バイオハザード6の二次小説を書いてます。
| HOME  | INDEX | PIXIV | ABOUT | BLOG | E-mail | 
感謝祭協奏曲 <3>
***

レオンは画面の文字を目で追いながら、首を傾げた。

『Dear.Leon
元気?私は相変わらず忙しい毎日を送っています』

そう始まったメールはクレアの仕事について少し触れた後、こちらの近況を伺う言葉が綴られていた。
クレアとは滅多に連絡を取らない。お互い忙しいのがその最たる理由だが、こんな風にメールを送ってくることすら珍しい。
もう何年前になるかわからないが、空港のテロ現場で会ったのが最後だ。ゾンビが徘徊する中を抜け出すのはラクーンの頃を思い出させた。
レオンはメールの話題がどこに飛ぶのかわからないまま読み進める。
つまり、彼女とは友達――バイオテロを介しての戦友だが、密に連絡を取り合う仲ではない。会えば一瞬でラクーンの頃の二人に戻れるし、手段は違えどバイオテロを撲滅したいという目的は同じだ。レオンは銃を取って、彼女は救済の道を選んだ。
だが、お互い多忙なために会う時間などない。密に会わなくとも会えば気楽に話せる仲という信頼もある。

『というわけで、感謝祭はウチに来ない?』

最後に締め括られた言葉にレオンは苦笑いする。
結局はそれが言いたかったんだろうが、というわけで、の接続詞が意味を成していない。
昔からそうだったな、と一緒に活動した頃を懐かしく思い出す。
それほど長く活動したわけではないが、明朗闊達を地でいく彼女は本当に思考も行動も男前だ。
可愛い顔とは裏腹に大雑把で細かいことは本当に気にしない。頭の回転は悪くないのに話の飛び方は昔から変わらない。

感謝祭、か――

家族で過ごすビッグイベントだが、生憎レオンにはそれを祝う関係の人間はいないので特に意識したことはなかった。
今回呼ばれたのは何か理由があるのか。考えても埒が明かないのは明白なので、レオンは画面にクレアの電話番号を呼び出した。
数回の呼び出し音の後、意外にすぐにクレアが出た。

「レオン?」

久しぶり、と答えたレオンにクレアが笑った。
「本当に久しぶりね。全然連絡を寄越さないから、生きてるのか死んでるのかもわからないわ」
「それはお互い様だろう。俺だって君から連絡もらったことはないぞ」
「それもそうね。便りがないのはいい知らせってことね」
屈託なく笑うクレアにレオンは「それで?」と話を促した。あまり長話もできないだろう。
「メール読んだんでしょ?その通りよ。感謝祭に一緒にお祝いしましょう。休み取れない?」
「予定で取ることはできるが、緊急事案が入ると無理だな」
「じゃあ予定だけは空けておいて。誰か呼びたい人がいたら一緒に来てもいいわよ?」
チラリと脳裏を掠めた顔を慌てて消す。何を考えているんだか。
「…誰かいるのね」
昔から人の表情を読むのが上手い彼女が探るような顔つきでこちらを見た。
レオンは苦笑いした。ポーカーフェイスには自信があるのに、彼女に隠しごとをできた試しがない。
「さぁな」
それでもせいぜいとぼけると、クレアもしたり顔で頷いた。
「いいわ、追及しないであげる。でも来れるならホントに来ていいわよ」
こういう間合いは読み間違わない彼女だからこそポーカーフェイスを看破されてもまぁいいか、と思える。
「そうだな」
レオンが思い浮かべた人物と一緒に感謝祭を祝うことなどできはしないのだが、それでもクレアの気遣いを無駄にしないために頷いておいた。
そのやり取りだけで、きっとクレアは多くの事情を察したのだろう。全く勘が良いにもほどがある。

エイダとはバレンタインに会ってから既に9ヶ月が経つ。その間、もちろん何の音沙汰もなかった。当たり前だ。もともと連絡を取り合う仲ではない。それが当たり前だった。でも――
最近は彼女のことを考える時間が増えた。やはり触れてしまったからか。キスともいえないキスをして、バレンタインには彼女の身体を抱き締めた。折れてしまうんじゃないかと思うほど華奢だった。
いくら焦がれてもエイダから返ってくるのは「またね」という素っ気ない挨拶だけだ。
それでもいいと以前は思っていた。だが、最近それでは満足していない自分に気づいた。気づいただけでどうしようもなかったが。

「じゃあ、当日、仕事が入らなかったらお邪魔するよ」

レオンはそう会話を締め括って通話を切った。
BACK - INDEX - NEXT