前日の夜、平湯あたりから雨が降りはじめ、新穂高では時折強く降った。
気温も下がっていたので、山はきっと雪だろう。
この日の寝床を探すにも、そこら中、駐車車両だらけで適当な場所が見つからず、しばらくあちらこちらうろついてみるも成果なし。
かろうじて中尾温泉口の駐車場に場所を見つけ、一夜を明かすことにする。
三連休の一日目の夜ということもあり、パラパラではあるものの一晩中、車の往来は絶えず、どの車も駐車には苦労しているように見えた。
翌朝4時前に起床。見上げると、空には溢れんばかりの星が輝いている。良い天気だ。
軽く食事をし、昨晩確認しておいた左俣林道入り口の有料駐車場に出向く。
ロックシェッドの手前から、かなりの数の車両が路駐。
念のため深山荘に下りてみても、もちろんおじさんが構えていて入場不可。
これも想定内で、お金を払いさえすれば確実とみて、「明日はここに停めよう。」と空車であることを確認しておいた有料Pだったはずが、なな、なんと4時半にして既に満車ではないか。
日帰りの特権とみて、お金を払うつもりでいただけに、かなりショック。
この時間に出庫する車などあるはずはなく、仕方なく林道をさらに奥へと走らせる。
昨晩見た、目ぼしい場所も埋まってたりするから、それこそ目の前真っ暗。
と、そんな時、一条の光明。
ありました。わずかに一台分のスペース。
すぐ後ろからも、もう一台車が上がってきていたので、一足違いでセーフ。
有料Pでは、登山準備をして出ていく人を目にしたので、その人たちが、まさに今停めたばかりの人たち。
そのお陰で、ここでは一足違いで無料で駐車することができ、良かったのやら、ちょっと不安材料ができたのやら・・・。
いずれにしても車をそれなりの場所に駐車できてホッとした―。
今回の笠ヶ岳登山については日程的に日帰りであることは、ある程度決めていたが、ルートをどうするか、ずっと悩んでいた。
登るルートひとつでも、急登で名高い笠新道から上がるのか、それとも、さらに標高差の大きいクリヤ谷にするのか。
下りはどうするのか。
新穂高に着いてみて車の多さに、さらに頭を悩まされた。
日帰りなら、早出は必至。
となると、左俣林道は何度か歩いているし、登山口までを歩く間に夜も白むだろうから不安はないが、いきなり未知の登山路のクリヤ谷を歩くとなると、暗闇の中を機嫌よく歩けるのだろうか。
そもそも、中尾高原口に駐車することを想定していたので、こんな悩みがあったのだが、いざ現実に置けた場所を考えるとクリヤ谷を登ることはあっさり諦めた。
さらに下山をクリヤ谷に下ることも辞めた。下山後、槍見からここまで戻ってくるのは大変だからだ。
山荘で泊まることも頭になくはなかったが、せっかく早起きしたのでそれもナシ。
とりあえず、笠新道をめざし左俣林道を歩き出す。(4:50)
この道を上に向かって歩くのは2006年、春以来で、早7年も前のこと。
その年の春先、穴毛谷で雪崩に巻き込まれた遭難者を悼み、すぐ対岸で手を合わせる人を目にしたことを思い出す。
今は暗闇の中で何も見えないが、谷の上流部に設置された土石流対策の施設のライトが二つ、今も目を光らせて明るく光っていた。
笠新道の入り口に水場があるはずと高をくくっていて、わずかでも楽をしようと十分な水分を持ってこなかったのがいけなかった。
あるはずの水はなく、わさび平までもらいに行く。(5:35-5:50)
登山口に着いたとき、大きなザックがひとつ置き去りにしてあった。
「この持ち主も同じ?」
しばらくするとアンちゃんが、わさび平方面から歩いてきた。思った通りだったようだ。
彼とは、やがて登山路でパスして以降、山中で何度も出逢い、秩父平手前で
「弓折岳で住所交換しましょう。」
と声を交わしたのを最後に、その約束を果たせないまま今になっているのだが・・・。
結果的には、ここでの給水がなくても問題はなかったが、保険的に持っておかないと不安なので、約30分程度のロスは気にならなかった。
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笠新道登山口 着いては見たもののあるはずの水がない・・・ |
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給水のため、わさび平まで足を延ばす |
笠新道は前述のとおり急登で通っている。(6:05)
先月、早月尾根から剱往復したばかりなので、せっかくなのでその感覚の冷めない間にこの急登を登り、比較してみようという魂胆も、このルート選択の理由にあった。
地形図を見る限り、かなりの傾斜の尾根を登って行くはずだが、登りだすと登山路は直登でなくジグザグに付けられて意外にも急登とは言えない。
整備も行き届いているので、ちょっと拍子抜け。
しばらくすると、林間からはももちろん、そこを抜けると槍や穂高の雄大な展望も開け、早月尾根の苦しさとはずいぶん違ってみえた。
逆に森林限界を過ぎ、展望が開け、上部にこれから向かう尾根が見えだしてからのほうが辛かったかもしれない。
傾斜が緩くなって、なかなか高度を稼げず尾根が近づかない。
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焼岳、乗鞍岳 |
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1,920メートル地点 |
着いた杓子平(8:35-:50)は、もっともっと期待していただけに残念な印象だった。
この際、槍や穂高が見守ってくれているから、いいにしよう。
抜戸岳稜線へはもうひと頑張り。
はじめ緩やかに歩く際、凍てついた水たまりに足を取られ何度か肝を冷やした。(表題画像付近)
稜線に近づくにつれ背後の雄大な景色はさらに雄大になって広がって行く。
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小槍、大槍と大喰岳 |
