バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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日常の片想い <1>
タイプ

「ジェイクのタイプってどんな人なの?」
シェリーからの突然の質問にジェイクは目を瞬かせた。
「…何でそんなこと聞くんだ?」
ジェイクは少し慎重に聞き返した。コイツが何を言い出すかわからないことは経験済みだ。
生い立ちを考えれば当然なのかもしれないが、あまりに男に対して無防備かつ機微に疎すぎる。赤ん坊をどうやって作るのか知ってるのか、と聞きたくなる。
DSOの要請で数ヶ月のスパンでアメリカに呼ばれる度に会うことになるシェリーとの関係は特に進展していない。こちらの気持ちは特に隠す理由もないのでダダ漏れなはずだが、シェリーがそれに気づいた様子はない。
「前にお前なんかタイプじゃないって言ってたじゃない?だから――」
そんなこと言ったか?と考えて――思い当たった。あの時か。
あのデカブツ野郎に追われた時に狭い場所に隠れて、身体が密着したんだっけか。「触んないで」とか言うから件のセリフを吐いたわけだが――
「だから、何で俺のタイプなんか聞きたいんだ?」
まさかそう切り返されるとは思いもしなかったんだろう、ポカンと見返されて、ジェイクは口の端を吊り上げた。
「俺のタイプが気になるのか?」
畳みかけるように続けると、シェリーが困ったように首を傾げた。
「気になる…と言えばそうね。ラボのホラ、ジェイクの担当のコ、覚えてる?彼女がね、ジェイクの好きなタイプってどんな感じなのかなって聞いてきてね――って、えっ?ジェイク?」
ジェイクはシェリーの言葉を最後まで聞き終わる前にその場にしゃがみ込んだ。
そうだよな、こういうヤツだよな。こっちに気があるのに気づいていて駆け引きを仕掛けてこれるほど器用じゃないし、そもそも駆け引きなんぞしなくてもいいほどこっちの感情は漏れているはずだ。その自覚はある。
それでも、シェリーはきっと何も気づいてもいなくて、更にその娘――名前どころか顔すら思い出せないが――のことを気軽に引き合いに出せるほどこちらを意識していない事実を突き付けられて、ジェイクはさすがに吐く息が重くなった。
「なに?どうしたの?具合悪い?」
シェリーがしゃがんで頭を抱える態のジェイクの周りをオロオロと回る。
「いや――」
しゃがんだまま頭を上げてシェリーを見上げる。
「俺のタイプはな、芯が強くて自分の信念をもってやらなきゃいけないことに立ち向かってるけど、天然で鈍くて壊滅的に料理が下手で不器用な――そんな女だな」
ここまで言ってもまだわからないか。それとも頭の隅を掠めるくらいには思い当たるか。

――「鈍くさい子が好きなの?」

怪訝そうに聞き返されて、ジェイクは撃沈した。ああ、と低く答えながら、立ち上がる。
お前みたいなな、と言うのは内心に留めた。

「じゃあ、私がタイプじゃないっていうのも頷けるわね」

得意満面の笑みで言われてジェイクは更に撃沈した。コイツにはストレートに「好きだ」とか言っても通じなさそうだな、と思うと、もうどうでもよくなって、乱暴にシェリーの手を取った。
「行くぞ」
急ぐという体裁でしか手を繋げない自分が情けないと思いつつも、ジェイクはこの手を放す気はなかった。


繋いだ右手

シェリーは繋がれた手を見て思う。

(どうしてジェイクはいつも手を繋ぐんだろう)

大抵「ホラ、行くぞ」と言いながらシェリーの手を取る。そして、そのままだ。
ラボ内でもそうだから、シェリーは会う人ごとに聞かれる。

――ジェイクと付き合ってるの?

聞かれる度に反射で出る言葉は「まさか」だ。
ジェイクとはそんなんじゃない。ではどういう関係なのだと聞かれてもシェリーは答えられない。
仕事関係の人?友達?
でも――そんな関係の人とは手は繋がない。その事実にシェリーは更に混乱する。
意味はないかもしれない。いや、きっとないと思うのに、繋がれた右手を見る度に居たたまれない思いにかられる。
放してほしいのか――そうではないのか、自分でもわからない。
ジェイクのタイプを聞いた彼女は答えを伝えたら寂しそうに笑って「そう」と答えただけだった。それ以来ジェイクの話は出て来ない。

「どうして手を繋ぐの?」
「あん?」
「手――繋がなくても歩けるわ」
「遅いんだよ、お前。フラフラしてあぶなっかしい」
「なっ…フラフラなんてしてないわよ!」
何よ、そんな人を鈍くさいみたいな――鈍くさい?
シェリーは最近そんな単語を聞いたなと考えて、思い当たる。ジェイクのタイプに鈍くさい子が好きなの?と聞いたことを思い出した。
思い出した瞬間、感情が沸騰した気がした。え、まさかあれって――そんな想いが込み上げてきて、慌てて打ち消す。そんなわけない。

「してなくても俺が繋ぎたいからいいんだよ」

さらりと言われてシェリーは目を見開いた。
「つ、繋ぎたいって何で…っ」
つっかえながら思わず聞くと、ジェイクは意外そうに振り返った。
「だからお前がフラフラどっか行かないように、だな」
「い、行かないってば!」
シェリーは思わず手を振り払った。思いの外大きな音がしたので、シェリーは竦んだ。でもジェイクは特に気にした様子もなく前を向いた。
「ちゃんとついて来いよ」
雑踏の中を一歩前を歩くジェイクについて行きながら、シェリーは浮かんでは消えていく思考を追った。前を行く背中が広くて大きいことに今さら気づく。こんな風に前を行くジェイクを見ることなんてなかった。いつも――横か後ろにいてくれたから?どうして?
考えれば考えるほどわからなくなる思考に気を取られて、気づけば歩く速度が落ちていたらしく、いきなり腕を掴まれて俯いていた顔を上げた。
「一人?下向いて歩いてると危ないよ」
ニヤニヤという形容がぴったりの笑顔を貼り付けた知らない男の人がシェリーの腕を掴んでいた。いつの間にか前を歩くジェイクとはぐれたようだ。
「どこ行くの?もしよかったら――」
言いかけた言葉はシェリーを通り越して背後に止まった視線で凍りついたように固まった。
「い、いや、何でもない。じゃあね」
慌てたように手を放してそそくさと去って行く背中を見ながら、シェリーは首を傾げた。同時に後ろから低い声が降って来た。

――「誰がフラフラしないって?」
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