「・・・きれいな夕日ね」
あかい・・・何よりもあかい真紅の夕日を眺めて私はそうつぶやく。
「・・・君の方がきれいだよ」
「ちょっ・・・やだ、恥ずかしいじゃない」
彼の言葉に私は頬をそめてうつむく。
「真っ赤になって・・・かわいいよ、かなみ」
「やだ。・・・夕日のせいよ」
私は両手をほほにあてて彼の言葉を否定する。
「・・・かなみ・・・」
「あっ・・・」
彼の手が頬にあてた私の手にそえられる。
「・・・好きだよ」
「・・・うん」
私はそっと目をつむる。
「私も好きよ・・・」
「・・・・・・ランス・・・」
って、えっ!
・・・・・・えええぇーーー!!!
鬼畜王ランス外伝 かなみちゃん忍耐帳
参之巻 「恋の黄金率作戦(後編)」
「だああああぁぁーーーーー!!!!」
私は自分の悲鳴に驚いて飛び上がる。
「ゆ、・・・・・・夢か・・・」
日は傾いており、世界を赤く染めていた。
ここはリーザスの城下町からわずかにはずれた、小高い丘にある木の上だ。いろいろと考えたいことがある時はよくここに来る。
ここまで全力で走ったためだろう、疲れて少し眠っていたようだ。
「・・・それにしてもなんて夢を・・・」
まあ仕方ないと言えなくもない・・・現実逃避ってやつね。
少し落ち着いて、今現在の状況を思い出す。
・・・思い描いていた中でも、最悪の展開。
「・・・これからどうしよう・・・」
前向きにこれからのことを考えようと気持ちを整理する。
「何よりもまず、リア様の誤解を・・・」
ふっと、あのときの場面が思い出される。
「・・・・・・でも、・・・・・・リア様もひどいよ・・・」
涙があふれそうになる。
「・・・今までずっとずっと、リーザスの・・・リア様のために働いてきたのに・・・」
目の前の風景がだんだんぼやけていく。
「・・・なんにも言わせてくれなかった」
木の上から落ちないようにしながら、膝を抱きかかえる。
「・・・う、・・・うええ・・・・・・んく・・・んく」
「・・・・・・・・・みちゃん・・・」
「・・・ひっく、ひっく・・・」
「・・・・・・なみちゃん・・・」
「・・・・・・んっ?」
私は目をこすりながら、下を見た。
「メナド・・・」
下から見上げているのはメナドだった。
「・・・かなみちゃん」
そういえばこの場所はメナドも知っていたんだった。
「・・・私を、・・・捕まえに来たの?」
私がそう聞くと、メナドは首を横にふった。
「・・・話をしに来たんだ。・・・あがっていい?」
私はゴシゴシと目をこすってからうなずいた。
メナドはのぼってくると、私とおんなじ枝に腰をおろした。
「・・・びっくりしたよ。・・・話を聞いたときは」
「・・・だろうね」
私はそうあいづちをうった。
「・・・かなみちゃん」
「なに?」
メナドはゆっくりとこっちを向いた。
「・・・なにがあったの?」
「・・・メナド・・・」
「なにがあったのか、かなみちゃんから聞きたい。
・・・ボクはそれを信じる」
メナドはやさしい表情で、そう言ってくれた。
「うっ、・・・メナド・・・う、うえええ・・・・・・」
すごく嬉しかった。うれしくて・・・うれしくて涙が止まらなかった。
・・・・・・・・・
・・・
「・・・そう、そんなことがあったんだ」
「うん」
私は起こったことぜんぶを話した。私を信じてくれているメナドに隠し事なんてしたくなかった。
「・・・でもさ、その薬ができたら何の問題もないんじゃないの」
「うん、そのはずなんだけど・・・」
「ボクからそのことをマリス様に伝えておくよ。・・・リア様だって落ち着いたらわかってもらえるよ」
「うん、・・・そうだね」
・・・友達って・・・ありがたいな。
「・・・今晩はどうするの?
