北アルプス・新穂高から槍ヶ岳・飛騨沢滑降

西鎌尾根や裏銀座の山々をみて飛騨乗越より飛騨沢へ滑り込む(あ)
◆【山行日時】 2011年5月5日
□5月4日

新穂高駐車場〜穂高平避難小屋

□5月5日

穂高平〜滝谷出合〜槍平〜飛騨乗越〜槍ヶ岳の肩〜飛騨乗越〜槍平〜白出出合〜新穂高



◆【第一日(5月4日)の記録】

今朝、自宅をのんびり出発してしまったためか、高速で長蛇の渋滞に引っかかってしまい高山に着くまでにえらく時間が掛かってしまった。

高山に来たら必ず立ち寄る『えびすそば』で腹ごしらえをし、コンビニで食料調達して新穂高へと向かう。

飛騨高山、『ゑびすそば』の天ざる
飛騨高山、『ゑびすそば』の天ざる

新穂高までは順調に走れたものの、駐車場に着いたのは17時。

準備をして入山届を提出。バスターミナルを歩き出したのは17時半を回ってしまっていた。

右俣林道を歩くようになると時折、正面遥か上方に南岳の獅子鼻が見える。

明日はあの高さまで行って、帰ってこないといけない。

不安いっぱい薄暗くなった林道を歩くと、今日その方面から下山してきた何組かのスキーヤーと出会った。

ずいぶん疲れた様子に見えたので、不安がよぎる・・・。

穂高平には19時前に到着。明るいうちに着くことができて、やれやれだった・・・。




◆【第二日(5月5日)の記録】

起床は3時。出発は3時半の予定だった。

滑りに不安のある二人だから、遅くともこれくらいに出発しないと明るいうちに戻れないと踏んだ。

前日のうちに穂高平まで入ったのも、このあたりに不安があったから。

ところが
「父さん、大変や 4時20分やで〜。」

寝過ぎてしまった。

結局、スタートは5時。焦っても仕方ないのでマイペースで歩き出す。

キレットや中岳、南岳方面を見上げながら右俣林道を行く
キレットや南岳、中岳方面を見上げながら右俣林道を行く

しばらくは林道に雪がなかったが、やがてシール歩行できるようになる。

柳谷を横切る際、一度板を外すも白出沢を渡るまでシール歩行。

このあとは右岸を少し登り気味に付けられた夏道に従うため、短いながらスキーはザックに背負う。

適当なところから右俣谷の河原へ滑り降りたら、そのまま左岸を行く。

雪はしっかりあるものの本流の流れは轟々としていて、斜面が迫っている個所では樹木に邪魔された形で、やや歩きづらい。

朝の冷気に冷やされた雪に苦戦しながらも、ごまかしごまかしここまでスキーで歩いてきたが、チビ谷のデブリ攻撃にあえなく降参。

ツボ足に変更。

滝谷出合で北穂を見上げたら、またまたデブリランドを越えて細くなった谷筋を槍平へと向かう。

デブリさえ乗り越せば、再度シール歩行できる。ここは夏道よりも沢芯気味を歩けるので意外に楽チン。

北穂高岳、涸沢岳と蒲田富士
北穂高岳、涸沢岳と蒲田富士
(帰路写す)

