バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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バレンタイン協奏曲 <3>
***

シェリーは仕事を終えて帰って来た玄関先にジェイクが座り込んでるのを見て驚いた。
急いで駆け寄ると、アパートの前の階段に腰かけていたジェイクが「よぉ」と立ち上がった。
「何してるの?」
「待ってた」
「ええ?どうして外で?」
慌てて両手でジェイクの頬を触ろうとして、目の前に手品のように真っ赤なバラの花束が現れた。同時にむせ返るような甘い匂いが鼻腔を突く。
「え?」
訳がわからずポカンとジェイクを見つめると、あからさまにガッカリしたように肩を落とした。
「やっぱり知らなかったのか…」
続く言葉があの野郎、だったので意味がわからず首を傾げる。
「今日はバレンタインなんだろ」
「…バレンタイン?」
そう言えば帰る道すがら、やけに浮かれてるような人が多いな、と思った覚えがある。さながらクリスマスみたいだなって――
「男から女に贈り物をする日らしいぜ。俺も知らなかったけど」
ふてくされたように横を向いたまま言うジェイクに、シェリーは微笑んだ。
「それでわざわざ?」
シェリーはジェイクの頬を両手で挟んだ。吐いた息が白くて触った頬も冷たかった。
「ありがとう」そのままジェイクが顔を寄せてきたので目を閉じる。唇に柔らかい感触がしたのと同時に自分がいる場所を思い出した。
「んっ…」
逃げようとするシェリーの頭を片手で掴むと、ジェイクは更に口腔内を貪る。
足元にバサッとバラの花束が落ちて花びらが散った。
「んーー!」
腕を突っ張って抵抗するも、ジェイクはびくともしない。頭がしびれるような感覚に襲われ、膝も抜ける。ずり落ちそうになる身体をジェイクは片腕一本で支えて、もう一方の手は後頭部をがっちり押さえて逃げ場がない。
やっと解放された時にはシェリーの息は上がっていた。対してジェイクは涼しげな顔をしている。
下から睨み上げながら、シェリーは慌ててジェイクから離れる。
「もう!何するのっ」
「お前が目ぇ閉じるから」
まるでシェリーから誘ったかの言い草にシェリーは目を剥いた。
勢い込んで言い返そうとしたら、地面に落ちた花束をジェイクが腰を屈めて拾うとシェリーの目の前に差し出した。
「いらねぇの?」
「い、る、けどっ!」
差し出された花束を受け取って、言おうとした文句を飲み込む。バラに顔を埋めるようにして「ありがと」と小さく呟くと、ジェイクが肩を抱いて玄関のドアを開けた。
「続きは部屋でな」
「…!つ、続きなんかないわよっ!?」
思わず噛みつくと、意外そうにジェイクがシェリーを見た。
「俺、明日帰るぜ?今日のためにわざわざ来たのに?」
そう言われてシェリーは詰まる。
確かにサプライズで今日来たんだろう。忙しい合間を縫ってアメリカまで花束を渡すだけのために。
手を引かれて階段を登る。部屋の前まで来て、ジェイクが鍵を開ける。その音でシェリーは気づいた。
「いつから待ってたの?」
シェリーが何時に帰るなどジェイクは知らないはずだ。
この寒空の中、一体何時から外で待ってたのか。鍵を持っているのに。
「別に野営は慣れてるから気にすんな」
そう言いながら部屋へ入った途端、いい匂いが鼻腔を突いた。途端に自分の空腹を自覚した。
思わずジェイクを見ると、照れくさそうな顔で奥の部屋を顎で指した。
「サプライズ第二弾」
慌ててダイニングへ入ると、テーブルの上に綺麗に並べられた食器が目に入る。
「あとはあっためるだけだからちょっと待ってろ」
「作ったの?」
「来たのが遅かったから、簡単なのだけな」
そう言いながらキッチンに入って、手早く用意し始めた。
あっという間に整った食卓にシェリーは嬉しい反面、申し訳なさも感じた。
「シェリー?」
「わ、私は何も用意してないわ…」
困ったように俯いたシェリーにジェイクは笑った。
「俺もよく知らねェけど、男から女だから別にいいんじゃね?」
もっとも、とジェイクはシェリーの俯いた頤を掴んで上を向かせると、その青い瞳を覗き込んだ。
「何かくれるっていうなら、遠慮なくお前をもらうけど?」
言った途端にシェリーの頬に朱が差した。俯こうとする顔を顎を掴んだ手で阻止する。俯くことができなくて目を泳がせた彼女が可愛くて、ジェイクはクッと笑った。
「――くれんの?」
顔を寄せながら囁くと、「――私でいいの?」と小さく呟く声がして、シェリーの腕がジェイクの首に回った。

「お前以外にいらない」


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