「お前さん、ズバリ! 不幸じゃろ!!」

 

 

「………………は…?」

 

「うーむ、実にまれにみる不幸の相の持ち主じゃ、めったにおらんぞ!」

「………………」

 

 …言葉もでない…

 

「おっと、手相も拝見! なになに…心配せんでも見料はただじゃ、儂自身が興味あるだけじゃからのう!」

 その易者らしき爺さんは、そう言うと呆然とする私の手を強引にとった。

「おおっ! これは予想以上じゃ!!

 ここまで不幸をあらわしとる手相も、百年に一人持っとるかどうかじゃぞ!!」

 

「…ほっ! ほっとけええええぇぇぇーーーーー!!!!」

 

「ぐっ、ぐえええぇぇーーー!! ろっ、ロープ、ロープじゃ!!!」

 スリーパーホールドをかけた私の腕をたたきながら、爺さんが降参をした。

「げっ、げほっ、…まったく、きょうびの娘さんは敬老の精神もないのか…いたいけな老人に対して…」

 むせながら爺さんがそう言ってきたが…

「…いきなり不幸なことを言われた、いたいけな少女の立場も考えてよね」

 まったく、ただ散歩していただけなのに、ろくなことがありゃしない。

「…しかし、なんじゃのう…」

「…なによ?」

 

「…嬢ちゃんの胸はこぶりじゃのう、もっと揉んでもらった方がいいぞ」

 

「……………」

「…じょ、じょうだん、冗談じゃ! し…死ぬうううぅぅ…」

 無言で首を締め上げた私に、爺さんがそう言ってきた。ほんとに冥土に送ってやろうか! この爺さんはあっ!!

「…ま、まじで死ぬかと思ったぞい」

「…まじで殺そうかと思ったもん」

 真顔でそう言った私に…

「…や、ま、なんだな…コホン!

 …そんな嬢ちゃんに朗報じゃ」

 とってつけたような人のいい笑顔を浮かべて、爺さんが言った。

「………………」

「ま、そう警戒せんでも…」

「…まあ、聞くくらいはいいけどね」

 私はそう答えると、席に着いた。

 私が席に着くのを見届けると、爺さんは台の下に顔を突っ込んでごそごそと何かを探し出した。

「…むう、これでも…ないし、これでも…ないか」

「…何を探してるの?」

「…ん、いやのう…おおっ! これじゃこれじゃ!!」

 

 そして爺さんが引っぱり出してきたものは…

 

 

 

 鬼畜王ランス外伝  かなみちゃん忍耐帳

 

四之巻  「ああっ! ご主人様あぁっ!!(前編)」

 

 

 

「うむ、これじゃ!」

「…なに、これ?」

「ん、見てわからんか?」

 そう言って、爺さんは不思議そうな顔をした。

 その爺さんが持っていた物は、どう見ても首輪にしか見えなかった。

「…首輪…にしか見えないけど…」

「そう! 首輪じゃ! 名付けて『犬の首輪』じゃ!!」

「…そう、それじゃあ…」

「ああっ! ま、まちんしゃい! …せっかちな嬢ちゃんじゃのう」

 立ち去ろうとした私の腕をつかんで、爺さんが呼び止めた。

「これはただの首輪じゃないぞ!」

「…だから、犬の首輪なんでしょう…」

「嬢ちゃあぁん…そう、すさんだ物の見方をするもんじゃあないぞ」

 

 …悪かったわね…

 

「…この首輪にはな、呪いとも呼べるほどの強力な魔法がかかっておるんじゃ」

「…ふーん…」

 私はあからさまにうさんくさげな顔をして、そう答えた。

「…嬢ちゃん…

 

 …つらい人生じゃったんじゃのう…」

 

 爺さんがしみじみと言った。

 

 …うう、だからほっといて…

 

「…それで、どんな魔法がかかっているの?」

 私は話を元に戻した。

「うむ、絶対服従…奴隷の魔法がかかっておるのじゃ!」

「…絶対服従……奴隷…?」

 なんだか、どっかで聞いたことのある魔法だな…

「そう、この首輪をつけられた者は、つけた者に対して絶対服従となるのじゃ。

 奴隷…まさに『犬』というわけじゃな」

 …それで「犬の首輪」か…

「こいつのすごい所はな、相手の意志を消して…ロボットにするというのではない所じゃよ。…相手の意志を残したまま、屈辱に打ち震える相手を言いなりにさせる…マニアよだれものの一品じゃろ」

「…あ、はあ…?」

 嬉々として話す爺さんから、私は一歩引きつつ答えた。

「…というわけで、この超レアなアイテムを嬢ちゃんに激安特価でゆずってしんぜよう。いい話じゃろ…」

 そんな営業スマイルを浮かべた爺さんの前から、既に私は離れて歩いていた。

「…なんだ、キャッチか…時間損した」

「まっ! まちんしゃいって!!」

 本当に老人かと思うスピードで、爺さんは私の前に回り込んだ。

「…しつこいキャッチね…」

「そんなんではないんじゃ、あくまで嬢ちゃんのためを思ってじゃな…」

「…キャッチはみんなそう言うのよ…」

「だまされたと思って」

「…そう言われて騙されるのよ…」

 

「……嬢ちゃん……不憫な…」

 

 …そっ、そんなあわれみのこもった目で見ないでっ!

