双六カールと黒部川、湯俣川源流滑降 その2

鷲羽乗越より北鎌尾根・独標〜大槍、大喰岳、中岳、南岳、北穂と樅沢岳の左に奥穂
◆【山行日時・コース・天候】 2006年5月3日〜5日
□5月3日  新穂高・駐車場=1時間30分=ワサビ平=2時間35分=〜秩父沢・鏡平方面へ〜=30分

        =熊の踊り場=1時間30分=弓折岳=1時間10分=双六小屋

        7時間15分(正味時間)  快晴

□5月4日  双六小屋=30分=樅沢、弥助沢出合=1時間20分=鷲羽乗越(三俣山荘)=10分

        =黒部川源流方面=55分=岩苔乗越=40分=鷲羽乗越=10分=弥助沢、樅沢出合

        =1時間35分=〜双六岳巻き道方面〜双六小屋

        5時間20分(同)  快晴

□5月5日  双六小屋=1時間05分=双六岳=15分=双六谷方面=15分=弓折岳稜線=45分=弓折岳

        〜熊の踊り場〜秩父沢〜=55分=左俣谷橋=20分=ワサビ平=55分=新穂高・駐車場

        4時間30分(同)  快晴(朝のうちモヤ)



◆【第二日(5月4日)の記録】
双六小屋で快適な一夜を過ごし、朝、目を覚ますと今日も昨日に続き快晴のようだ。

今日の行動予定は特にこうと決めていたわけではなかったが、朝食の後、部屋に戻り思案していると、三々五々出発して行く人が多い中、昨夜、向かい合った位置で休んでいた群馬県桐生市からの単独行おじさんと知らず知らずのうちに今日のルートをどうするか話すようになっていた。

おおまかなルートが決まりかけた頃、昨夜、隣だった青年が昨日滑ったというルートを教えてくれた。

「小屋前から樅沢を下り、弥助沢を鷲羽乗越へ登り返したら、さらに鷲羽岳へと登り山頂から鷲羽岳西面の美味しいところを一本。

鷲羽岳へ登り返し、鷲羽池方面へもう一本。

再度、鷲羽岳の肩へ登り、南面の急斜面を弥助沢へ向け、最後の一本。

モミ沢出合いから双六小屋へ登高してエンド。」

豪華なフルコースに、自身にはこんな真似は到底出来ないと感じたが、鷲羽乗越へは向かおうという話にはなっていたので、そこへは

「双六トラバースよりも、ここからいきなり滑って弥助沢を上がったほうが、多分30分くらい早いですよ。」

大半の人たちがどこへ向かうにも、まず双六方面へ足を向ける中にあって、彼のこの話の中で得た情報により、まずは小屋前から鷲羽岳を正面に見て樅沢方面へトラバース気味に滑り込む。
鷲羽岳と真砂岳(手前に見える尾根を乗り越し弥助沢へと滑降) ダケカンバと鷲羽岳稜線
鷲羽岳と真砂岳(手前に見える尾根を乗り越し弥助沢へと滑降) ダケカンバと鷲羽岳稜線
上部はウィンドクラスト気味でカリカリだったが、高度を下げるにつれ、また多少なりとも時間の経過とともに日の当たる箇所では雪は早くも緩み、快適に高度を下げる。

尾根を二つほど乗り越し、彼が昨日付けたと思しきトレースを追うように進む。
正面に見える鷲羽岳がことのほか大きく聳える。
顕著な枝尾根から急な斜面を短く滑ると樅沢上部らしき箇所に降り立った。

広くなった沢沿いにしばらくシュプールを描きながら下ると、だだっ広い樅沢と弥助沢出合いに到着。

小休止し、ここからはシールで鷲羽乗越へ向け標高差400メートルの登高。
弥助沢、樅沢出合より鷲羽岳、鷲羽乗越
弥助沢、樅沢出合より鷲羽岳、鷲羽乗越
弥助沢の登高(樅沢岳北方尾根末端部に大槍) 鷲羽岳を見上げながら、うねりながら堆積した巨大な雪上を緩やかに登ると次第に傾斜は増し、振り返ると先ほどまでいた箇所がずいぶんと遠くに感じれるようになる。