・・・ランス王の家に行くの?」「・・・それはできないよ、シィルちゃんに悪いから。
・・・多分、ここで寝るんじゃないかな・・・」
「風邪ひいちゃうよ、ボクの部屋に来ない?」
メナドはそう言ってくれた。
「・・・ありがと。
・・・でも、見つかったら迷惑かかっちゃうよ」
「そんなこと気にしなくていいよ。それに、みんなほんとは捕まえたくないって思ってるから」
「・・・・・・ほんとにありがと。・・・でも、いいよ」
「・・・そっか・・・。じゃあ、ボクはこれからマリス様に報告しに行ってくるよ。
明日にはきっと命令は撤回されてるから」
メナドはそう言いながら、するすると木からおりていった。
「・・・メナド。
・・・ありがと」
「いいよ、友達じゃない」
メナドはそう言うと、にっこり笑った。
「・・・うん、そうだね」
私もそう言って微笑みかえした。
・・・・・・
・・・
「・・・・・・へっくち・・・」
体を丸める。
「・・・やっぱり夜は冷えるな」
コンコン・・・。
「・・・・・・ぐす、すん・・・」
コンコンコン・・・。
「・・・んーー?」
「・・・かなみさん、ここにいたんですね」
「シィルちゃん!」
明かりを手に持ち、木の下から見上げている女の子はシィルちゃんだった。
「こんな所で寝ると風邪ひいちゃいますよ」
「シィルちゃん、・・・どうして?」
「かなみさんを探してたんです。・・・ランス様はあっちの方を探してるはずですよ」
「でも・・・」
私は逡巡した。・・・・・・だって・・・
・・・だってね・・・
「レイラさんには私から事情を話しておきました。レイラさんがマリスさんに報告してくれるって言ってましたから、もう大丈夫ですよ」
シィルちゃんはそう言うとにっこり笑った。
「・・・シィルちゃん・・・」
「ねっ」
「うん・・・」
「おーー、かなみ!!
心配してたんだぞ!」入った瞬間、ランスがそう言って、いきなり抱き着いてきた。
シィルちゃんがそれを見てさびしそうな顔をした。
「・・・ありがと、今日も厄介になるわね」
私はそう言ってやんわりとランスから離れた。
「おっ、・・・そ、そうか」
私の反応が意外だったらしく、ランスはきょとんとした顔をした。
「私、もう眠いから先に休ませてもらうわね。
ランスにシィルちゃん、おやすみなさい」
「おお、・・・おやすみ」
「おやすみなさい、かなみさん」
うそ・・・だった。
そんなに眠たくはない。・・・でも、あんまりランスの側にいるわけにはいかない。
・・・ごめんね、シィルちゃん。薬ができるまで辛抱だから・・・。
「・・・・・・んーーー、・・・やっぱりねむれないなあ」
なんとか寝ようとしてるんだけど、どうも眠れない。
「・・・・・・2時か・・・、んっ?」
廊下の方から音がした。・・・誰かの足音のようだった。
「・・・トイレ・・・かな?」
私がそう呟いた時、扉がゆっくりと開いた。
「えっ?」
「?
・・・なんだ、起きてたのか」「ランス?
・・・なんで?」私の部屋にやってきたのはランスだった。
「なんでって、夜這いに決まってるだろうが」
「よっ、夜這い!?」
「うむ」
はっきり言って、ランスに夜這いをかけられたことはない。
・・・夜伽には何度も呼び出されたけど・・・
「・・・・・・かなみ・・・」
「・・・えっ?」
私がぼんやりと考え事をしているうちに、ランスはすぐそばにまで近づいてきていた。そして私がそのことに気づいた瞬間・・・。
「きゃっ!」
「・・・いいだろ?」
あっさりと押し倒されてしまった。
「だっ、だめ!!」
「・・・なんで?」
「な、なんでって・・・」
「俺様はお前が好きだ」
思わず赤面してしまう。
・・・あっ!
誤解しないでよ! ランスの奴が真剣な顔して間近でそんなこと言うからで、別に深い意味はないのよ!!
