7日目(2002.12.29 Sun.)


 本日のスケジュール
ザルツカンマーグート観光


行き先マップ


 ザルツカンマーグート観光の日。ザルツカンマーグートは、映画『サウンド・オブ・ミュージック』の舞台になっている自然豊かな地域である。日本人のあまり行かないところも多いので、知名度は低いのではないだろうか?
 今日の話がわかりやすいように、『スペシャル地図』を作ってみた。いかがですか?

 12月29日、7日目。今日は日曜日。店はあまり開いていないだろうから、自然を見に行くには絶好の日だろう。バスでバートイシュルまでヴォルフガング湖を通って行こうと思っていたので、バスの時刻表を前日に駅で入手しておいた。
 ヴォルフガング湖を通りたかったのは、湖畔の町『ザンクトヴォルフガング』が『サウンド・オブ・ミュージック』のメインの舞台になるからだ。ザンクトヴォルフガングの後ろには『シャフベルク山』があり、『シャフベルク登山鉄道』が夏季に走っている。今の時期は乗って山に登ることはできないが、映画の雰囲気だけでも味わってみたかったのである。

 今日の出発は8:45。朝食を済ませてザルツブルク中央駅バスターミナルに8:30に着いた。
 ところが、バス停の出発時刻には8:45発はなかった。よくよく昨日もらった時刻表を見てみると、『あ〜ちがうところ見てた〜!!』
 本当は、8:15発だったのである。そりゃあ、いつまでたっても来ないはずである。
 

 これでは、ハルシュタットまでたどり着けないと思い、急遽、電車で直接ハルシュタットを目指すことにした。

 駅でハルシュタットまでの乗車券を買い、『アットナング・プッハイム』経由でハルシュタットに向けて、9:10ザルツブルクを出発した。

9:10発IC547号ウィーン行き。ヨーロッパの都市間特急は、固有名がついている場合が多く、この列車も『TRAFIKNET』という名前がついている。
特急なのだが、外見は特急らしい雰囲気ではない。

  
IC547車内。2等車も3×3のコンパートメントになっている。ヘッドレストは壁にくっついているのだが、上下する構造になっている。『世界の車窓から』に出てくるような雰囲気たっぷりの車内だった。ここら辺の鉄道は、あまり込むということはないようで、私たち2人で個室状態で利用することができた。
 
ザルツブルクを少し離れた町。ヨーロッパの町は、たいてい教会を中心に成り立っており、町の中心には塔が建っている。これが美しく見えるのも、周りに大きな建物がないからだろうか。
外は霧雨が降っており、かすんで見えるのがとても残念だ。
 9:55、『アットナング・プッハイム』に到着。ここでハルシュタット方面のローカル列車に乗り換える。ちょっとだけ時間があったので、駅の外にも出てみたが、タバコ屋が1軒あっただけで、他は営業していなかった。駅の周りもあまり何かがあるというような感じはなかったので、駅のホームにあった自動販売機でおやつを買い込んで列車に乗った。

 余談だが、こちらには自動販売機がほとんどない。ここで見たのは、らせん状のリングにポテトチップスなどの袋が立っているもので、1ユーロを入れてボタンを押すと、リングが回って袋が押し出されてポロッと下に落っこちてくるタイプのものだった。

 乗り換えの列車はR3412、10:15発だ。Rは、各駅停車ということで、ハルシュタットまではゆっくり1時間半かけて行くのである。では、ローカル列車の旅に出発!

アットナング・プッハイム駅。ウィーンとザルツブルクを結ぶ幹線の駅で、特急も止まる駅なので結構大きな駅だった。
 
ローカル列車内。同じ車両に乗っていた人は1人だけだった。本当にきれいな車内だが、がら〜んとしている。
 
アットナング・プッハイム郊外。雲がとても近いところに浮かんでいる。
 
トラウン湖畔。雨が降っていたのではっきりとわからないかもしれないが、家の後ろにうっすらとトラウン湖の湖面が見える。何もないところのようだが、せかせかと暮らしている私たちには、なんともうらやましい暮らしでもある。
 アットナング・プッハイムから50分ほど列車に揺られると、『バートイシュル』に到着する。バートイシュルは帰りに寄るとして、そのままハルシュタットへ。
 
バートイシュルを過ぎた『とある駅』。何があったというわけでもなんでもないのだが、いい感じの雰囲気だったので記念に一枚。
  
 バートイシュルは、川岸に町があるという感じで、その川をずっとたどっていくと『ハルシュタット湖』にさしかかってくる。『川幅が広くなってきたかなと思っていたら、湖になっていた』という感じなのである。
『ハルシュタット湖』にさしかかったところ。切り立った山裾に張り付くように家々が並んでいる。川や湖の水面もきれいで、自然を大切にしているんだろうな〜ということがよくわかる。
  11:48、ハルシュタット駅で列車を降り、ようやく『世界で最も美しい湖岸の町』へたどり着いた。ここで降りた人は、私たち2人の他に、旅行者らしき人3人だけだった。ちょうど雨もやみ、傘をさす必要はなくなった。『日頃の行いがよいから(?)』
ハルシュタット駅から見た『ハルシュタット湖』。周りに何もないのだが、大自然に囲まれたきれいな湖である。標高が高いのか、雲がすぐ上に浮かんでいた。
 
