バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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感謝祭協奏曲 <6>
***

「ピアーズ!」
呼ばれて肩を掴まれた。そのままグイと後ろに引かれてたたらを踏んだ。自分の体重は意外に軽い。
「何で逃げる」
クリスに問われてピアーズは顔を背けた。掴まれた肩が痛い。絶対に放さないというクリスの意思が籠っているようで、ピアーズは何も言えなくなった。
「来いよ。クレアに紹介する」
ピアーズは弾かれたようにクリスを見た。強い視線と絡んで、思わずたじろぐ。
「な、んで…」
「お前を傷つけてまで隠すことじゃない。悪かった」
「でも、クレアさんが――」
クリスがピアーズの左手を握って来た道を戻り始めた。
「今まではクレアが一番だった。だから、アイツに一番ができるまでは俺もクレアより大切なヤツを作っちゃいけないと思ってたんだ」
素直に手を引かれながらピアーズは頭を垂れた。
「でも大切なヤツってのは、作るんじゃなくて、できるんだな」
ピアーズは俯いた顔を上げれなくなった。この人は本当に――俺を泣かせるのがうますぎる。
「比べる次元が違うのはわかってる。でもお前とクレアが泣くなら――俺はお前を泣かせないようにするよ」
言いたいことは痛いほどわかった。俺との関係を理解してもらえなくても努力するってことだろう。
この人は本当に寸前までぐちぐち悩むし優柔不断なところもあるし、片付けは下手だし、俺がいないとロクな食生活じゃないし――でも、決めたらとことん男前だよな。
ピアーズは左手を塞がれてるので、右の肩口で顔を拭った。啜った鼻が痛かった。


「クレア!」
戻るとみんな揃っていて、レオンまでいたが――クリスは真っ直ぐにクレアを呼んだ。
「こいつはピアーズっていうんだが、」
「知ってるわ。アルファチームで一緒だった人でしょ?よろしくね」
にこやかに握手を求めるクレアを押し止めて、クリスは一気に言い切った。

「今日、連れて来たのはな、俺の家族同然だからなんだ」

周りが一気に静かになった気がした。ここにいる誰が知っていて、誰が知らないのかもわからない。だが世間的に見て衝撃の告白なのは火を見るより明らかだ。
クリスはクレアの顔から視線を逸らさなかった。クレアの変わらない表情からはどんな感情も読み取れない。だが、それがフッと緩んだかと思うと――

「知ってるわ」

あっさり言われてクリスは目を見開いた。
「え?」
「兄さんさ、昔から隠してるつもりでもモロバレなのよ。彼女が出来たらすぐわかったわ。全部顔と行動に出てるもの。今回は言いにくそうにしてるから何かと思えば――それでもずっと待ってたのよ?兄さんの方から言ってくれるのをね。今日誘ったのも紹介しやすいかと思ってだったのに、連れて来ないし、ホントに腑抜けよね」
あまりの言いようにクリスは呆然としながらも喘ぐように口を開いた。
「知ってたって、お前――」
昔から勘が鋭かった。妹に隠しごとをしてバレなかった例はないことをクリスは思い出した。
「何をそんなに言いにくかったの?私はゲイに偏見はないわよ。びっくりはしたけど、兄さんの人生だもの、反対なんかしないわ」
そしてクレアは再度、ピアーズの方へ手を差し出した。
「初めまして、ピアーズ。兄さんをよろしくね」
ピアーズは微笑んで「こちらこそ」と言いながらクレアの手を握った。
最強で最恐の妹はニッコリ微笑んで、クリスを見た。

「私が独りなのを気にしてるとか言ったら――どうなるかわかってるわね?」

クリスは全てお見通しの妹に、もう頷くしか術はなかった。
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