の一部にインプットしておくだけでいいです。徐々に考えるべきことなので・・・」
 主治医からそう説明を受けていたのだった。

 気管切開は、NICUにゆーさくがいたときに、知っていた。
 長期NICU入院していた重度の子が気管切開をしていている姿やケアされている様子など、とうちゃんもかあちゃんも毎日見ていた。
 喉に穴を開け、気管用の管をいれ、そこで呼吸をする・・・確かに、舌根沈下で上気道狭窄をおこしているゆーさくにとって、気管切開は根本的な解決方法に思える。
 しかし、正直、NICUを半年もかからず退院し、経管栄養ではあるけれど普通に在宅で生活をしてきたので、ゆーさくがその子達のように重度の障害児だとは思えなかった。

 そして、ネーザルCPAP導入の入院。
 とうちゃんとかあちゃんは主治医と時には大ちゃん先生を巻き込んで、気管切開について話し合うことができた。
 かあちゃんは、主治医と話し合うにつれ、”やっぱり舌根沈下の根本的解決には気管切開がいいんだろうな、嘔吐物窒息の危険も減るし・・・”と思うようになる。
 なにしろ、数ヶ月前に嘔吐物を喉に詰まらせ、腰が抜けるほどの恐怖を味わい、さらにはこういう危険が今後もありえる状態なのである。。
 しかし、やはり”ゆーさくに少しかわいそう・・・ゆーさくはそこまでしないといけない重症児なのか・・・”そして”気管切開後の在宅生活は、医療ケアによりどう変わるのか全く想像がつかない”など、かあちゃんにはイマイチ積極的に気管切開を受け入れます、とはいいがかたかった。
 とうちゃんは「ゆーさくの喉に穴をおけるなんて・・・見た目がかわいそうだし、声がでなくなるのはいやだ。それにCPAPと嚥下訓練で何とかなる可能性がすこしでもあるならばそれにかけてみたい」と大反対。
 主治医には「徐々に考えてください」と言われたが、とうちゃんとかあちゃんにとっては、それぞれがとても大きな大きな考え事悩み事になってしまった。

 こうして、ゆーさくのいびきをきっかけに、またもやゆーさくの障害の実態にとうちゃんもかあちゃんも局面することになった。
 結局は、舌根沈下をきっかけに在宅人口呼吸管理が始まっただけのことであり、退院後の日常生活は今までどおりであった。
 夜に鼻マスクをつけCPAPを稼動させるだけのことである。
 腹臥位で寝させたりなどの手間がなくなった。
 とうちゃんもかあちゃんもいつもどおりの生活をしていたのだけど、それぞれが心の中では気管切開への決断というお荷物を抱えることになったのであった。

気管切開へのきっかけ

ドライブの1コマV
景色の良さ、空気の良さを
ゆーさくも感じたかぁ?