バイオハザード6の二次小説を書いてます。
| HOME  | INDEX | PIXIV | ABOUT | BLOG | E-mail | 
日常の片想い <2>
臆病

最近、シェリーが手を繋ぐのを嫌がるようになった。
宿泊しているホテルからラボまでの道のりでさえ、ちょっと目を離したスキに男にナンパされているから、一緒に歩く時はほとんど無意識で手を取るようになっていた。
天然で鈍いシェリーは最初はそれを疑問にさえ思っていないようだったのに、最近は違うようだ。
今日も何気なくシェリーの手を握りかけて、避けられた。

「何だよ?」
「つ、繋がなくても大丈夫よ」
「ダメだ。またフラフラしてナンパされるだろ、お前」
「…っされないわよっ」
胸の前で手を握り込むように組んでいるシェリーにジェイクは自分の手を差し出す。
「いいから手ェ貸せ」
「でも…っ!こんなのおかしいじゃない…」
「何が?」
「恋人でもないのに、手を繋ぐなんて…」
ジェイクは思わずシェリーを見下ろした。上目遣いで見上げてくるシェリーの頬は赤らんでいるようにも見えて、ジェイクは笑った。
鈍いように見えてそうでもなかったのか。それともようやく俺も意識されるようになったのか。
「何だよ、じゃあ恋人ならいいのか?」
「えっ…」
呆気にとられたように見上げるシェリーに口の端だけ吊り上げて笑ってやる。
「俺とお前が恋人同士になったら、繋いでいいのか」
「なっ…なに言ってるの?なれるわけないでしょ!」
「なんで?」
だって、とシェリーは口籠る。目線は忙しく泳いで、目も合わせない。
「私はエージェントでジェイクは大切な保護対象者なのよ。仕事関係の恋愛はご法度だし…」
「じゃあ仕事が終わったらいいのか」
畳みかけるように言葉を被せると、シェリーが目に見えて動揺した。
「な、何言って…」
俯いてどうしたらいいのかわからない態のシェリーを見下ろしながら、ジェイクは小さく溜息を吐いた。指先でシェリーの額を弾いて、「いたっ」とようやくこちらを見上げた顔に笑ってやる。
「冗談に決まってるだろ。別に意味なんかないから手は寄越せ。それが嫌なら俺の袖でもつまんでろ」
別にシェリーを困らせたいわけじゃない。戸惑うのがどういう気持ちからくるのかジェイクには判断がつかない。だから――

(口説けないなんて俺も大概臆病だよな)

自嘲気味に笑ったジェイクの手をシェリーがそっと握った。


絡まる指と指

「あ、ホラ、ジェイクよ」
同僚の声に振り返ってみれば、長身のスラリとした姿が見えた。
「アンタの担当じゃなかったっけ?」
聞かれて頷いたら、「怖そうだけど、大丈夫なの?」などと言われて、私は笑った。
「全然よ。いい人だわ」
顔は確かに一見怖そうだった。仏頂面で紹介されて口数も多くなくて会話も続かない。ヤな担当に当たっちゃったな、と思ったけれど――

「あ、シェリー」
見るとシェリーがジェイクに駆け寄るのが見えた。何か言葉を交わして、ジェイクの顔が見るからに明るくなった。
「付き合ってるのかな」
「さぁね」
私はそう答えて、ランチのサンドイッチをつまんだ。

――あの二人は付き合ってないわよ。

内心の声は音にならずに心の中に落ちた。
初めて会った時からジェイクを見ているから、彼の視線の先に常にいるのが誰かすぐにわかった。
それでも彼女の方は違うようなので、敢えて聞いてみた。

「ジェイクのタイプってどんな娘なのかな?」

シェリーに聞かれている意味がよくわからない感じで聞き返された。天然なんだろうな、と思っていたら、ジェイクに聞いたと返って来た答えが案の定度肝を抜かれる天然ぶりだった。
――どう考えても、それあなたのことよね?

何度言いそうになったことか。それでも思い止まった。 シェリーとは特に仲がいいわけではないが、会えば世間話程度はするから、彼女が本気でジェイクの気持ちに気づいてないのは有り得るだろうと思っている。だからまだ私にもチャンスがあるかしら、とチラと考えもしなかったと言えば嘘になる。でも、そんな考えはすぐに諦めに変わった。

「あ、手繋いだ」
同僚の声でそちらに視線をやると、確かに二人が手を繋いで歩いて行くところだった。繋ぐというよりジェイクがシェリーの手を引いている感じだ。
仕方ねェな、早く来いよ――きっとそういう名目でジェイクはシェリーの手を取っているんだろう。

――シェリーが好きなの?

そう聞いた私にジェイクは初めて笑ってくれた。ジェイクが私に笑顔を向けるのは、シェリーの話をした時だけだ。
それも彼の無意識だと思うと最初からもう負けているとしか思えない。

――シェリーに伝えないの?

それに対する彼の答えは明確で、泣きたくなるくらい揺るぎなかった。

――別に急がねェし。

ふと見ると、遠ざかる二人の指と指が絡むのが見えた。


BACK - INDEX - NEXT