バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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10年早い罠 - 前編 - 【ジェイシェリ/ポッキーの日】
「おい、シェリー」
呼ばれてシェリーは顔を上げた。その途端、首がピキッと鳴った気がしてどれだけ同じ姿勢でいたのか思い知らされた。
「お前、根詰め過ぎだぞ」
上げた視線の先には見慣れた長身の姿。差し出されたペットボトルは食堂の自動販売機で売っている銘柄だが、わざわざ寄ってくれたんだろうか。
「ジェイク…何してるの?」
ジェイクが渡米して数週間が経った。研究に協力するという形の滞在なのでイドニアに帰国するのはもう少し先になりそうだ、とシェリーは聞いている。そしてシェリーもGウィルスの検査で研究所には週に2回通っているのでジェイクとはよく顔を合わせる。
「今からホテルに戻ンだよ」
今日は終わったからな、とシェリーの座るテーブルの向かいにドカッと座った。
「お前、3時間前から同じ姿勢でやってるだろ」
「やだ、見てたの!?」
「見たくて見たんじゃねぇよ!通りかかっても気づきもしなかっただろうが!」
「だって…この書類をまとめて明日までに出さないとダメなんだもの…今日は検査だったから、こっちに持ち込んだの」
そう言いながら再び視線をテーブルの上に落とす。分厚い書類の束はまだまだ終わらないだろう。傍らのパソコンにデータを打ち込む作業は単調だが量が膨大で目を酷使する。シェリーは頭の奥が痛い気がしてこめかみを押さえた。
「大丈夫か?」
「うん、あともうちょっとだから――」
そう言った途端、シェリーのお腹が鳴った。あっ、と思った時には遅くて、向かいのジェイクが吹き出したのを見てシェリーは慌てて言い訳する。
「だって!今日はお昼も食べてなくて…!忙しかったから――」
「盛大に鳴ったな」
まだ笑いがおさまらない様子のジェイクはふとポケットを探って四角い箱を出した。
「これさっきもらったけど――」
言いかけて何かを思いついた顔をして、四角い箱のお菓子の封を切った。
「ポッキー?」
「ああ、受付の姉ちゃんが何か言いながらくれた」
「何か?」
ああ、と答えながらジェイクは細長い棒のチョコがついてない方を持ってこちらに差し出した。
「ポッキーゲーム?とかいうのをやる日らしいぜ」
「はぁ?なにそれ?」
シェリーは初めて聞いた単語に目が点になった。
「しらねぇよ。でもやり方は聞いたからやろうぜ」
「ええ!?今?でも私今忙しいから――」
「もう集中力切れてるだろ。甘い物補給しろって」
でも、となおも言い募るシェリーに「いいから」と手を振ってジェイクは立ち上がった。
「でも見えると体裁ワリィからブラインドは閉めるぞ」
そう言ってジェイクは会議室のブラインドをワンタッチで閉めた。この研究所は最新の設備を備えているのでほとんどがガラス張りだ。ブラインドもガラスが反射する仕組みでスイッチひとつで下すことができる。
「ほら」
シェリーの前に戻ったジェイクはポッキーを再び手に持ってこちらに向ける。でも、と反駁するのは気が引けた。ジェイクが根を詰めているシェリーを心配して休憩させようとしているのはわかっているから。
「ポッキーの両端をお互い咥えて先攻が食っていくだろ?折れた時点で終了。後攻も同じようにして、短い方が勝ちって寸法だってさ」
簡単な説明にシェリーは首を傾げるばかりだ。何で短い方が勝ちなんだろう?その仕組みさえわからない。
「ま、やってみたらわかるだろ。先を咥えてみろって。俺が先攻な」
「え?こう?」
シェリーは言われるがままちょんと先を咥える。
「そうそう」
満足そうに頷いたジェイクがもう一方の先端を咥えた。ぐっと近くなった顔にシェリーは思わず咥えた細い棒を噛んだ。パキッと音がして自分の口の中に短い棒が残って、ジェイクは長い棒を咥えた状態になった。ニヤリと笑ったジェイクがそれをそのまま口に入れて食べると、「ハイ、お前の負け」と顎をあおった。
「ええ!?どういうこと!?」
「相手より先に折ったら負けなんだよ」
その表情といい口調が鼻で笑う感じでシェリーの癇に障った。
「そ、そんなの知らなかったもの!今のは練習よ!」
頬に血が昇る感覚は自覚していたが、それが馬鹿にされたからなのかいつにない距離にジェイクの顔があったからなのかは自分でわからなかった。
乱暴な手つきでポッキーを箱から抜くと、シェリーはチョコの方をジェイクの口元に突き付けた。
「私が先攻をするわ!」
鼻息荒く宣言すると、ジェイクは肩をすくめて、どうぞ、と先端を咥えて身を乗り出して来たので、仕方なくシェリーも腰を浮かせてジェイクの方へ顔を寄せた。
恐る恐るポッキーの先端を咥えて少しずつ噛み始めると、段々近くなる顔はいつも見る顔なのに違うように見える。目が合うと猛烈に恥ずかしくなって「目を閉じて」と言いかけてポッキーを咥えたままなので「んんん」としか声を出せないことに気づいた。
ん?と眉を上げて答えたジェイクにギュッと目を瞑って見せて意思を伝える。もうここまで来たら何のためにこんな恥ずかしい想いをしているのかわからなくなる。
ジェイクはシェリーの意図が伝わったのか、軽く笑って素直に目を閉じた。
向こうからの視線が断ち切れたことで少し楽になった気がして、シェリーはスピードを上げてポッキーを噛み砕く。
(意外と睫毛長いなぁ…)
こうやって見ると年相応の顔かもしれない。普段はそうでもないけど、寝顔とかはきっと――
そこまで考えてシェリーは焦った。
(や、やだ、何考えてるの、私!)
ジェイクは信頼している友人で、それ以上でもそれ以下でもない。というかそんなことを考えたこともなかったけれど――
頭の中でそんな思考が駆け巡っていて口が止まっていたらしく、目の前のジェイクが目を開けた。もう終わりか?と言わんばかりの目線にシェリーは煽られた。
(何よ、何で私ばっかりこんなドキドキしないといけないのよ!?おかしいわ!私の方が年上なのに!!)
わけのわからない対抗心に煽られ、シェリーは近づいた距離を更に詰めた。


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