4画像の処理

 ここでは画像の処理の手順に付いて説明します。この作業は最も重要で、出来上がる画像の善し悪しを決定します。作業は必ず、刀をよく理解している人が行うか、もしくは、そう云った人から助言を受けながら行う必要が有ります。


長い刀の元の部分


長い刀の中程の部分


長い刀の先の部分

 この3枚の画像はスキャナで取り込んだばかりの生の画像です。この刀の場合、寸法的に3分割するのが良いと判断されたので、上のような状態で取り込みました。

 先ず棟の部分は黒く潰れやすいので、最初に拾い出して白く塗りつぶし下処理をします。次に刀全体が入る広さのレイヤーを用意して、基準になる最初の1枚のレイヤー(元の部分)を配置します。

 元の部分の画像から茎の部分だけのレイヤーを製作します。繋ぎ目が有る程度重なるように、選択範囲には「ぼかし」をかけて切り取り、重ね合わせます。次に明るさやコントラストと云った色合いの調整をします。(カラー写真の場合には特に茎の色は再現が難しいので慎重に調整を行う必要が有ります。)

 

 研摩された部分の明るさやコントラストもここで調節しますが、地鉄や刃文の表現がここでほぼ決まります。他の部分の画像と見比べながら、明るさやコントラストの調整を慎重に行います。

 次に中程の部分、先の部分と順次レイヤーを重ねますが、取込み画面の端の方は切り捨てて使わないようにします。その時、切り取る画像は茎の部分と同じく「ぼかし」をかけて切り取り、少し重ねて繋ぎます。位置が決まると明るさやコントラストを調整して前後の色の繋がりも完全に合わせ次に進みます。画像の取込み時に正確に平行移動し取り込んでいると、定規に合わせて重ねるだけでかなり正確に合成できますが、時には画像を見ながら合わせる事も必要になります。

 先の画像迄つなぎ合わせると、次に切先の部分を調整します。切っ先は研磨時の仕上げの手法や光の当たり方が異なる為、その部分だけ切り出してレイヤーを作り、色合いや明るさを調整して合成します。最後に各レイヤーの微調整をして全体に統一感を持たせます。

 各レイヤーの微調整が終わると、全体を1枚の画像に統合します。次にバックの余計な部分を切り抜いて黒く塗りつぶし、作業は終了しますが、この後、撮影時に刀身に付着していた「ほこり」や「よごれ」などの除去作業なども行う事が出来ます。この辺りもデジタル処理ならではの作業の特徴です。

 従来の写真技術で刀剣類を撮影した場合、棟の色が濃く写る事が多く、バックに溶け込んでしまう為、撮影には特殊な工夫が必要でした。しかしこの技術では、取り込んだ刀身の姿をピクセル単位で拾い出せる為、作業は容易で姿の再現性には特に優れています。

 又、刀剣類を見慣れている人が刀を手に取って見る場合、光の当て方や角度を調整して見ていたり、気付かないうちに自分の目で光を調整して見ているのもです。そうして得た情報を自分の頭の中で再合成してその作品を概念として捕らえています。

 しかし写真などで光を閉じ込めてしまうと、一つの条件でしか情報を取り出す事しか出来ません。ですから、ここでは刀の各部分をできるだけ良い状態で見た状況を作り出し、その画像を自然な姿で合成する事により、直に作品を手に取って見た時の状況に近付ける努力をしています。この手法を使う事により、この画像を見る人は、刀剣類を直に手に取って見たのと同じ様な情報を得る事が出来るのです。

 部分的に個別の画像処理を行う事で良い結果が得られる具体的な例としては、次のような場合が有ります。古い刀の茎(なかご)は錆が付いていて黒ずんでいるのが普通ですが、この部分を他の部分と同じに処理をすると、色が浅く実際のイメージと異なった印象を受けます。又、新作刀の場合、茎はまだ錆が付かず光っていますから、同じ処理では白く飛んでしまいます。従来の写真の技術では、部分的におおい焼きや焼き込むなどの作業を手作業で行いますが、ここでは、デジタル処理で簡単に最も良い状態を作り出す事が出来ます。また、切先など光の当たり方の違う部分は、従来の写真技術では修正が難しかったのですが、それもデジタル処理をする事によりより再現性が良くなっています。

 又、この技術を使った画像を見て一番驚かれるのが刀身の地鉄や刃文の分かりやすさです。直に手に取って見る以上に鮮明に見る事も出来ますし、大胆な拡大表示も可能です。これも理想的な光で高解像度の画像を取り込み、地鉄や刃文を見やすくなるようデジタル加工する事で初めて可能になった表現です。

戻る  目次  進む