 

「…とにかく、嬢ちゃんは不幸じゃろ?」

「…またそれ?」

「…だれか特定の人物に振り回されて、さんざんな目にあっておらんか?」

「…そ、そんな…こと…」

 …………ある…ような…

「お前さんの不幸って、たいがいそいつに関わることから始まったりせんか?」

「…そ、そそ、…そんなこと…」

 ……ある!

「その特定の人物…いや、その男に関わったばかりに、ろくなことがないような気がしてはこんか?」

「…そ、そそ、そそそ、…そんな…そんな気…」

 

 …する! すっごくするっ! そんな気が猛烈にしてきたっ!!

 

「…そこで、これじゃ…」

 爺さんは私の目の前で、さっきの首輪を見せびらかす。

「…こいつを使って、その男を嬢ちゃんの『犬』にしてしまえば…」

「…し、してしまえば…」

 のどがゴクリとなった。

 爺さんはニヤリと笑うと…

 

「…怖い者ナシじゃ!」

 

 …………………

 ………

 …こうして、私は悪魔の誘惑に負けてしまった…

 

「まいど。…あっ、そうそう、キーワードは『命令』じゃからな」

「…キーワード?」

「そう、言うことを聞かせるためのキーワードじゃ!」

 

 …しかし、あいつが私に絶対服従…つまり、私の言うことを絶対に聞くってことだよね…

 

 ………

 …

「…ランス、ハンバーガーが食べたくなっちゃった」

「食えばいいだろ」

「グルメてりやきチキンバーガーが食べたいな」

「だから、かってに食えばいいだろが!」

「ランス、買ってきてよ」

「なんで俺様が!」

「買ってきて。命令よ!」

「ぐ、ぐぬぬぬぬぬうううぅぅ!!!」

 ……………

「…なにこれ?」

「…だから、ハンバーガーじゃないか!」

「…私は『グルメてりやきチキンバーガー』が食べたいって言ったのよ」

「そ、それはだなあ、期間限定でもう終わってたんだ。その『月見グラタンつくねバーガー』が今のおすすめだそうだ」

「ふう、やれやれ…わかんないかなあ?

 …私は、『グルメてりやきチキンバーガー』が食べたいな…って言ったのよ」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬううううううぅぅぅぅぅ!!!!!」

「…5分以内ね、命令よ。…ラ、ン、ス」

 

 …………

 ……

 …たっ、たのしいっ! 楽しすぎるっ!! あのときの仕返しがやっとできるんだっ!!

 

 

 残る問題は…

 

「…どうやって、つけるか…だよねえ」

 極めて難しい問題ね。あのランスが素直に首輪なんぞをつけさせてくれるわけもないし。

 …猫の首に鈴をつけようとするネズミ状態ね…

「…とにかく、何とかフイを…」

 

「おっ、かなみじゃねえか!」

 

「…へっ!?」

 突然横合いから声をかけてきたのは、さっきまで私が思い悩んでいた相手…ランスだった。

「こんにちわ、かなみさん」

 隣にいたシィルちゃんも、ペコリとあいさつをしてくれた。

「あ、や、こ、こっちこそ、こんにちわ」

 驚いてしまっていた私は、そんな噛みまくりのあいさつを返す。

「んっ!? なんだそりゃ?」

 ランスが私の持ってた首輪に気づき、聞いてきた。

「あっ! やっ、こ、これはべつに…」

「首輪ですか? 犬でも飼うんですか、かなみさん?」

 なんか言おうとした私に、シィルちゃんがそう聞いてきた。

「そっ、そうそう、忍犬でもしこもうかなあ…なんてね」

 おおっ、我ながらナイスフォロー!

「そうなんですかあ」

「ふーん…じゃあな、シィル行くぞ!」

「はい。それではかなみさん、これで」

「うん、じゃあね」

 私は手をひらひらさせて、二人を見送った。よし、なんとかごまかした!! …いきなり出てくるから、びっくりしちゃったよ。

 …えーと、何を考えていたんだっけ? あっ、そうそう、ランスに首輪をつける方法だったよね。

「…やっぱり、フイというか、スキを…」

 そんなことをぶつぶつ言いつつ、ランス達の背中を見守る。

 

 …どうでもいいけど、ランスって、一流の剣士の割に背中はスキだらけよねえ…

 

 ほんとに、ゲタゲタ笑いながら歩くランスの背中はスキだらけだった。

「…まったく、こうしてスキを伺おうとするのが、バカみた…」

 

 …スキ…だらけ?