「・・・お前も俺様のことが好きなんだろう?」
「そっ、そんなことないわよ!」
「じゃあ、きらいなのか?」
「うっ・・・」
・・・そんな真剣な顔しないでよ。
「だったら・・・」
「とっ、とにかくだめ!」
「・・・なんで?」
意外そうにランスが聞き返した。
「今のランスはいつものランスと違うのよ。だから・・・」
「・・・いつもの俺様だったらいいのか?」
・・・う、そういうわけでも・・・
「・・・・・・・・・・・・。
・・・まあ、いいさ。・・・無理強いはしない。そのうちに応えてくれればいい。
・・・じゃあ、おやすみ」
「う、うん」
そう言うと、ランスはあっさりと引き下がった。・・・・・・やっぱり違う。
「・・・3時か・・・」
ランスのせいでますます眠れなくなってしまった。
「・・・なんか飲も」
私はそう考えると廊下に出て、台所の方に向かった。
「あれっ?」
居間へとつづく扉がすこし開いており、そこから明かりがもれていた。
「・・・消し忘れかな?」
私は居間のほうに向かう。その明かりは居間全体を照らすほどの強さではなく、明かりがついてるのが分かる程度のものだった。多分、魔法ビジョンかなんかの消し忘れだろう。
ドアノブに手をかけたとき、中に人の気配を感じた。
「・・・・・・・・・?」
そっと、隙間から中をのぞいてみる。
魔法ビジョンがついていた、やはりこれが明かりの正体だった。・・・深夜によくやっている「朝まで生討論会」みたいなのを映していた。
その前でただぼんやりと画面を見ている少女がひとり。
「・・・・・・・・・シィルちゃん・・・」
私は小さくつぶやいた。
シィルちゃんは画面をながめているようだったが、関心がそこにはないのは一目でわかった。
「・・・・・・・・・」
シィルちゃんが何かをつぶやいた。
・・・ランスさま・・・
唇の動きから、そう読み取れた。
「・・・・・・・・・」
私はなにか声をかけようとしたが、思いとどまった。
シィルちゃんはやさしいから、逆に気をつかわれるのがおちだ。
いくら薬のせいだとはいえ、つらくないわけがない。
「・・・・・・・・・ごめんね、シィルちゃん・・・」
こうつぶやくのは何度目だろう、でも・・・何度つぶやいてもたりないし、なにもかわらない。・・・それはわかっている。
「でも、・・・ごめんね」
私はそっとそこを離れた。
「おはようございます、かなみさん」
朝、元気にシィルちゃんがあいさつしてくれた。
「・・・うん、おはよう、シィルちゃん」
・・・なんて強い子だろう・・・
「・・・いい匂いだね」
「今日のお味噌汁には、しめじを入れてみましたよ」
「うん、おいしそう」
・・・ピンポーン・・・
「お客様かしら?」
「あっ、私が出るよ」
玄関に向かおうとするシィルちゃんを制する。
「・・・そうですか?
それじゃあお願いしますね」ピンポンピンポーン・・・
「はいはい、すぐ出ますよ・・・」
カチャ・・・
「どちら様でしょ・・・」
「あっ、やっぱりここにいた」
「メナド・・・」
玄関でにこにこしながら立っていたのはメナドだった。
「う、うん・・・まあ・・・」
私はちょっと照れて、ほっぺたを掻く。・・・あんなこと言っときながら結局はランスの家に泊めてもらっちゃったからなあ。
「それよりグットニュースよ!」
しかし、メナドはそんなことを気にしていないようでにこにこしながら話を始めた。
「どうしたの?」
「かなみちゃんに出ていた死刑は取り消しだって。・・・それで、リア様があやまりたいって」
「ほんと!」
「うん、ほんとだよ。それとこれはカーチス君からなんだけど・・・。
例の効能を消す薬、お昼ぐらいには完成するそうよ」
「ほっ、ほんと!!」
「あれえ、ボクがうそを言うと思ってるわけ?」
「ううん!
そんなことないよ!!」わたしはぶんぶんと首を振った。メナドはそんな私の様子を見てクスリと笑う。
「・・・よかったね、かなみちゃん」
「うん、・・・うん!」
いろいろあったけど、これで全部解決だ。
・・・よかった。・・・これまでごめんねシィルちゃん。もう大丈夫だよ。
「うーー、あのね・・・」
「はい・・・」
「えーーとね・・・」
「・・・」
「リア様・・・」
「わかってるわよ、マリス!」
私は謁見の間でひかえたままじっと待つ。
「かなみ、・・・・・・ごめんね」
「・・・いえ」
「あの、これからも私につかえてくれる?
