バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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03.好きなのは自分だけ
「シェリー!」
我に返ると同時に腕を掴まれた。
「あ…」
昨夜の雨のせいで地面がぬかるんでいたらしく、ブーツで派手に突っ込んでしまった。
恐る恐る足を引き上げると、泥がベッタリついていて、シェリーは溜息を吐いた。
「何だよ、どうした?」
ジェイクは腕を掴んだままこちらを窺うようにして聞いてくる。
「何でもない」
「何でもないって、お前、この間からちょっと変だぞ?何かあったのか?」
心配そうな顔で覗き込んでくるジェイクに笑ってみせる。上手く笑えてるかシェリーには自信がないが、押し通すしかない。
「ちょっと疲れてるだけ。ここんとこ忙しかったから…ごめんなさい」
「休むか?」
まさか、とシェリーはジェイクの手をそっと外す。
「ただでさえ時間が押してるのに。本当に大丈夫だから」
そう言ってシェリーはぬかるんだ泥を避けて歩き出した。目的地までまだもうちょっと距離がある。
ジェイクに顔を見せないようにわざと足早に歩く。
――と、二、三歩行ったところで身体が宙に浮いた。
「きゃっ…」
思わず声を上げそうになって、視界が反転した。ジェイクの肩に担ぎ上げられた、と悟った時にはザクザク土を踏む音がした。
「寝不足か?」
「…降ろして!」
ジェイクの背中を叩くがビクともしない。地面がぬかるみを抜けたのか、石を踏む足音に変わった。そこでやっと降ろされる。
石畳の建物が爆発で半分吹っ飛んだような市街地だった。至る所に建物の残骸が残っているが、地面のぬかるみはなくなっていた。
「お前な」
いつになく厳しい瞳でジェイクがシェリーを見つめる。何よ、と反射で睨み返して――
「お前、プロだろ。作戦の前に寝不足か何か知んねーけど、注意力が散漫になるような状態ならもう帰れ」
いつものからかうような口調でなく、憎まれ口でもない。シェリーは思わず視線を下げた。
「ここは戦場なんだよ。お前のその甘い考えが命の危機に直結する。んなこたぁ、わかってると思ってたがな――」
俯いたままシェリーは唇を噛んだ。私は――何て馬鹿なの?

――どうせ好きなのは自分だけ――

そんな風に自分を卑下して本来の目的を見失った。
ジェイクに好かれてるかどうかばかりを気にして、そうじゃないことに八つ当たりした。挙句に任務に支障を来すなんて――
「ごめ、な…さい」
呟くように零れた謝罪と一緒に涙が瞼を越えそうになった。でも意地でも我慢する。
(ここで泣くなんて、どれだけ甘えれば気が済むの)
奥歯を噛みしめ、目尻に力を入れて辛うじて堪えた。
「わかったんならいい」
素っ気なく答えてジェイクが行くぞ、と顎をあおった。
それに答えて、足を踏み出して気づいた。

――ぬかるみに足を取られると疲れるから――

だから、ここまで担いで来てくれたんだ。

シェリーは込み上げてくる気持ちを飲み込んで、銃を手に前方に注意を戻した。


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