バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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08.しょうがないくらい好き
※「05.ああ、好きだなあ」の続き

「…好きだなぁ」
呟くように聞こえた声にジェイクは目を瞠った。
(今、なんつった?)
自分の仕事がラボで終わってシェリーを探していると、「今日は遅いんじゃないかしら」と顔見知りの職員に言われて、ジェイクは数日前の会話を思い出した。

「一度ね、家へ帰る途中に後ろを尾行けられたことがあってね…」
「ハァ?車で帰ってねぇのかよ?」
「免許も車も持ってないもの」
確かにそんな必要も今までなかったんだろう。だが――
「家までどんくらいだよ?」
「地下鉄に乗って1時間くらいかな。駅から家までの道で少し治安がよくないところがあってね…」
「タクシーで帰れよ」
我ながらちょっとしつこいかと思わないでもなかったが、何かあってからでは遅い。それでもシェリーは笑って顏の前で手を振った。
「大丈夫よ。護身用に色々持ってるし」
「でもよ…」
更に言い募ろうとしたジェイクをシェリーは心配性ね、普段戦場にも仕事で行くんだから、と取り合わなかった。

(…とりあえず待つか)
何時になるかわからないが、暗くなるのがわかっていて先にホテルに戻る気はサラサラない。
心配だから、と本人に素直に言う気はない。今はシェリーの仕事を手伝って、彼女に会えるだけで満足だ。
休憩所の椅子に陣取って、缶コーヒーを何本空にしただろう。顔見知りが通りがかる度に「どうしたの」と聞かれるが「別に」と答える。
待つことは仕事で慣れている。戦場では忍耐力が命綱だ。血気盛んに準備もせずに突っ込んで行くのは愚の骨頂だ。だから、ジェイクは待つのは苦ではない。ましてやその目的がシェリーのためであれば尚更だ。
何度目かの「どうしたの」をやり過ごしていると、次は「シェリーならまだよ」という声掛けに変わった。
どうやら自分の目的はダダ漏れらしいと悟ったが、特に顔に出すでもなく「そうか」とだけ答えておく。
自分の気持ちは特に隠してはいないので、きっと周りにはモロバレだろうなとはわかっていた。それでも本人は微塵も気づいていないが――
自分の気持ちを伝える気はないが、隠す気もないので勘がいいなら既に気づいていてもおかしくはない。それでも本人にそんな素振りはないから、きっと気づいていないんだろう。

――結構あからさまだと思うんだがな…

ジェイクはそう考えて苦笑いした。


――…てた…
ふと意識が浮上して、耳に届いた声に意識が覚醒する。
閉じた目を開けることなくこの状況を把握して、起きるタイミングを失った。シェリーを待つ間に眠ってしまったらしい。
「一緒に帰りたかっただけじゃないの?」
そう言ったのは、ジェイクがここで待ってる間に何度も通りがかった顔見知りの誰からしい。
「そんなわけないでしょ」
シェリーの笑いを含んだ返答にジェイクは溜息を吐きそうになった。

――んなわけあるに決まってんだろ

ジェイクが寝たフリをしたままじっとしていると、シェリーの気配が近くなった。どうやらこちらを見ているらしい。
何で起こさないんだ?と怪訝に思いつつ、いきなり起き上って驚かそうか、などと考えていると、シェリーの呟くような声に耳を疑った。
(好き?)
今、好きって言ったか?
ジェイクは思わず起き上った。向かいに座るシェリーも同じようにテーブルに突っ伏していたので突き合せた顔が近かった。
シェリーが目を見開いてこちらを見ていて、その顔が赤い。
「えっ!ジェ、ジェイク、起きてたの!?」
焦る声にジェイクの口元が緩むが自分でもわかった。
「起きてたら悪いのかよ?」
からかう口調で言うと、シェリーの顔が更に茹った。慌てて身体を起こして距離を取ったので、ジェイクも身体を起こす。
「いつから起きてたのよ!?」
赤い顔で下から睨むシェリーの口調は荒い。恥ずかしいのが一目瞭然で、ジェイクは笑いそうになった。
「さっきだな」
「さっきっていつ!?」
いっそ殺気立ってすらいる口調で聞かれて、ジェイクは堪らず吹き出した。
「な、何笑ってるの!?」
「別に」
まだ喉の奥でクツクツ笑いながらジェイクは立ち上がった。帰るぞ、と促しながら廊下を歩いて行くと、シェリーが追いかけてきた。
「何で笑ってるの」
どうやら顔に締まりがないらしく、シェリーには笑っているように見えるらしい。
「…な、何か、き、聞こえ、たの!?」
つっかえながら聞いてくるシェリーにチラリと視線を投げると真っ赤な顔が見えた。
「何かって?」
逆に聞き返すと言葉に詰まる。その様子がまたおかしい。
「お前が俺を大好きなのはよくわかったぜ?」
「なっ!な…、そんなこと言ってない!!」
「言った言った。聞こえた聞こえた」
軽い口調でそう言うと、シェリーはジェイクの袖を掴んで「言ってないってば!」と必死に抗議してくる。

――お前な、そんな茹ダコみたいな顔で言われても可愛いだけだぞ。勘弁してくれ。

「わかったわかった。何も聞こえてない――これでいいか?」
降参、とばかりに両手をホールドアップすると、シェリーが憮然とした表情で腕組みした。
「な、何よ!ジェイクだって私が心配でこんな遅くまで待ってたんでしょ!私のことが好きでしょうがないくせに!」
「ああ――しょうがないくらい好きだな」
素直に正直に答えると呆気に取られたようにポカンとしたシェリーは、次の瞬間またも耳まで赤くなった。
「な、なに…」
ジェイクは頭を掻くと、「オラ、行くぞ」と乱暴にシェリーの手を取って歩き出した。

――そこで赤くなって詰まるなら煽んな、バカ野郎!

掴んだ手がするりと解けたかと思うとシェリーが指を絡めてきて、ジェイクは赤くなって俯く彼女の方を更に見れなくなった。


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