かなみがいないと私・・・」「もちろんです」
・・・リア様にそう言ってもらえただけで十分です。
「・・・よかった」
・・・私もです、リア様。
「かなみ、そろそろ研究所の方に行ってみなさい。もうできているころだと思うわよ」
「はい、マリス様」
・・・これですべてが元のさやにおさまる。元の生活が一番いいなんて、幸せの青い鳥のお話のようだな。
「あれ?」
魔法研究所につづく道の途中に見知った顔を見つけた。
「ランスじゃない?」
「・・・ああ」
・・・ランス、どーかしたのかな?
「・・・かなみ、どこに行くんだ」
「えっ、・・・け、研究所にちょっと・・・」
私はちょっとたじろきながらそう言った。
そんな私をじっと見てから、ランスがつぶやくように言った・・・
「・・・薬ならないぞ・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・えっ?
「・・・ど、・・・どーいうこと・・・」
・・・なにをいってるの・・・ランス・・・。
「・・・完成したものはもちろん、材料になるものもすべて処分した・・・」
「なっ!
・・・なに言ってるのよ!!ランス!
なんでそんなことを!!!」はじかれたようにそう言った私を、ランスは怒ったように睨んだ。
「・・・なんでだと・・・決まってんじゃねえか!
お前が好きだからに決まってんだろ!!」
「・・・なんで、・・・なんで!!」
涙があふれる、声がかすれる。
「この気持ちが消されるってわかって黙ってられるか!!」
「でも、・・・でもその気持ちは・・・」
「そんなこたあ関係ねえっ!!
薬のせいだろうとなんだろうと今! ・・・今お前が好きなんだ!!!」ランスが私の肩をつかむ。
「確かにきっかけは薬のせいかもしれない・・・。
だが、人を好きになるきっかけなんて何だっていいんだ!
大事なのは今の気持ちだ!!」
「ら、・・・ランス・・・」
「俺様にとってこの気持ちは本物だ!
一片のうそ偽りない!!」「・・・や・・・、やめて・・・」
私は力なく首をふった。
「お前が好きだ!
かなみ!!」「・・・やめてよっ!!」
かすれた声で叫ぶ。
「リアのことが恐いのか?
心配ない。俺様が守ってやる!・・・一生守ってやるから!!」
「やめてってばっ!
・・・もう、・・・もうそれ以上言わないでよ・・・」私はただ弱々しく首をふる。
「俺様のことがきらいなのか?
だからだめなのか!?」「・・・お願い。・・・お願いだから、もうそれ以上、もうなにも言わないでよ・・・」
「かなみ!
お前は俺様が絶対に幸せにしてやるから!!」「・・・だめだよ、・・・もうだめだよ、・・・だめになっちゃうよう。・・・そんな、・・・そんなこと言われたらわたし、・・・わたし・・・」
・・・ほんとにランスのことを好きになっちゃうよう・・・。
「・・・・・・シィルか・・・」
自分でもびくっとしたのがわかった。
「・・・シィルのことが気になるんだな」
「ら・・・、ランス・・・」
・・・なにを、・・・なにを考えてるの。
「・・・シィルを追い出す・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・・・なっ!!??
「なにを言い出すのよ!
ランス!!」ランスの服をつかむ。
「だめよ!
そんなの絶対にだめっ!!」「・・・俺様が決めたことだ。お前は気にしなくていい」
ランスが静かに言った。
「そんな!
・・・そんなの絶対にだめ!!
・・・・・・お願いだから・・・それだけはやめてよう・・・」
「・・・少し待ってろ・・・」
ランスはそう言うと、ズンズンと歩き出す。
「・・・やめて!
・・・やめてよう・・・。それだけは・・・、それだけは・・・」私はランスを止めようとすそを握ったが、そんなものおかまいなしに突き進んでいく。
運命の扉はあっけなく開かれた。
その扉のむこうにいたのは・・・
「あっ、おかえりなさいませ、ランス様」
シィルちゃんが微笑みを浮かべて立っていた。
きっと、きっと、シィルちゃんはいつものランスが帰ってきたと思ってる。
いつもの、・・・いつものランスだって信じてる。
・・・それなのに、それなのに・・・そのランスに・・・・・・
・・・お願い。
・・・お願いだからシィルちゃんを悲しませるようなことは言わないで。
「シィル・・・」
ランスが静かに言った。
・・・その言葉は私にはひどく冷たく感じられた。
「はい。・・・なんですか?