南沢を右に見上げるようになると、やがて槍平に到着。

槍平は夏や秋に来ても別天地のように感じる、とても雰囲気の良いところだが、積雪期には南に滝谷、西に中崎尾根を至近に望む雪原と化し、さらに素晴らしい場所に変貌。

時間的に、ここでようやく半分ってところ。

しばらく休んだら、のんびりしたい気持ちにむち打って先を急ぐ。

槍平からは、はじめ緩やかに高度を上げる。

振り返ると北穂高西面が見事な景観で横たわっているのが見え、正面の中崎尾根の斜面に点在するダケカンバが見事な景観を造りだす。

ただ、登っている最中、目の前に見えるのは中崎尾根くらいで、目的の飛騨沢の全容すらなかなか姿を見せてくれない。

人工的にも見えるデブリ帯を過ぎる辺りから傾斜が増す。

中崎尾根、奥丸山と乗鞍岳 中崎尾根上部と千丈沢乗越のピーク
中崎尾根、奥丸山と乗鞍岳 中崎尾根上部と千丈沢乗越のピーク

中崎尾根が近くに感じられるようになり振り返ると、ようやく乗鞍が見えてくる。

それでも現在地は右に見える奥丸山よりも低そうだから、まだまだ・・・。

残念ながら正面に見える中崎尾根と西鎌尾根の合流点、千丈沢乗越がなかなか下がってくれない。

緩やかに谷を回り込むと飛騨沢の全景を望めるようになり、槍の小屋の姿も遥か上方に確認できるようになったが、それでも千丈沢乗越の高さまでまだ達していない地点だ。

飛騨沢全景(右の鞍部が飛騨乗越)
西鎌尾根と飛騨沢全景
左が西鎌尾根、右の稜線上の鞍部が飛騨乗越
中央の岩場に肩の小屋がある

正面遥か上方に飛騨乗越らしき地点は見えるものの、そこまではまだ標高差にして4、500メートルはありそう・・・。

大きく広々とした沢を焦ることなく着実に登高する。

遠目から眺めるとずいぶん狭く、はっきりとしたU字谷に見える飛騨沢も、いざそのただ中に身を置くと驚くほど広い沢であることに驚かされる。

この谷の真東に位置する槍沢や、剱の多くの沢なども同様だ。

当面の目標の高度は千丈沢乗越のピーク。次は小屋の下方に見える横長の大きな岩と決め、足を前へ出す。

飛騨沢を登高 背後は双六岳稜線と薬師岳
飛騨沢を登高
背景は西鎌尾根と双六岳〜丸山〜三俣蓮華岳稜線
右端、西鎌尾根の彼方に薬師岳

二度ほど急傾斜をこなすと、ようやく目標の大岩をクリア。

振り返ると笠ガ岳が大きく、抜戸岳〜弓折岳稜線と目線がようやく同じほどの高さにまで登って来た。

あんなに高く見えていた中崎尾根がようやく下方だ。

笠ガ岳をバックに飛騨沢登高
笠ガ岳をバックに飛騨沢源頭を登高

双六岳の左に黒部五郎も頭をちょこんと見せ、丸山〜三俣蓮華、鷲羽岳や水晶岳と、三俣乗越の向こうに祖父岳や雲ノ平と薬師岳。

裏銀座の山々がよ〜く見渡せる。

傾斜が緩むと、小屋の人があらかじめ目印として立ててくれている何本かの赤旗の竿の先に大きな標柱が目に入る。

その辺りからは大喰岳への踏み跡も確認できるから、そこが乗越に違いない。

長らくの登高を経て、ようやく飛騨乗越に着いた。

長い登高は大きなご褒美を与えてくれた。

槍沢側に足を運び左を見上げると、とんでもなく大きな槍の穂先が聳えていた。

槍の肩より見上げる大槍、小槍
槍の肩より見上げる大槍、小槍

昨日は黄砂の影響でか、かなり大気が煙っていた印象だったが、今日はばっちり。

今朝、穂高平からわずかに見た槍の穂先をこんなに至近で見るところまで来ることができた。

正面に見える常念や蝶の稜線も立派な山塊のはずなのに、すぐそこの凍てついたようにも見える槍の穂先と比べると、雪の着きようが少ないからか、あるいは見下ろすようにしか見えないからか、やたら印象が薄い。

まずは記念撮影。ここでの写真は約11年ぶり。

登る際、自分なりに稜線出発時間を14時としていた。で、着いたのが13時45分。

時間は押していたが、このまますんなり下るのはあまりに勿体ないので、とりあえず肩の小屋まで向かう。

あまりの景観に知らず知らず時間が経ってしまい、結果的に1時間半以上も小屋付近に滞在したこととなった。

「こんななら、穂先まで行けたな〜。」
帰宅後の二人の反省点。

飛騨乗越に戻ったら、いよいよ今日の、いや、今シーズンの、いや、これまでのすべてを含めたメインイベント。

小屋前で短く話をしていたボーダーのおじさんのあとを追うように、まずは(あ)からLet's Go ! ! 

飛騨乗越より飛騨沢へGo !
飛騨乗越より飛騨沢へGo !
正面は大喰岳

続いて(ま)もGo ! ! ! 15時25分になっていた。

連休あいだのシュプールは沢山あれど、荒らされてないところもまた豊富。

きれいなところを、この上なく気持ちよく滑る。

ロングターンでビュンビュン飛ばせるから、これほどの快適滑降はこれまでに経験がない。

中崎尾根東面のダケカンバ疎林帯を滑る
中崎尾根東面のダケカンバ疎林帯を滑る

(あ)の滑りも決まってる。

きっと雪質のお陰に他ならないのは分かっていても、シーズン最後に来て上手くなった気分で、あっという間に槍平に到着した。

ちなみに槍平〜飛騨乗越間、登り4時間30分(休憩含む)、下り30分(同)。

槍平から下方もスキーを履いたまま下る。滝谷出合い上部のデブリも何とかクリア。

滝谷と北穂高岳
滝谷と北穂高岳

滝谷は雪割れしておらず、その下方の、朝はやや難儀した沢沿いのルートもデブリ帯も含めスキーで下ることができた。

ミスしたのは白出沢との出合いまでの登り返しのルート取り。

ここまでスキーで下れたのをいいことに、朝、沢に降り立った地点を通過して右俣谷をさらに下ってしまった。

沢に降り立った地点は分かっていたので、この地点から林の中を上がればよかったのだが、先行者の付けたスキーのトレースを追い、ほぼ白出沢との出合いまで下ってしまったのが失敗だった

これにより、余計な労力は使うわ時間はロスするわ、自分たちのトレースを追うべきだった。

白出沢から見上げるジャンダルムは夕陽に紅く染まっていた。

時間は18時30分。

白出出合いより黄昏のジャンダルム稜線
白出出合いより黄昏のジャンダルム稜線

あとは林道を滑走するのみ。

スキーはそれなりに走ってくれたので、何とか明るいうちに穂高平に着くことができた。

小屋の中を覗くと、夕食中のお二人が安堵の表情で迎えてくださった。

戻るのが遅いので、ずいぶん心配を掛けてしまったようだ。

前夜、小屋の電話番号をお聴きしていたので、どこからか電話を入れていればよかったと反省した。

しばらく談笑した後、ヘッドランプの灯りを頼りに林道を歩き、ようやく新穂高へと戻ったのは19時30分。

滑りに不安を持っての飛騨沢ツアーだったが、そんな心配をよそにこれまでで一番といえる会心の滑りができた一日だった。

このあと何度も仮眠を取りながら高速を走り、それでもまだ睡魔と闘いながら自宅に着いたのは、夜が白み始めた朝、4時だった。


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パタゴニア


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