◆【第一日(5月3日)の記録】
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◆【第二日(5月4日)の記録】
昨夜の風雪は夜半には収まったようだが、天候は朝になっても芳しくなかった。
それでも時間が経てば槍沢を上がってくる人はいるし、雪が緩むのを待って滑って行くスキーヤーもいる。
我々はというと無理はせず、早々に今日は停滞日と決めてのんびり。
朝食もほぼ最後だったような・・・。
8時のチェックアウトに合わせ寝床を開けると、今日のチェックインを済ませた。
昨日は雑魚寝、二段ベッドの一階部分だったが、今日は二階の談話室の隣に位置する畳部屋。窓を開ければ大槍の姿や槍沢、常念もすぐ見ることのできる特等室?
連泊すると一人1,000円引きの特権にもあやかり、お陰で昨日買ったワイン代、2,200円が浮いた勘定になった。
そういえば去年の槍沢ロッヂもそうだったかも。
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小槍 |
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槍ヶ岳山頂 |
今日は連休二日目とあって昨日上高地から入山、槍沢ロッヂ泊まりだった人たちが続々上がってくることが安易に想像できた。
時おり見え隠れする槍沢を見下ろせば、案の定、悪天の中、黒い人影が途切れ途切れの黒い線となって続いているのが見える。
スキーを携え出掛けることは早朝にして諦めていたが、今回の山行での目的のひとつでもある山頂に足を向けることは諦めてはいなかったので、まだあまり人の上がってきていない時間帯に山頂へと向かうことに。
小屋前でそれ用の準備していると昨日、槍平で出会っていた三人パーティーとここで再会。
昨夜、3,000メートルの稜線は強風だったが、中崎尾根のテン場は風もなく快適だったとか。なかなかスピーディーな行動。
この時季、槍の穂先へのルートは予想以上に難しく、岩と氷と雪のミックスで緊張の連続だった。
アイゼン、ピッケル、ハシゴ、クサリ、どれもフルに利用して緊張しまくりで登り、(あ)。と二人、13年ぶりに無事、槍ヶ岳登頂を果たした。
山頂では肩で再会した彼女ら三人と、五人だけだった。
穂高方面は全く見えなかったが他の方面は時おり展望が利く時間帯もあり、それだけでも見えれば上出来。
それなりに楽しんだら天候が変わらないうちに下山しよう。
一般的には下りのほうが恐怖感が強いようだが、自身は登りのほうが怖さを感じた。
よって、下りは意外とスムーズに下山でき緊張感から解き放たれた。
解き放たれたといえばこの後起こった出来事もそのうちだった。
その後の行動をどうするか思案していた矢先、とりあえず偵察がてら飛騨乗越まで行ってみようとテント場方面に歩み出してしばらくして、誰やら我々の背後から一人の人が着いてくるのに気付いた。
「ま〇〇〇さん〜?!」(岡山、津山弁で)
ふと見ると、今年何年かぶりに大山で二度ほど会った長〇さんじゃないですか。
「え〜っ。」
こんなところで遭うとはびっくりです。
他三人と4人で来られたらしく、本来なら昨日のうちにここまで来るつもりが、昨日は槍沢ロッヂ泊まりで、今日上がってこられたらしいです。
それにしても待ち合わせをしてもそんなに上手く落ち合えないのに、ましてやこんな大自然のこんなところで前後して歩いているなんて、奇遇もいいところですね。
氏とはテント場で別れ、我々は飛騨乗越まで行っては見たものの状況は好転せず、どこを滑ることなくスゴスゴと小屋へと舞い戻りました。
あとは、のちに到着された同行の三人の方も含め、解放値マックス状態で小屋内で楽しいひと時を過ごさせていただきました。
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入り口に置かれたスキー |
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談話室のクライミング・ウォール |
辺りが暗くなった頃、部屋の窓を開けると星空の下、大槍が天を突き聳えている。
写らないのは百も承知でストックを三脚代わりに星空撮影に興じたが、さすがにそんなに甘くない。
風のせいもありブレブレでダメ。さっさと諦め、明日の朝に期待することにした。
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◆【第三日(5月5日)の記録】
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中岳、南岳へと続く稜線越しに穂高連峰を望む
右のピークの彼方に、わずかに乗鞍岳が見える |
昨夕からは降雪をみた。
4時前、目をさまし窓の方に目をやると、その雪も止み絶好の天気だ。
これはじっとしていられない。
部屋を出ると山口から来られていた同部屋の方が、すでに下山準備をされていた。
少し前から階下では玄関のドアを開け閉めする音がしていたのは気付いていたが、ここに来て一階が更にあわただしい。
ほとんどの人が我れ先にと穂先へ向かう準備をしているんだ。
パーティーによればザイルで体を確保して登頂するようだから自ずと渋滞しやすく、日の出の時間に間に合わないことを懸念してリーダーが急かし気味に準備させている。
「それで大丈夫なのかな〜?」
