バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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05.ああ、好きだなあ
シェリーはラボの廊下を足早に歩いていた。陽は既に落ちて、窓の外は真っ暗だ。仕事が押して遅くなってしまった。特に珍しいことではないが、早く帰りたいことには変わりない。
暗い窓に映る自分を視界の端に捉えながら、廊下の角を曲がって――
(あれ…)
ラボには各階に簡単な休憩所がある。自動販売機が置いてあり、その前には簡易テーブルと椅子が何組かある。その一つに見覚えのある姿があった。
椅子が小さく見えるほど大きな体躯が窮屈そうにテーブルに突っ伏していた。
「ジェイク?」
近寄りながら声をかけても返答はない。
腕を枕にして横を向いている顔を覗き込むと、目を閉じて寝入っているようだ。
シェリーはその意外にあどけない寝顔が珍しくて、思わず微笑んだ。

――こうして見ると年相応よね。

「あ、シェリー」
ちょうど通りかかった顔見知りの同僚がそばに寄って来た。
「仕事、終わったんだ。ジェイク、ずっと待ってたわよ」
「え?」
(待ってた?ジェイクが私を?)
何か約束したっけ?と頭の中でここ数日のジェイクとのやり取りを反芻していると、同僚は笑った。
「今日は遅くなるわよ、って言ったんだけどね?別にヒマだからいいって」
「そう」
シェリーは答えながら、特に思い当たることはないけどな、とぼんやり考えた。何か用事かしら?
「一緒に帰りたかっただけじゃないの?」
同僚が笑いながらそう言って手を振った。
「そんなわけないでしょ」
シェリーも笑って手を振りながら廊下を去って行く同僚を見送った。
今のやり取りでも起きる気配がないジェイクの前に座って、シェリーはテーブルに両肘をついて顎を乗せた。
こんなに間近でジェイクの顔をまじまじと見たことなどない。
(あ、意外に睫毛が長いんだ)
(唇が薄いイメージがあったけど、意外にそうでもないのね)
そんな"意外"な発見を楽しみながら、シェリーはジェイクの後ろの窓に視線が止まった。もうすっかり夜の帳が下りている。

ああ――

ジェイクが私を待ってたのは、きっと――

ラボからシェリーの家までは地下鉄を乗り継いで小一時間ほど。駅から家までの道のりで少し寂しい路地がある。そこで一度後ろを尾行けられたことがある、と話したのは記憶に新しい。
「車で帰れ」と言われて「大丈夫よ」という会話をした。あれからこんなに遅くなったのは今日が初めてだ。

シェリーは堪らなくなってジェイクと同じようにテーブルに突っ伏した。顔が熱い。もう、ホントに――

「…好きだなあ」

思わず呟いた言葉は誰もいない廊下に響いた。


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