 

 …た、確かに。…そ、それにさっき会ったばかりというのは…充分フイよね!

 

「…チャアアアアァァァーーーーンス!」

 

 うっ、なんか私、性格が変わったような…

 

 …問題ない。「鬼畜犬化計画」シナリオ通りだ…ニヤリ!

 

 …妙な指令がしゃべったような気がしたのを、強引に気のせいにする!

 そうっ! これはチャンスなのよ!!

 あの男をギャフンと言わせる最大のチャンスなのよ!!

 

 そうと決まれば、私は音もなくランス達の背後へと忍び寄る。

「…にしても…ホントに平和になりましたね、ランス様」

 シィルちゃんは気づかない。

「がっはっはっは! 俺様のおかげだな」

 ランスの奴も気づいてない。

 完全にとらえた。眼前にあるランスの首は、もはや私の思い通りと言ってもいいだろう。

 

 不幸よ! さらばっ!!

 

 私が心の中でそう叫びつつ、まさに首輪を駆けようとした瞬間…

「そうそう…」

「わきゃあっ!!」

 いきなり振り返ったランスに、心臓が飛び出るぐらい驚いた。

「おー、かなみ、どうした?」

「あうっ、あうっ、…べつに、なにも…」

 ドッキンドッキ…と早鐘をうつ心臓をおさえながら、私はなんとかこの場もかわそうと試み…

「そうそう、いいところであった。あれを見て思ったんだが…おう、これこれ」

 そう言って、私が取り落とした首輪を拾い上げると…

 

 カチャ…

 

「はっ! …はうあああああぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!!」

 

「おおっ、やっぱり似合うじゃねえか。絶対お前に似合うと思ったんだ、がっはっはっは!」

 実に無造作に、首輪をつけた……

 

 くっ、くううぅぅーーーー!! …なんてお約束な。…いくらあの作者が無能でも、ここまでお約束な展開に持ってくるとは…

 

 …ほっとけ…

 

 …落ち着け、落ち着くのよ! まだ大丈夫。…ランスの奴はただの首輪だと思ってる。なんとかうまいこと言って、外させれば何の問題も…

「おおっ、さっきの嬢ちゃん」

 

 ぎっくうぅっ!!

 

「おんやあ、自分でつけたのか?」

 くっ! 余計なことをしゃべる前に、息の根を…

「なんじゃ、もしやと思っとったが…、嬢ちゃんはやっぱりMじゃったか」

 スケベそうな顔をして、このじじいはとんでもないことを言いやがった!

 

 殺す! 絶対に殺す!!

 

「むぎゅっ!」

 

 爺さんの口封じついでに息の根を止めようとしていた私は、何かに頭を押さえつけられた。

「…じいさん、どういうことか詳しく聞かせてもらおうか?」

 私の頭を右手で押さえつけたそいつは、そう聞くとニヤリと笑ったのだった。

 

 

 …………………

 ………

 ……

「……はは、…あはははは、…ははははははは……」

「……くく、…くはははは、…がっはっはっは……」

 道ばたに、二人の笑い声がひびく。

「…ふふん、俺様を犬にするつもりだったか…

 

 こいつは、きっついお仕置きが必要だな」

 

「……はは、…あはははは、…ははははははは……」

 

 ………もはや笑うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

…つづく…

 

 いやー! 終わりにしてぇー!!

 

……でもつづく…

 

 …しくしく…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 

 おひさしぶーりの「かなみちゃん忍耐帳」のつづきです。

 アリスCDにも入ったことだし、続きを久々に書いてみました。そんでもって、またまた前後編です。

 

かなみ「あううー…」

  よっ、かなみ犬!

かなみ「あうううううううぅぅぅーーーーーー!!!」

  なっ、なんだ、その非難がましい目は…

かなみ「非難してんのよ! なによこの話は!

 脈絡もなく変なじじいを登場させて、怪しげなアイテムを使用するなんて、ひねりがないのもいいところだわ! 恥ずかしくないの!!」

  うん、全然!

かなみ「くうっ、このぉ!」

  楽しければ全然オッケーなのだ!

かなみ「なんだかんだ言って、結局どたばたして終わるだけよね。そうよね。絶対そうよね!」

  いーや、これからは男のリビドーを刺激する、ハードでコアなHシーンのてんこもりなのだ!!

かなみ「あうう、Hシーンはページ食うだけで内容ないじゃない」

  なくていいのだ!

かなみ「あうううーーー! でもでも…」

ランス「おーい、かなみー、行くぞー!」

  呼んでるぞ。

かなみ「あううううううぅぅぅーーーーーーー!!!!」

ランス「早く来い! め、い、れ、い、だ!」

かなみ「しくしく…」

 

 

 はてさて、ランスの文字通り「奴隷」「犬」になってしまったかなみちゃん。どうなることやら…くっくっく…(ひでえ)

 ではでは、後編でお会いしましょう!

 

 

 

 

 


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