バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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片想いの日常 <3>
恋に落ちた瞬間

――髪染めてんのか?

そう言われた時は意味がわからなかった。
「え?」
聞き返したら190cmの彼が胸のボタンに絡まった髪を丁寧に解きながらちょっと笑った。
笑った顔を見たのが初めてだったから、その幼さにびっくりした。
「いや、名前が…」
言われて更に驚く。名前からそう言われたのは初めてだ。
「イタリア系か?」
「そうね、父がイタリア人なの。ナポリの出身よ」

早足でラボの廊下を歩いて角を曲がった時に人にぶつかった。思わず後ろにたたらを踏んだら髪が引っ張られて悲鳴を上げそうになった。
「おい、大丈夫か?」
首を支えられて引き寄せられる。その感触にドキッとした。自分とは比べ物にならない大きくて厚い胸板が目の前に迫って、その近さに思わず後ろへ下がった。
「…いたっ」
「バカ、絡まってんだよ」
そう言って離れようとする腕を彼が掴んだ。その手は大きくて、自分の腕がすごく細く見える。彼の指先は黒ずんでいて、細長いけれど独特な節くれ立ち方をしている。どこかで見たことのある手だな、と思った。
「大丈夫か?」
言われて初めて顔を上げた。背の高い彼を見るために首を大きく反らせるように上げると、いつも無愛想だった強面の顔が心配そうな表情を浮かべてこちらを真っ直ぐに見ていた。
「解くからちょっと待ってろ」
自分の胸元に視線を落としてボタンを弄る手元をボーっと見ながら考える。
(ジェイク、だっけ…)
彼が渡米して来た理由は機密扱いで下っ端の私にはわからない。機関の職員でなく、研究に協力するオブザーバー的な立場のようだった。私は事務関連の処理を任されたので、彼とはよく接する機会があったが、無愛想で強面の彼に苦手意識しかなかった。190cmの彼の前に立つと150cmちょっとしかない私は正に見上げる感じになる。その威圧感に圧倒された。
(ああ、)
彼の手を見ながら思い出した。祖父の手に似ている――軍人の手だ。彼は日常的に銃を握る手をしていた。
(軍人?でも彼にそんな感じはない。どちらかと言えば傭兵という感じだ。ビザの手配もしたからアメリカ国籍じゃないから、海外の傭兵?そんな人がなぜアメリカのテロ対抗組織のオブザーバーで呼ばれるんだろう?)
今まで何の関心もなかったのに、ふと疑問に思った。

「髪染めてんのか?」

色んな意味で驚いた。彼が自分の名前を知っていたこと。会った時に自己紹介はしているが、呼ばれたことなどないし私的な会話を交わしたこともない。
そして、名前から髪のことを言われたのは初めてだ。

――ルフィーナ、は赤毛という意味がある。

名前に違わず彼女の髪は赤かった。幼い頃からそれがコンプレックスでずっと髪を染めたかった。こんな目立つ色じゃなくて、もっと地味な――だから、自立した時に思い切って染めた。
母も赤毛だったから家にいる間は染められなかった。母は子供の名前にそれを入れるくらい、赤毛を誇りに思っていたことを知っているから。
それでも自分の髪の色は好きになれなかった。
「名前につけるくらいだから、綺麗な赤毛だったんだろうな」
やっと解けた髪を放しながら彼が呟いた。
「俺の母親も赤毛だったけど、夕陽が反射してキラキラ光ってたな。それが子供の頃は宝石みたいに見えた」
ルフィーナはそう言って笑った彼の顔から目が離せなくなった。じゃあな、と廊下を歩いて行く彼の後姿をまだ目で追いながら気づいた。

――ああ、彼も赤毛なんだ。

坊主だから気づかなかった。ううん、関心がなかったから気づかなかった。でも、これからはきっといっぱい気づくことがあるだろう。

そして、気づいた。
彼の視線の先には赤毛じゃなくて金髪の彼女がいることに。

――あれだけ褒めておいてオチはそれなの?

ルフィーナは元の色に戻そうか考えた金色の髪を溜息を吐きながら後ろへ払った。

To be continued...

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