バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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感謝祭協奏曲 <7>
***

「万事うまくいったようでよかったな」
クレアは後ろから声をかけてきたレオンを振り返った。
料理は概ね好評で、終始和やかなムードで食事を終えた。夜も深まり、そろそろお開きにしようかとなり、片づけをするというシェリーをさっさと追い出し、クリスたちも「レオンが手伝ってくれるから大丈夫よ」と無言の圧力で帰した。どちらも今まで揉めていたのでゆっくり話す時間が欲しいだろう。
「そうね。ごめんね、手伝ってもらって」
クレアはレオンから食器を受け取って流しに置いた。
「いいさ、今日はとことん付き合いますよ、お嬢さん」
「もうお嬢さんなんて歳じゃないわよ」
レオンの軽口が懐かしく思えた。ラクーンから脱出してしばらく一緒にいた頃が一気にフラッシュバックした。
あの頃はお互い若かった。ラクーンの経験が二人の新密度を最大限にまで押し上げていたし、共有した恐怖に対する信頼は揺るぎなかった。だから、と言い訳するつもりはないが、気づけばお互いを欲していた。引かれあう磁石のように一度だけ。でも、レオンがエージェントになって、クレアはテラセイブに入った頃にはもう二人の進む道は分かれていた。お互いの目標は一緒だけど、手段が違った。それは二人がより親密になる過程を容赦なく壊した。
便りがないのはいい知らせ、とお互い連絡を取らなかったのは避けていた節もある。付き合っていたわけではない。何かを明確に約束したわけでもない。ただ一度、友達の枠を超えた。たったそれだけ。
好きという気持ちがあったのか、なかったのか、もうわからない。それでも大切な戦友というポジションは変わらない。
「クリスが躊躇う気持ちもわかるよ」
レオンがテーブルを拭きながら言った。
「お前がいつまでも独りだから言いにくかったんだろ」
「下らないわ」
一言でバッサリ切るとレオンが苦笑いしながらこちらに寄って来た。
「そう言うな。心配なんだろ。クリスだけじゃない、俺もな」
目の前に立ったレオンを見上げて、その首の角度が懐かしかった。こんなに間近で男性を見上げたのはいつぶりだろう?
「じゃあ、貰ってくれる?」
独りでいようという意思を持って独りでいたわけじゃない。誰かに寄り添えるなら、と思ったこともあった。仕事が忙しいとか、色んな言い訳を取っ払って残るのはどんな本心なのか。
「…俺に貰われて幸せになるならな」
わかり過ぎるレオンの返しにクレアは吹き出した。
本当に昔から嘘を吐くのが下手な人。でもいつでも、きっと誰にでも優しい。
「ご心配どうも。同じ独り身に心配されるほど落ちぶれちゃいないわよ」
取り繕った口調は彼を騙せたか。近づいた距離をいつもの距離に戻すためにクレアはレオンに背を向けて水道の水を勢いよく出した。
もうあの頃の自分たちではない。わかっていたはずなのに、とクレアは自分の心が意外に弱っていることを自覚しながら後ろに立つ戦友に言った。
「もう帰っていいわよ。後の片付けはやっておくから」
優しさをはき違えないで、とクレアは祈る気持ちで重ねて「またね」と言い募った。
しばらく黙ったまま後ろに立っていたレオンが動いた。
「じゃあ帰るよ。また連絡する」
そのまま気配が遠のいて、玄関が開いて閉まる音がした。
クレアは流しの縁に手を突いて、息を吐き出した。
食器から溢れた水がシンクを濡らしているのを見ながら、クレアは水道の栓を止めた。
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