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林の先に笠ヶ岳が姿を現せる |
これ以降は文句のつけようのない光景が次々に現れたといっていいだろう。
それなりの人数の人に出くわしたが、それでも他の人気の山に比べればずいぶん少ない。
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ナナカマドの実と笠ヶ岳 |
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稜線直下より槍穂高連峰 |
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稜線西に広がるハイマツと笠ヶ岳 |
小屋を経て(11:10-:45)山頂に達すると(11:55-12:30)、ここからの光景はとにかく素晴らしいのひと言。
また、そこが思いのほか広めだということもあり、ゆっくりと四方八方の展望を楽しんでも誰に迷惑をかける訳でなし。
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絶景の広がる笠ヶ岳山頂 |
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甲斐駒ヶ岳の脇に富士山が見える |
独立峰的に主脈から外れた場所に位置するので、やや敬遠され気味なのかも知れないが、眼前に広がる光景は、何処になく雄大で素晴らしい。
中アの三ノ沢岳でも、主稜線からもっと近いけど、ちょっと足を運ぶにも二の足を踏むもんね。
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笠ヶ岳山頂より南岳、大キレット、北穂高岳、涸沢岳、奥穂高岳、ジャンダルム、西穂高岳
西穂高沢や白出乗越へと突き上げる白出沢が印象的 |
下山ルートをどうするかで、小屋で鏡平経由の時間を尋ねてみた。
返事は、鏡平の小屋まで普通6時間くらいで、速くて5時間くらい。とな。
クリヤ谷のことも聴いてみると、あまりお勧めのルートではない口ぶりに聞こえた。
時間は12時半になってしまってる。
今日のこの上天気、来た道をそのまま引き返すにはあまりに勿体なさ過ぎるので、日没までに左俣林道に出ることを目標に鏡平経由で下ることにした。(12:35)
歩く距離はずいぶん長くなってしまったが、それを差し引いても余りある景観を目にすることができ、大正解だった。
槍〜穂高は終始姿を見せてくれ、裏銀座や黒部源流方面のたおやかな稜線も目を楽しませてくれる。
なかでも、弓折岳からみる飛騨沢は、 かつて、初めて春の北アに足を踏み入れた際に見た光景の衝撃に、再度、印象深く想い返された。
前述の彼とは弓折岳で再会の約束をしたが、時間が気になり弓折岳であまりのんびりする訳にもいかず、標柱のたもとにこちらの名前等を書いたメモを置いては来たのだが・・・。(15:25-:40)
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秩父岩と穂高 |
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秩父平付近より北鎌尾根、槍ヶ岳、大喰岳、中岳、南岳・獅子鼻、大キレット
(この方面から眺めると西鎌尾根の存在は薄い) |
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夕陽を受けた槍ヶ岳山荘の窓が輝いていた |
鏡平は三度目だが、いつ来てもとってもいいところだ。(16:10)
いっそ、ここに泊まって夕景や朝景を楽しもうかとも考えたが、カメラやレンズはあるが、悲しいかな三脚がない。
人の立てた三脚を、指をくわえて恨めし気に見てるほど情けないことはないので、適当に撮ってこの場を後にする。(16:35)
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鏡池に映る槍〜南岳・獅子鼻 |
シシウドヶ原では夕陽に赤く染まる穂高が見えたが、思ったほどの赤さにはならず残念ではあったが、何だかホッとした気分でもあった。
月は出ていたが、この辺りからは林の中を歩くと暗く感じてきた。
秩父小沢で喉を潤し、秩父沢で槍、大喰岳を見上げたあとはヘッドランプがなければ歩けないほど暗くなった。(17:40)
石畳で整備された小池新道は浮石はほとんどなく、大変歩きやすくて大いに助かった。
それでも林道に出るまでは決して気を抜くことなく、120パーセントの注意を払って歩いた。
林道に出れば、ほぼ安心、安全だ。(18:05)
わずかな明かりの先の林道脇に広がるブナの森に、見覚えのある一本のブナの大木を見つけた。
(あ)。が中学生の時、雲ノ平を歩いた際、下山時にこの道を歩いた時のことだった。
この木に耳をあて幹の中を流れる水流の音を聞いてたっけ・・・。

道は綺麗に舗装されてしまったが、ライトで照らした林は以前のままのようだった。
少し歩くとワサビ平。(18:20)
さらにもう長らく歩いて、ようやく新穂高に戻ってきた。(19:15)
朝も夕も、どちらもヘッドランプを使う長時間の山行になったが、絶好の天候に恵まれたおかげで、一日、素晴らしい光景を目にしながら北アルプスの一角を歩くことができた。
しかし、最もきつかったのは帰路の名神高速・京都付近以降の走行だったかもしれない。
とにかく眠い。睡魔と闘いながら何度もSAで休み休み車を走らせる。
最後の休憩は阪神高速・北神戸線、白川PAだったような・・・。
自宅まで至近な、こんなところでも休まないといけないほど、とにかく眠かった。
結局、家に着いたのは朝6時を少し回っていた。
最後に、
急登と長いこのコースをもってしても、精神的疲労度では日帰りでの早月尾根には及ばないか・・・。
◆【ブログ】
こちら
山行を終えての印象