バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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07.好きになってはいけない
自覚した想いは会う度に大きくなる。
ラボで見かけた彼はどんなに遠くても一目で見分けられる。
あ、いる――と思うと途端に落ち着かなくなって、反対方向に足を向けてしまうこともある。
会えば嬉しいのに面と向かうと苦しい。
戦場に出てればそんなことを気にする余裕も暇もないのでまだ楽なのに――

会いたいのに、会いたくない。

――一体どうしたらいいのか。


「…イ」
「おい!」
強い口調で呼ばれた途端、腕を後ろに引かれた。
顔を向けると眉間に皺を寄せたジェイクがシェリーの腕を掴んでいた。途端に心臓が痛くなった。
「な、なに…」
「何じゃねェよ。何逃げてんだ!」
「え、」
食堂でジェイクが見えたので、自然に回れ右してしまったのがバレたらしい。
「最近お前おかしいぞ。人の顔見たら逃げやがって」
「そ、そんなことない…」
「今も現に逃げただろうが!」
「用事を思い出して…」
自然と視線をずらしてしまうシェリーに苛立ったのか、ジェイクが腕を掴んだまま歩き出した。
「え、どこ行くの…」
聞いても答えないまま中庭まで引っ張るように連れて来られ、ベンチに座らされた。その隣にジェイクが腰かける。
「説明してもらおうか」
「だから、別に何もないって――」
言いかけた言葉はジェイクの盛大な溜息で遮られた。
「お前さ、自分でわかってねェかもしんないけど、避けてるだろ、俺のこと。結構露骨に。それは何でかって聞いてんだよ」
「避けてなんかないってば!」
思わず強く言い返すと、ジェイクがこちらを見たので、シェリーはまた目を逸らして俯いた。
「ジェイクの気のせいよ」
「俺が何かしたのか?俺はお前に嫌われてんのか?」
真剣な口調で問われてシェリーは顔を上げた。ぶつかった視線が真っ直ぐにこちらを向いていて、シェリーはたじろいだ。

――そんなわけない。その反対よ――

そう言えたらどんなに楽か。
ジェイクは仕事仲間。エージェントとして彼のパートナーにふさわしい自分でいたい。だから、こんな感情は邪魔なだけ。ジェイクもきっと望んでいない。
好きになっちゃいけないってわかってるのに――

日に日に大きくなる想いはいつか抱え切れなくなるんだろうか。卵が孵って雛になり、ピィピィ存在を主張している。鶏になる前に大切にしまってしまおう。私はエージェントになってバイオテロ撲滅のために一生を捧げると誓ったの。だから、恋愛なんてしない。
ジェイクの背中を預けてもらえるパートナーでいたいなら、笑え。笑って、ジェイクに言うのよ。
シェリーは全ての感情を消して顔だけで笑った。
「ホント言うとちょっと怒ってた。だって、ジェイク、この前、私に黙って仕事に行ったでしょう。危険だからって置いていかれたのは結構堪えたわね」
自然に言えているだろうか。声は震えていない?
「ホントは引っ掻いてやりたいくらいだったのよ」
「…あー、そりゃ悪かったな。だけどな…」
ジェイクの言い訳を聞きながら、シェリーは穏やかに微笑んだ。

――嘘ついてごめんなさい。でも知ったらジェイクは困るでしょう?だから――

シェリーの胸の奥で雛がピィと小さく泣いた。


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