ランス様」しかし、シィルちゃんはその言葉にうれしそうに答えた。
「やめて!
・・・やめてよ! ランス!!だめよ!!!」
なかば半狂乱になっていた私の大声を打ち消すかのごとく、静かに・・・
・・・そう、その言葉は静かにその場を凍らせた。
「・・・悪いが出ていってくれ・・・」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
あっ・・・、ああ・・・、ああああ・・・・・・
「・・・ら、ランス様・・・。・・・いったい・・・えっ?」
シィルちゃんが「一体なにを?」という顔をした。
「・・・出ていってくれと言ったんだ・・・」
もう一度ランスが静かに言った。・・・その声はひどく冷たくひびいた。
「・・・なんで、なんでそんなこと言うのよ・・・。ランス、・・・ランス!
ランスってばあ!!」私はランスの胸をたたく。
ごめん・・・、ごめんなさい!
ごめんなさいシィルちゃん!!
・・・・・・
・・・
「・・・・・・わかりました・・・」
その言葉が誰の口から出たのか、私には信じられなかった。
「し、シィルちゃん・・・?」
「ランス様、いままで大変お世話になりました。・・・・・・こ、・・・これからもずっとお元気で」
シィルちゃんは肩をふるわせながら、むりに微笑みをうかべてそう言った。
「だめっ!!
だめよシィルちゃん!・・・ランスはまだ変なんだよ、・・・真に受けちゃあだめだよう・・・」
そんな私の肩に、シィルちゃんがそっとふれた。
「・・・泣かないでください、かなみさん。・・・私のことは気にしないでください」
「し、シィルちゃん、・・・そんな、・・・そんなこと・・・」
「・・・本当に気にしないでください。・・・でないと、そうじゃないと・・・
・・・ランス様が悲しみますから・・・」
あっ・・・
「・・・し、しぃるちゃん・・・」
そんなに、・・・そんなにランスのことが好きなのに・・・。
「・・・お二人とも、幸せになってください・・・」
・・・こんなの、・・・こんなのないよ。
「それじゃあ・・・・・・」
シィルちゃんは顔をふせて私たちの横を通り過ぎる。
・・・こんなの、・・・こんなのだめだよおぉ・・・
がしっ・・・
ランスが横を通り過ぎようとしていたシィルちゃんの腕をにぎった。
「・・・らんす?」
「ランス様?」
私たち二人の視線を受けながら、ランスは信じられないものを見るような目で自分の手を見ていた。
・・・そう、シィルちゃんの腕をつかんでいる自分の手を・・・
「・・・・・・ランス様・・・、・・・・・・手を・・・はなしてください・・・」
シィルちゃんがかすれそうな声で言った。
「・・・・・・おねがいです、・・・ランス様・・・」
「・・・・・・・・・・・・だめだ・・・」
・・・たしかにそう聞こえた。
「・・・ランス・・・」
私は涙をぬぐった。
「ランス様・・・」
「だめだったらだめだ!
絶対にだめだ!!」
「・・・ランス・・・さま・・・」
「・・・ランス・・・」
「お前は俺様のものだ!
俺様だけのものだ!!」「・・・・・・あっ、・・・はい、・・・はい、はいっ!」
「・・・なにがあっても、・・・たとえなにがあっても・・・
ぜったいに俺様からはなれんじゃねええぇぇーーーー!!!!!!」
「ランスさまああぁぁーーーー!!!!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・・・結局、なるようになるものなんだ。
・・・・・・・・・
・・・
「・・・うーーむ、昨日の記憶がまったくない」
ランスが頭をひねった。
「まあいいじゃない、些細なことよ」
「・・・いや、昨日だけじゃないぞ!
その前から・・・おはぎを食べたあたりから記憶が吹っ飛んでるぞ!!」
ぎくっ!
