バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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約束【ジェイシェリ】<2>
***

シェリーの俯いた顔が赤い。それが暖炉の焚火のせいなのか、他の理由からなのか、ジェイクは判断がつかなかった。
逃亡劇が幕を閉じて、ジェイクはシェリーの前から姿を消した。いつかまた会えるかと気にならなかったと言えば嘘になる。会えればいいな、という消極的な想いは別れる時にきっと自分で制御できないくらいまで膨らむだろうことは想像がついたので、敢えて会わずに帰国した。帰国して半年足らずでまさか再会するとは思いもしなかった。しかも、こんな事態に陥るなんて――
奇しくもあの時のようにこの山小屋に逃げ込んで、シェリーと暖を取ることになった。
最初に抱いていたシェリーの印象はアメリカから迷い込んだどんくさいエージェントくらいにしか思っていなかった。自身が反政府軍ということもあり、アメリカという国自体にいい印象を持っていなかったのも相まって、正直、シェリーの名前すら憶えていなかった。さっさとズラかって貰うモン貰っておさらばしようと思っていたのに――
そこまで考えてジェイクは内心苦笑した。
――(まさかここまで捕まっちまうとはな)

幸い小屋には暖炉があって、薪が置いてあったので火を起こすことができた。冷え切った身体の上から濡れた服のままだと低体温になる可能性があったが、火があればじき服も乾くだろう。ホッとしながら窓の外の吹雪を見ていると、シェリーがそばに寄って来て端末の液晶の中の地図を指さしながら言った。
「ジェイク、迎えのヘリがこの地点に来るはずなの。追手も迫ってるし、いざという時は私が囮になるから、あなたは一人でここに行って」
ジェイクは鼻で笑うように息を吐き出した。
「やなこった」
こんなやり取りにもまた既視感がある。あの時は頷いてしまったが、今回はもう嘘を吐く必要もない。
あっさり断ったジェイクをシェリーが唖然とした表情で見上げてくる。同時にくしゅん! とくしゃみをしたので、「寒いのか?」とその冷え切った手を握った。
シェリーが自分をどう思っているか――知るか。どうせ自分は気が長い方ではない。しかもこんなバカげた提案をしてくるヤツに遠慮はいらない。
シェリーの手を握ったまま、ジェイクは暖炉のそばの壁を背に座った。足を開いて空間を作る。戸惑うようにこちらを見ているシェリーを見上げて、手を引っ張った。
「来いよ」
「え?」
「寒いんだろ? 部屋があったまるまで俺で暖を取ってろ」
「そんな、いいわよ」
いいから、と握った手を引き寄せた。シェリーの身体を回転させつつ自分の前に座らせて、彼女の背中に胸がつくまで前屈みになる。シェリーの髪からいい匂いがして、ジェイクは目を閉じた。
「お前は置いて行かない。絶対にな」
後ろから耳もとで囁くように呟くと、シェリーの肩が跳ねた。振り向こうとする彼女の手を再び取って、小指に小指を絡めた。
「今度は嘘つかないぜ。約束だ。俺はお前と一緒に生き延びて、絶対に逃げ切る。だから、お前とは離れない」
「私の任務はあなたの保護と――」
「囮とかバカなことを言うなら、俺は今すぐお前の前から姿を消すぜ?」
言いかけたシェリーの言葉をねじ伏せる。
相手のターゲットは俺だろ? 俺から離れればお前は安全だからな。
「…わかったわ。一緒に行きましょう。その代り――」
諦めたように頷いたシェリーに笑いながらジェイクは絡めた小指を彼女の手ごと上げた。
小さい頃からよく聞かされた約束の時の歌。
――心配しなくてもお前は俺が守る。
そんな誓いを込めて、ジェイクは覚えている歌を口ずさんだ。


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