目を凝らし鷲羽岳南面を見ると急斜面にもかかわらず数本のシュプール。どれもかなりの腕前のよう。

その一本が彼のものかと思うと
「すごい腕やったんやな〜。」
そんな彼に平気でルートを聴いたことに恐縮。

やがて、背後の樅沢岳東のピークから北へ派生する尾根の末端付近からは、これまで見えていた北鎌尾根に加え、その始点ともいえる大槍も姿を現せる。
弥助沢の登高(樅沢岳北方尾根末端部に大槍)
昨日見た弓折岳稜線からの槍〜穂高も素晴らしかったが、ここから見る北鎌〜大槍も、それに勝るとも劣らず迫力満点で素晴らしい。

高度を上げるほどにその迫力は増し、北鎌尾根のギザギザが特に印象的だ。

急斜面をジグザグに斜登高しながら時折、振り向いては
「今が至福のとき。」
自己陶酔しながら歩く。
北鎌尾根・独標〜大槍
北鎌尾根・独標〜大槍
傾斜が緩むと正面に三俣山荘が現れ、鷲羽乗越到着だ。

少し遠くなってしまった北鎌尾根〜槍だが、その代わりに中岳、北穂高岳や奥穂高岳の山頂部が樅沢岳稜線の間からちょこんと、そのピークを覗かせてくれている。(表題画像)

ここからは昨夏も同じ光景を見たが、それとはまったく異質のものに見えた。

これまでの沢筋から稜線部、それも鞍部に出たせいか、意外と風を感じられたので、それを避けようと小屋の物陰へ移動しようとしたとき、誰やらこちらに向かい話しかけてくる自身よりも若そうな身なりの人。

はじめ誰だか分からなかったがサングラスを外した彼の顔を見て、ビビびっくり!

な何と、その人は昨日も登高時、度々顔を合わせて、話も交わしたおじさんだった。

「ちょっと反則やね〜ッ!」
とっさに、こう言葉を発してしまった。

おじさんのいでたちは決して年相応には見えず、どう見ても10歳以上は若くカッコいいから、まったく持って反則である。
おじさんと短く話し分かれたら、こちらも小屋の物陰で風を避けながら滑降準備。

ふと隣にいる人に目をやると、これまた見覚えある人。やはり昨日、弓折岳へのつらい最後の急登の際、話をしながらしばらく共に歩いた福井のI君。

「どうも。」

あたりは人だらけ、ってことではないのにここまで来ても数少ない知り合いと出会うのだから、奇遇としか言いようがない。

準備が出来たら、それぞれ滑降。
黒部川方面より黒部五郎岳を見上げる
黒部川方面より黒部五郎岳を見上げる
ここに立ち寄る人の多くはそうであるように、まずは黒部源流方面へ滑る。

岩苔乗越が目的地の人はこちらへとは向かわず鷲羽岳の中腹をトラバース気味に進む人もいるようだが、我々は、ひとまず黒部川方面へと滑った。

振り返り見上げれば三俣蓮華岳が大きく、黒部川の奥には黒部五郎岳が大きなカールを広げる。

ここからの風景も昨夏見たが、鷲羽乗越から見た槍ヶ岳方面同様、まったく別の光景にも感じられるものだった。

大きなダケカンバの下で昼寝する人を見たときは、ついこちらもつられ、

「今日はここまで。」

と、ギブアップしそうになったが、先ほど鷲羽乗越で出会っていた福井のI君とここで再度出会ったことで、いきなり気持ちが岩苔乗越まで足を運ぶ方向に向いた。

左手には今にも崩れ落ちそうな巨大な雪庇を従えた祖父岳。右手には鷲羽岳と奥にワリモ岳。背後にはカールの奥に黒部五郎岳。ここは紛れもなく黒部川の最源流域だ。
祖父岳を左手に見上げながら岩苔乗越へ 岩苔乗越より黒部源流域越しに三俣蓮華岳、双六岳遠望
祖父岳を左手に見上げながら岩苔乗越へ 岩苔乗越より黒部源流域越しに三俣蓮華岳、双六岳遠望
足は決して速くないので、ここでの目的地である岩苔乗越は先行の人たちが動かない地点。

