バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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10年早い罠 - 後編 - 【ジェイシェリ/ポッキーの日】
目の前のシェリーの頬が紅潮した。
煽ればきっと乗ってくるだろうとは思っていた。もちろん、この菓子をもらった時に聞いた下らないゲームをシェリーに仕掛ける気などさらさらなかったが――
朝からこの会議室に陣取ってるシェリーの姿は目に止めていた。昼時に通った時にもずっと同じ姿勢でパソコンに向かっていた。さすがにもう終わっているだろうと思った夕方にもやはり同じ姿勢で今度は資料の束を繰っていた。
(おいおい、休憩とかしてんのかこいつ)
半ば呆れつつ素通りしていた部屋の前に食堂でミネラルウォーターを買って(シェリーの好みがわからなかった)戻って来ると、やはり同じ姿勢のままのシェリーがいて、ジェイクは溜息をついた。
素直じゃないのは百も承知――きっとストレートに休憩しろと言っても「あともうちょっとだから」とか言って聞かないのは目に見えている。
それでふと思いついたのは、さきほど聞いた"下らないゲーム"の話。
昼メシも抜いてるんなら一石二鳥だろうと思った心の隅に下心がなかったと言えば嘘になる。
ゲームの概要を説明してもピンとこない鈍い女だ。
シェリーにとって俺は"男"なのか――
それを知りたいと思って何が悪い。半ば開き直りの境地でシェリーの鈍さを逆手に取って下らないゲームに引きずり込んだのは自分にとって吉と出るのか凶と出るのか。

パリッという音がやけに耳に響くのは全神経が集中しているからか。
目を瞑れと赤い顔で言われて素直に目を閉じたが、据わりが悪い。さすがにそれを表に出しはしないが、好きな女の息遣いをこんな間近で聞いて平静でいられるわけがない。
何度も伸びそうになる手は拳を握って耐えていると、不意に気配が遠のいた。
目を開けるとシェリーがこちらを上目遣いに睨んでいるのが見えた。頬はりんごみたいに真っ赤だった。
口に咥えた棒を離して見ると、3センチくらいは残っていた。
「結構頑張ったんじゃねぇ?」
わざと喉の奥でクツクツ笑うように言うと途端に猫が逆毛立つような気配になる。
「次はジェイクの番よ!」
ポッキーを袋から一本抜いて端を咥えたシェリーが顎を上げる。
「…じゃあ、悪ィけど手加減はなしな」
低く呟いて一気に半分近くを食った。至近距離でシェリーの目が見開いて、ブルーの瞳にはっきり自分の顔が映った。
更に大きく距離を詰めると、見開いた目を今度はぎゅっと強く瞑った。
白い顔が更に赤みを増した気がして、ジェイクは無意識の内に手を伸ばしてシェリーの片頬を支えた。後ろに逃げようとするシェリーの後頭部を更にもう一方の手で押さえる。
もう間にあるポッキーの存在さえ忘れそうになって、ジェイクは気づくと椅子から完全に立って膝から力が抜けているシェリーを支えている状態になっている。
箍が外れる――
そう思った途端、シェリーの手がジェイクの腕に触れた。その手が震えているような気がして、ジェイクは我に返ると同時に後ろに逃げようとするシェリーを離して咥えたポッキーを口元で折った。
「あ」
呟いた声が遠のいて、ジェイクはそのまま顔を背けた。とてもじゃないが今はシェリーに顔を見せられない。きっと色々ダダ漏れだろう。
「折っちまったから俺の負け」
早口で言うが早いかそのまま踵を返した。シェリーを試すつもりが自分の箍が外れてこんな無様な醜態を晒すとは――
「ジェイク!」
呼び止められてジェイクは「それはやるから腹に入れとけよ」とごまかすように早口で言って会議室のドアを開けた。
「ありがとう」
シェリーの声音が変わった気がして思わずジェイクはそちらを見た。
「私の身体を心配してくれて――ありがとう」
花が開くように微笑われて、ジェイクは再び視線を逸らす。
ゲームにかこつけた下心は気づいているのか、気づかないふりをしてくれているのか。それでもゲームにかこつけて休憩させようとした気遣いにはちゃんと気づく。

――こいつを試すなんて10年早いってか――

ジェイクは「別に」と素っ気なく言うしか術がない自分のガキさ加減にゲンナリしながらドアを閉めた。


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