バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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感謝祭協奏曲 <4>
***

そして迎えた感謝祭――

クリスはピアーズに「一緒に行くか」という言葉を最後の最後まで言えずに家を出た。
あれからピアーズとは目すら合わせずに、会話も最低限だった。ピアーズからは何度か話を振られる素振りがあったが、クリスはピアーズが望む言葉をかけてやれない後ろ暗さから全部スルーした。
ピアーズも諦めたのか、家を出る時も特に何も言わなかった。
世間的にもお祝いムードで浮かれた雰囲気が漂う中、ピアーズを一人残してきたことが重く胸にのしかかる。だが、今はまだクレアに打ち明けられない。
たった一人の妹で、両親も早くに亡くした。自立心が強く早くから離れて暮らしているが、定期的に連絡は取っているし、大切な家族だと思っている。クリスがバイオテロに関わったせいで、クレアも自分と同じく辛い思いもした。負い目ではないが、やはり妹の幸せを見届けてから、という想いはあった。クレアに言わせれば笑止千万だろうが、兄としての責任だと思っている。クレアのためにピアーズを傷つけていいのか、という自問はもう答えの出ない問いなので放棄した。
クリスは暗く重い溜息を吐きながら、クレアの家に到着して呼び鈴を鳴らした。


「何だよ」
ジェイクは空港に降り立って、待合ロビーに入った途端、目の前に立ったピアーズを怪訝に思った。
珍しくピアーズから連絡があって、11月の末頃に日にち指定でこちらに来い、と半ば問答無用の要請だった。
意味がわからず突っぱねようとしたが、「来ないと後悔するぞ」という切羽詰まったような脅しに負けた。声の調子は真面目だったが、理由を問うても頑なに言わない。来てから話す、それの一点張りだった。
仕方なく来てみれば、空港まで迎えに来ている始末。一体何なんだ?
「お前、今日が何の日か覚えてないのか?」
ピアーズに言われてジェイクは顔を顰めた。
女じゃあるまいし、そんなに記念日を覚えているか、と顔に出たのだろう、ピアーズの顔も険しくなった。
「面倒だと思うのは勝手だがな、それでシェリーを泣かすのは違うんじゃないか?」
「ハァ?何でシェリーが泣くんだ」
ピアーズは大げさに額に手を突いて溜息を吐いた。
「やっぱりお前は何もわかってないんだな。シェリーにこの前会ったけど、すっげぇ落ち込んでたぞ」
ジェイクは訳がわからずピアーズの顔を見つめた。それをピアーズは真っ直ぐに見返した。
「感謝祭」
言われてジェイクは思い出した。そういえば行こうと誘われたのを断った。今までの人間関係が希薄だったから、どうしても面倒だという思いが先に立つからだったが――
「落ち込んでたって?」
何で、という疑問をピアーズは一刀両断した。
「やっぱり何にも考えずに言ったんだな、お前。家族じゃねェし、って言ったんだってな?」
言われて記憶を探る。そんなこと――言った、か?覚えてもいない。
「感謝祭が家族で祝う日だって言われて、家族じゃねェし、って言ったんだってな?」
ジェイクは虚を突かれた。客観的に聞けば、聞きようによっては――
「シェリー、泣いてたぞ」
正面から見据えられてジェイクは目を逸らした。
「ち、ちがっ!シェリーのことを言ったんじゃねェよ!おっさんたちも来るって言うから、そっちとは家族じゃねェし、って意味でっ!」
我ながら言い訳がましいと思いながらも言いかけた言葉は容赦のないヤツの平手が頭に飛んで来て遮られた。
「てめぇはもっと考えてモノを言えよ。てめぇも天涯孤独の身だろうが。シェリーが自分の大切な人たちを家族じゃないって言われてどんな気持ちがするか思い至れないほどガキなのかよ」
突き付けられた正論は耳に痛いが、それを素直に聞けるほどジェイクも大人ではない。何だと、と反駁しそうになって寸前に飲み込んだ。

――シェリーは何も言わなかった。

後でコイツに泣きつくほど辛かったはずなのに、微塵にも態度に出てなかった。ジェイクを笑顔で送り、「またね」といつも通りの態度だった――全部飲み込んで。
ガキ、と言われたのが癇に障って反射で噛み付こうとした自分が更にガキに思えた。
黙り込んだジェイクにピアーズは「行くぞ」と声かけて背中を向けた。出口に向かって足早に歩くのを追いかけながら、ジェイクは声をかけた。
「どこに?」
横顔だけで振り向いたピアーズの口の端が上がった。

――「クレアさんの家に決まってるだろ。何のために今日来たんだ、てめぇは」
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