その目標物が大きくなり、I君の
「お疲れさま〜。」
に励まされ導かれるように最後を登り切ると岩苔乗越到着だ。

正面には黒岳(水晶岳)がその名のとおり黒々とした姿で指呼の距離に聳え、左遠くには下方に延びる岩苔小谷の彼方に大きな薬師岳が今回初めて目に飛び込む。

振り返ると、祖父岳はお椀を伏せたような綺麗な形をしているにもかかわらず、黒部側の東面に大きな雪庇を形成しているのは、黒部源流に向け冬の季節風がいかに強く吹き降ろすかをつぶさに物語っているようだ。
岩苔乗越より薬師岳
岩苔乗越より薬師岳と岩苔小谷、水晶岳
ワリモ岳西面のマイ・シュプール 黒部源流域からの展望を楽しんだら、つい先ほどまですぐそばにいたのにあっという間にこめ粒のようになったテレマーカーやI君に続き黒部川方面へ滑る。

大斜面の滑降に思わず雄叫びを上げてしまったが、他にそのような人は誰もおらず、唯一の”馬鹿者”のように感じなくもなかった。

ワリモ岳南西斜面を気持ちよく滑ったら、三俣山荘の立つ鷲羽乗越へトラバース気味に緩やかに高度を上げる。
ワリモ岳西面のマイ・シュプール
鷲羽乗越にて
鷲羽乗越より大天井岳、槍ヶ岳を見ながら滑降準備完了!
鷲羽乗越で準備が出来たら、三俣蓮華岳付近でひとり遊んでいたI君の連れ合いとも合流し、ある意味今日のメイン弥助沢方面へ4人で滑降。

適度な傾斜で雪質もそれなり。
「シチュエーションは最高。」
だけれど、スキーが滑れば風景を見る余地のないのが
”玉に瑕”なところ。
いつしか、槍ヶ岳は視界から消えてしまっていた。

標高差400メートルの滑降はこれまでになく快適で、雪の堆積したうねった緩斜面を滑るようになると樅沢出合に到着した。
燕岳稜線遠望
燕岳稜線遠望
樅沢の登高 シュプールはさらに下方へと続いていたが、標高が低くなるのを嫌い、小屋へはモミ沢を直登せず朝、滑り降りた方面の樅沢を登高することとして小休止ののち遥か上方に見える双六岳山腹を目指し歩き出す。

高度を上げるとともに傾斜は増すが、背後に餓鬼岳や燕岳〜蛙岩付近の水平な稜線がのんびり横たわるのが見えるようになる。

谷を詰め、左手に高く見えていた枝尾根上に出れば大天井岳や独標も望めるようになり、標高もここですでに双六小屋とほぼ同じ2500メートル。

双六中腹をトラバースしたスキーの痕もすぐ上に見える。
樅沢登高する桐生市Sさん
自身以外の3人はさらに上部を目指し、そのままジグザグに斜登高して行ったが、こちらは後発の人の後を追うようにトラバースして小屋に向かうこととした。

大きな尾根を乗り越しながら進むと、正面左手に見える樅沢岳稜線のコルから大槍が顔を覗かせてくれた。
谷筋の登高と違い、尾根筋の歩行は”びっくり箱”的な思いもよらぬ景観を提供してくれることがあるから、それが驚きでもあり嬉しくもある。

このロケーションに言葉は要らない。
三俣蓮華岳 樅沢岳と大槍
三俣蓮華岳(奥)と丸山 樅沢岳(右)と大槍
大きく口をあけたモミ沢・右俣源頭の沢はシールを外し滑る。

モミ沢を登高する人が見え出すと、間もなくぴったり小屋前に戻った。
(直接小屋に戻るなら、モミ沢を登高したほうが時間的には早いかもしれない)

先に樅沢上部で分かれた三人、なかなか戻らないと心配していたがようやく約一時間後に帰小屋。
部屋で話を聴くと、なんとあのまま双六稜線まで登高したらしい。

彼らの体力、気力には閉口である。

夕食は
「きっと、また昨日と同じ天婦羅か・・・。」
と思いきや、予想に反し鶏肉とミンチのフライだった。

大変美味しくいただいたあと、ちょっと反則気味の例のおじさんと、昨日からチョコチョコ目を合わすこともあった青年としばし談笑。

昨日と同じ場所で早々に床に就いた。
夕食後、食堂にて茨木・松村君、穂高町・林さんと談笑
夕食後、食堂にて茨木・松村君、穂高町・林さんと談笑

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