ハルシュタット駅は何もない。道路すらない。なぜならば、湖を渡って町に行くためだけにある駅だからである。駅からは、渡し舟の船着場まで細い歩道だけがある。迷いようのない道だ。
 
ハルシュタット湖の渡し舟船着場。バス停の待合所ほどの大きさで、ガラス窓に船の出発時刻と接続する列車の時刻表が貼り付けられているだけの何もないところだった。

船着き場から見たハルシュタットの町並み。崖の下に肩を寄せ合って暮らしているといった印象を受ける。
 しばらく待っていると、町の中から小さい船がこちらへ向かってくるのがわかった。これが渡し舟なんだろう。5分程でこちらへ着いた。
ハルシュタット湖の渡し舟。運転手さんとチケット売りのおじさんが乗っているだけの小さな船に、私たちを含めて5人の乗客が乗る。チケット売りのおじさんは陽気なおじさんで、心底この仕事を楽しんでいるようだ。
船室は、前側と後ろ側に分かれていて、私たちは船首側に陣取ることにした。


ハルシュタット湖の渡し舟から町を眺める。渡し舟など、日本でも乗る機会はめったにないので、それだけでもワクワクした。橋や新しい線路、道路などを作らず、渡し舟で渡るところなど、景観を損なわないように配慮しているのだろう。
 
 ハルシュタットの町へ着き、船着場から教会の角を曲がると、すぐにマルクト広場へ出る。
『マルクト広場』。小さな広場にかわいらしい建物が並んでいる。広場の中心には塔のようなものが建っているのだが、雪が降るからだろうか、木組みの囲いで覆われていた。
 
マルクト広場から教会方面を見る。屋根の形は、ドイツのように三角屋根ではなく、屋根の端を少し切っているような形が多い。これだけで全体的にずんぐりしたような形になるのだから、家というのはなかなかおもしろい。
 絵葉書で見たような景色を見に行こうと、湖岸を散歩してみる。山裾には家々、もう片方には美しい湖と対岸の山々。ぶらぶらと歩いていることが本当に贅沢な時間だ。こういったことが、日曜の午後の有意義な過ごし方かもしれなぁと思ってしまった。
もう一つの船着場からハルシュタット市街を眺める。湖に張り出した小さな町と教会の塔。ヒヤッとする澄んだ空気と、みごとに半分より上だけ雪の積もった山。何もかもが美しく感じられる空間だった。
 ハルシュタットは、有史以前から人間が住み、『ハルシュタット時代』という原始文化の中心にもなっていた町だ。世界最古の塩鉱(現在も操業中)もあり、昔から現在まで変わらず続く産業も持っていることころが驚きである。夏季なら塩鉱も見学することができるが、冬季はケーブルカーが走らないため見学できない。
湖岸には船屋があり、日本の伊根を思い浮かべる。湖には白鳥や鴨が生活しており、開発の手を必要最小限にしているのが窺える。
 実際に行ってみなくてはこの感動は伝わらないだろうが、いかに美しい町であるかは、絵葉書を見るとよくわかる。『世界で最も美しい湖岸の町』である。ちなみに、ここハルシュタットは、なんと『ユネスコ世界文化遺産』に登録されているのである。景観が世界文化遺産とは、本当に自然を大切に守っているからこそである。
 帰る時間まで多少時間があったので、マルクト広場の中にあるレストランで食事をとることにした。あまり覚えてはいないが、この日もウィンナーシュニッツェルと何かを食べたと思う。ワインもおいしかった。

 食事が終わり、船が出る時間が5分後に迫っていたため、猛ダッシュで船着場へ。遅れると1時間半待ちである。これはたいへんだ!

 
渡し舟で再びハルシュタット駅へ。駅は小ぢんまりとしていて、待合室が申し訳程度にあるだけだった。
 
14:09、ローカル列車がやってきた。
 ハルシュタットに別れを告げ、帰路へ。ザルツブルクに帰るまでに時間がありそうだったので、途中バートイシュルで散策することにした。
『世界の車窓から』に出てきそうなショット。外は少し寒いのだが、私たちの乗っている車両には私たち以外には誰もいなかったので、窓を全開にしても誰も怒らないのである。
 14:36、バートイシュル着。1時間20分ほど時間があったので、市街を散策することにした。

