バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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苦い罠 - 後編 - 【レオエイ/ポッキーの日】
「欲しいもの…?俺からか?」
目の前のレオンが訝しげにこちらを見た。
(相変わらず察しのいいこと)
エイダは顔に出ないように気をつけながら首を傾げてみせる。こんなゲームを仕掛けてくるぐらいだからきっと酔っているんだろう。普段の彼ならば絶対にしない。
今日の出来事を鑑みれば仕方のないことかもしれない。
だからこそ、今自分がここにいる目的を考えると心苦しい。
「ゲームが終わってからね」
そう言ってレオンが咥えるポッキーの先をエイダは口に入れた。
パキンという音がする度にレオンの端正な顔が近づく。男の顔が至近距離に迫ったからといって焦る年齢でもないし、それはお互い様だろう。
敢えて目を逸らさずに見つめる。ブルーの瞳は吸い込まれそうなほど澄んでいて、そこに映る自分の顔はいつも通りで可愛げもない。
更にポッキーを噛んで距離を詰める。チョコの味が口に広がって、その甘さが意外においしく感じた。
顔が近づけば自然に瞼が下りる。キスする時と同じだ。もう距離はレオンの前髪がエイダの額にかかる程度に近い。自然にお互い交互に顔を傾けたのがわかった。吸い寄せられるように唇が触れる刹那――エイダは最後にポッキーを噛んで顔を離した。
「どう?」
肩透かしをくらったような顔でこちらを見るレオンに笑ってみせる。
「――泣けるぜ」
レオンが言いながらほとんど口の中だったポッキーをつまむ。1センチほどの長さで、手が大きい彼が持っているとその小ささが際立つ。レオンはそのままそれを口の中に放り込むと、グラスからポッキーを一本抜いてエイダに差し出した。
「次は俺の番だな」
「あら、やるの?さっきの証拠を食べちゃったじゃない」
言いながら差し出された先端を咥えると、不敵に笑う彼が低く言った。
「――いらないだろ、証拠なんか」
言うが早いか、ポッキーを折る勢いで一気に距離を詰めたレオンの顔が迫る。唇に吐息がかかる距離で更に呟く声が聞こえた。
「短い方が勝ち、だろ?だったら――」
憎まれ口を叩く暇さえない。彼の意図を悟った時にはざらりとした舌の感触が口の中に広がった。明確な意思を持った舌先がエイダの舌の上を浚った瞬間、背中にゾクリと快感が走った。かろうじて声が漏れるのは堪えた。堪えられなければ色んな事情がダダ漏れになることは今までの経験でわかっている。そして、気づけば残ったポッキーは口の中から消えていた。
「これで俺の勝ち、だろ?」
目的を達成して、レオンはあっさりエイダを解放した。初めて触れた唇はまだ熱を持っているのに、目の前の男は涼しげな顔で笑っている。
「…やるわね。いいわ、あなたの勝ちで」
「俺が欲しいものをくれるって?」
「…ええ、約束だものね」
だったら、と身を乗り出した彼の顔が間近に迫って、エイダは目を閉じた。何を言われるのかは火を見るより明らかだった。

――ゲームじゃない本気のキスを

音にならない言葉は合わせた唇から伝わった。
今日の出来事で彼は相当消耗したのだろう。感染したゾンビを殺すことには慣れているが、感染していない人間を撃ったのは初めてのはずだ。
貪るように求める唇も舌も濡れていて、それはまるで彼が泣いているかのような錯覚に陥る。
人々をバイオテロから守るために銃を取ったのに、その銃で守るはずの人間を撃った。

――ごめんなさい

エイダは合間に漏れる吐息で謝った。
それでも組織の命令は絶対だ。手に入れる必要があるならどんな手段を使ってでも手に入れる。そのツテがレオンしかないなら彼をも利用する覚悟でここにいる。
この店が彼にとって疲れた身体を休める癒しの場なのは知っている。だから今までは邪魔しなかった。でも――

どうしても必要な情報があった。
新種のウィルスを保菌している遺体だ。そう、彼が今日撃った人間の子供の遺体がどうしても必要だった。そのために彼が今日辿った足取りがいる。
ようやく唇が解放された時にはお互い軽く息が上がっていた。周りに他の客はいない。いつの間にかマスターの姿も消えている。
見下ろす彼の瞳を見つめながら、エイダは微笑んだ。

「See you around.」

エイダはそう言ってレオンの額にひとつキスを落として踵を返した。スーツのポケットに彼のガジェットの感触を確かめながら――



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