そんなパーティーに限って年輩の方中心なので余計に不安にならなくもないが、こちらは全く関係のない彼らとは反対方向の大喰岳へ。
こちらは渋滞知らずどころか、すべすべで真っ白な斜面を新雪ラッセルしながら下る。
飛騨乗越で左右を見下ろせば、槍沢も飛騨沢もきれいに新雪パックされ真っ白で美しい。
今回の山行では目的がいくつかあった。
ひとつは、昨日のうちに果たした大槍登頂で、もう一つは大喰岳から大槍を見ること。
欲深く他にも目的めいたものはあったが、今日の天気は昨日までとは打って変わり風もなく穏やかで、絶好のチャンスに巡りあえ、当面の大喰岳からのそれは期待以上のモノとの予感で気分が高揚する。
とはいえ気温はかなり下がり、山頂へと続く雪稜は否応にも緊張を強いられる。
岩稜とのミックス帯ではなおさらで、決して油断はできない。
飛騨乗越で一緒になった青年と相前後して細い岩稜帯をこなし、二度、段を乗り上げると広い大喰岳山頂部に着いた。
眼前には中岳へと続くたおやかな稜線の向こうに横たわる、穂高連峰の黒々しい岩峰群が目に飛び込んだ。
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大喰岳の雪原と穂先 |
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常念山脈の彼方から陽が昇る |
焦がれていた景観は予想を遥かに超えるもので、この景観は「素晴らしいっ。」の一言に尽きる。
Amazing!!
これら以外の言葉は見つからない。
昨日、槍の穂先から穂高方面の展望は皆無だったので、ここから穂高を眺めるのも13年ぶり。
常念山脈の彼方から昇った朝日が雪原を照らし見事な光景を演出する。
振り向けば槍の穂先に立っている人も確認できる。
きっと、そこからも素晴らしい景観でしょう。
笠ヶ岳や弓折岳、双六、三俣蓮華や黒部源流の山々、西鎌尾根も純白の化粧で眩く輝く中で、指呼の距離の穂先だけは黒々として天を突く。
唯一、異彩を放っているところが、いかにも北アの盟主にふさわしい。
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黒部源流の山々と右端上部に立山 |
展望を楽しみながら小屋に戻ったら遅い朝食を摂った。
前日、長〇さんチームと今日の行動を共にする約束をしておいたが、あいにくキャンセルされたと(あ)。から聞いて、ちょっと残念だった。
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小屋前で鯉のぼりとともに記念撮影 |
槍沢は、すでに何人かのスキーヤーが滑るのは見ていたが、ここでは何が凄いって、エッジがアイスバーン状となった雪面とらえる音。
「ガ〜〜ッ、ゴ〜〜〜ッ!」
ターンの度にジェット機でも飛来したかのような轟音が谷に木霊する。
裏を返せば「滑ってますよ〜。」って大きな声でそこかしこの人たちに振れて回ってるようなもので、ある意味注目度は抜群。
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槍沢を滑る |
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大槍をバックに槍沢を滑る |
「そりゃ〜っ!」
8時前、大槍をバックに槍沢ドロップ。
滑りだすと当の本人にその轟音はほとんど聞こえず、それはさながら暴走族のバイクの残響音のようなもので、周りにばかりうるさいだけのようだった。
で、滑りはというと・・・、「う〜〜っ、ガリガリだっ。」
これでは去年のリベンジは果たせたかどうか微妙。所詮、こんなものかも・・・。。
早々に切り上げ、飛騨乗越へハイクアップ。
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巨大三角錐の大槍を振り返る |
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飛騨乗越より大喰岳へ |
槍の肩からの行動ルートはいくつかあった。
大喰岳南東カールはもちろん横尾尾根も真っ白で、雪の天狗原からの槍も見てみたい。
本谷カールも手の届きそうなところにあり、西面にも狭いながら大喰沢や中の沢の雪が繋がっていることは登る際、確認済みで、滑ろうと思えば滑れなくはない。
滑る気ならどこでも来いってこと。
しかし、そんな行動力を持ち合わせているはずもなく、昨日停滞したことにより涸沢方面に向かうことも諦め、大喰岳から中岳へ稜線を縦走した後、南沢を滑走して下山することにした。
大喰岳への登りでは飛騨乗越から飛騨沢に滑り込むボーダー、スキーやが、槍沢と同じようにけたたましい音響とともに滑り降りて行くのが見える。
少し下れば「大滑降」出来るはずだ。
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大喰岳にて |
朝日の昇り切った大喰岳からの眺望は、これはこれでもちろん素晴らしい。
脆弱な表現力しか持ち合わせない自身には到底、上手く表現できないが、このあと中岳までの縦走は「さすが3,000メートルの縦走路。」を地で行く至上の展望を得ながらの縦走路だった。
強いて表現しても、「自らの足を持ってこの場に来て、実際にこの光景を見てみてください。」
こうしか言えなさそう・・・。