 バートイシュルは、ザルツカンマーグート地方の中心都市で、温泉地でも有名だ。『バート』とは、『温泉』という意味らしく、『イシュル温泉』と言える。ウィーンのハプスブルク家の皇帝フランツ・ヨーゼフは、その生涯の毎夏をこのバートイシュルで過ごしたという。『カイザーヴィラ』という皇帝の別荘がそれである。一般公開されているが、冬季は閉鎖されているので行くことはできなかった。
 当然、皇帝が毎年訪れるならば、オーストリア社交界がこぞってこの地に別荘を建てるわけで、日本で言うところの『軽井沢』のような感じになっているのだろう。それほど大きな町ではないが、カイザーテルメ、トリンク・ハレ、クーアハウスといった施設があり、ちょっとしたリゾート地になっている。

バートイシュル市街。バートイシュルは、トラウン川とイシュル川の合流地点にあり、川に囲まれた町になっている。皇帝の保養所というだけあって、町には『カイザー』と名のつく所が多い。
 
『カイザーテルメ』。塩分を3%含んだ温泉で、露天風呂もあるらしい。時間がなかったので入らなかったが、水着を持っていくと入れるらしい。ひときわ大きなオーストリア国旗が皇帝の温泉であることを強調している。
 町を歩いていると、やたらと豚の人形だけを売っている露店が多く、その中の一つで店主さんに『何で豚を売っているんですか?』と尋ねてみた。すると、オーストリアでは、大晦日に豚をプレゼントすると幸福が訪れるという言い伝えがあるのだそうだ。『豚は何でも食べるので、やましい事なども食べてしまって、来年幸福が訪れるんだよ。』と教えてくれた。ドイツでは、豚など売っているところはなく、オーストリアだけの固有の習慣なのだそうだ。国境を隔てたとたんにこういった習慣が根付いており、『陸続きながら国境って意味があるんだな〜』としみじみ感じてしまった。記念に、小さい豚を何個か買ってみた。

 トリンク・ハレという飲泉場は、夏季は「飲む」温泉療法が体験できるところだが、冬季はやっていない。しかし、そこへ入っていく人がいたので、ちょっと覗いてみるとフリーマーケットを催していた。おもしろそうだったので入ってみたら、ドイツ語の本やガーデニング用品、テーブルクロスなどがおばあさんたちによって売られていた。テーブルクロスは、チロル風のものはよく観光地で売られているが、ちょっと違う感じのものがほしかったので、おばあさんと交渉しながら1枚買ってみた。地元のフリーマーケットに参加してみるのもなかなか体験できないだろう。楽しかった。

『バートイシュル駅』。ホームで列車を待っていると、オーストリア人おじさんらしき人が隣に座ってきて、『兄ちゃんどこ行くんだ?』というような感じで話しかけてきた。私は『ドイツ語わかんないんで・・・』と言ったのだが、容赦なく『リンツか?』と聞かれたので、『ザルツブルクに行くんです』と言うと、『ザルツブルクはいいよ〜!わしはリンツに行くんだけどね』というような会話になり、列車の着くホームの番線まで教えてくれた。意外と親切おやじだった。
 バートイシュルを15:54に出発し、もと来た道を引き返した。16:47にアットナング・プッハイムに到着し、乗り継いで17:07、ザルツブルクに向け帰路についた。ここからはIC(特急)なので、1駅でザルツブルクまで行くことができる。所要時間は45分ほどで、あっという間に17:52ザルツブルク着。

 今日は、朝目が覚めてから1人の日本人はおろか、東洋人風の人すら見ることがなかった。この旅では、どうしても世界文化遺産にもなっているきれいな風景を見たかったので、『トーマスクック時刻表』を片手に、ハルシュタットへ行く方法を探し出し、自分でプランを組んだのだが、ハルシュタットには観光地らしき雰囲気がなかった。日本人もそんなに行くようなところではないのだろう。しかし、ハルシュタットの景色は自分で行きたいと思った人には、ぜひ行ってみてほしい。こんなに美しいところがあるんだと感動するはずである。

今日もホテル内のレストランで夕食。3日連続ともなるとレストランのウェイターさんも顔見知りといった感じだ。今日はちょっと辛いスープといつものワインを頼んでみた。
 
今日のメインは、チキンの焼いたものとポテト、サラダの盛り合わせ。チキンがとてもおいしかった。
 
もう一皿は、カリカリに揚げたポテトの上にサーモンがのっているもの。ちょっと食べさせてもらったが、なかなかおいしかった。
 ザルツブルクに3泊したが、とても盛りだくさんの体験をしたと思う。特にザルツカンマーグートは行ってよかったと思った場所だ。明日は、ついにこの旅の最終目的地ウィーンへ向かう。ウィーンでは、大晦日に『コンツェルトハウスでウィーン交響楽団のベートーベン第九を聴く』という大イベントがある。そのために、ここまで大きなスーツケースに結婚式のドレス&タキシードを持ってきたのである。重かったが、その苦労が報われるときがついに近づいてきた。

 8日目へつづく・・・
TOP