「・・・そ、そうなんだ」
「かなみてめえ、おはぎになんかしこまなかっただろうな!」
ぎくぎくっ!!
「やーねー、そんなことしないわよ。・・・おはぎになにかしこむなんて・・・」
・・・おはぎには・・・ね。
「じゃあ、ランスも目を覚ましたみたいだし、私はもう帰るわね」
私はそう言うと、席を立った。
「・・・なんだか逃げ帰るみたいだな・・・」
ぎくぎくぎくっ!!!
「そ、そんなことないわよ!
・・・と、とりあえず任務も達成できたし、あんまり長居するのもなぁー・・・なーんてねっ!」
「・・・任務を達成?」
ランスがすっごく怪訝そうな顔をする。
「あああぁぁーーーーー!!!
そ、そそ、それじゃあかえるわね!」「もう、おかえりになるんですか?」
シィルちゃんが台所から顔をだして聞いた。
「うん!
・・・・・・いろいろと、迷惑かけちゃったね」
「いいえ、そんなことないですよ」
シィルちゃんが微笑みを浮かべる。私もつられるように微笑んだ。
「・・・なーーーんか納得いかんなあ・・・」
ランスはまだ考え込んでる。
そんなランスを無視して・・・
「・・・シィルちゃん・・・」
「なんですか?」
私はシィルちゃんの耳元に口を近づけると・・・。
「やっぱりシィルちゃんが一番お似合いよ」
「・・・かなみさん・・・」
シィルちゃんは顔を真っ赤にそめた。
「リア様に仕える私が言うのも何だけどね。・・・ほんとにそう思うよ」
「・・・かなみさん。・・・ありがとうございます」
「ううん。じゃあお二人さん、またね」
「はい。また来てくださいね」
「・・・うーーーーーーん、・・・なぁーーんか忘れてる気がするんだがなぁーー」
ランスはまだ頭をひねっていた。
・・・思い出さなくていいよ、ランス。
・・・・・・ううん、きっと思い出すことなんてないよね。
それからしばらくして・・・
コンコン・・・
カチャ。
「はい、どちらさ・・・、げっ、ランス!
・・・それにシィルちゃんも」「ふっふっふっふ・・・。話は聞いたぞ」
「な、なんのことかな?」
すごくいやな予感をふつふつと感じる。
「やっぱり薬を仕込んでくれていたそうだな。・・・それも俺様の取って置きのホレホレ薬を!」
「・・・ごめんなさい、かなみさん。私、ランス様の命令には・・・」
「あっ、あっ、あっ・・・」
「覚悟はいいな、かなみ?」
ランスがニヤリとわらった。
「あああああああぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!」
・・・・・・とっほっほ、やっぱりこういうおちなのね。
後書き
おかげさまでなんとか完成しました。ふーー、たいへんだった。
この話を作ったきっかけとしては、かなみちゃんのラブラブ話を書いてみたいなー、なーんて思って、そうして思い付いたのが・・・
「そーだ、かなみちゃんにホレホレ薬を飲ましちゃえ!」
でした。・・・が、かなみちゃん一人称ではなんか無理っぽいかなぁーと思い直し・・・
「じゃあランスに飲ましちゃえ!」
・・・安易すぎる・・・
これが、もー大変!
・・・ランス別人だし、シィルちゃんにいたってはもーどーすべって感じ!無理矢理二話構成にしたのは、ギャグパートとシリアスパートに分けるためでした。じゃないとギャップがあまりに・・・
かなみ「・・・とりあえず、どーにかなって良かったわ」
・・・うんうん、ほんとにそのとーりだ。
かなみ「・・・あんたのせーでしょ」
・・・うんうん、ほんとにそのとーりだ。
かなみ「・・・めずらしくみとめたわね」
いやー、今回はかなりひどいことしちゃったなー・・・と思ってね。
かなみ「・・・たしかに、・・・あれはかなりつらかったな・・・」
私も書いてて、かなりつらかったです。
かなみ「じゃあ、次は幸せなやつを・・・」
それはそれ、これはこれだ。
かなみ「とっほっほ・・・・・・やっぱし・・・」
それでは、次回もよろしく!
かなみ「・・・はは・・・よろしくね・・・」