中岳直下は45°くらいありそうな雪壁で、先行者のステップがありがたかった。
山頂直下のハシゴは出ておらず、ステップ通しに登り上げると穂高がずいぶん近くになり、またまた素晴らしい。
口を付くのは、兎にも角にもこの言葉しかない。
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大喰岳と大槍 |
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圧巻の山岳風景 中岳山頂 |
ここからの展望も大喰に負けず劣らず素晴らしく、遠くは乗鞍や御嶽までも見晴るかせる。
西には笠ヶ岳が秀麗な姿で居座り、山頂部の彼方に白山が亡霊のように白く浮かぶ。
弓折岳へとハイクアップする人影も確認でき、鏡平の台地も真っ白で美しい。
南岳へと続く稜線上には横尾尾根から上がってきたパーティーだろうか、こちらに向かってくるのが見える。
今日の上天気、歩行もはかどるだろう。
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錫杖岳〜笠ヶ岳をみて中岳山頂より滑る |
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穂高連峰を正面に南沢へと滑り込む |
南沢の源頭部に雪が少なく真っ白でなかったことは意外だったが、いよいよここから今回のメイン・イベント、滑降の始まり、始まりぃ〜。
相対に西斜面は季節風の風当たりがきつく雪が着きにくいとしたものだが、これだけ受けた形のカールなら西面でもそうではないものとばかり思っていたが、自然はそう甘くはなく現実には、なだらかな地形の源頭部でさえ岩がかなり露出していた。
目視してある程度ルートを確認したら、まずは源頭のコルまで滑る。
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南沢源頭を滑る |
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テレマークで南沢へと滑りこむ |
何という贅沢。 心配していた雪質も問題なく、穂高を正面に滑る気分は、もう最高っ。
コルで先ほど来、中岳山頂から見えていた縦走パーティーと短く話したら南沢へと滑り込む。
このパーティー、あくまで縦走パーティーだからか、ここを下ること自体が想像できないようで、こちらの行動をかなり不安げな目で見ていたらしい。
南沢は一抹の不安だった雪切れもなく最高の斜面が広がっていた。
実はこの斜面も、かつて槍平から南岳、天狗原に行った際、良さそうな斜面があるもんだ・・・、と目には留まっていた。
その時はもちろん雪はなかったが、今、雪の着いたその斜面を滑ってみると、見た目以上の快適さに感激するばかり。
穂高が西尾根に隠れると、今度は笠が出迎えてくれた。
南岳西尾根を登る二人と大きく合図しあったら、シュプール皆無のカールを二人貸切りで核心部へと滑る。
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ルンゼ上部よりアワーシュプールと南岳を見上げる |
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槍平より中岳、南岳、北穂高岳を見上げる |
ルンゼのデブリもさほど気にならず、どんどん下る。
最後は右に逃げ林を抜けると長躯、槍平に出ることができた。
夏道で南岳から槍平まで2時間以上かかったこのルートも、中岳からでも、わずかに30分ほどで槍平まで下っていた。
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槍平からは再会した長〇さんチームとともに下った |
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たっぷり雪の残る滝谷も春の陽光にあふれていた |
槍平は梓川の谷筋のどこと比べても、それ以上にとってもいいところだ。
滝谷の岩壁を見上げながら木陰で最後の昼食とした。
そんなとき飛騨沢を次々下ってくる中に長〇さんチーム発見。
もしやとは思っていたが、またまた見事に再会。
新穂高まで、ほぼ同行して下山した。
滝谷出合から沢沿いを下り、ブドウ谷を下った辺りで左の尾根に取り付き白出を目指す。
前回の日帰りの時ほどではなかったが、ここから白出までのルート取りは難しい。
白出沢でジャンダルムを見上げたら林道歩き。
てっきりスキーは使えないと思っていたら林道には雪があった。
二日前のことをすっかり忘れていたことが悲しかったり、少しは楽ができて嬉しかったり・・・。
除雪終了地点からは林道を歩き、穂高平で山を見上げると青空に映える槍〜南岳稜線が見えた
林道歩きは退屈だ。飽き飽きした頃、ようやくロープウェイが見えてきた。
中崎山荘まで車を回収し、のんびり風呂に浸かったあと家路に着いた。
飛騨清美までの電光板に脅され東海北陸道を北陸道周りで帰路に着いたが、渋滞に遭わないながらも帰宅したのは夜中、2時になっていた。
いよいよ今回が(あ)。と出向く最後のビッグツアーだったかもしれないが、将来、余韻に浸るには余りある山行だった。
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