バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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シタゴコロ 〜StoryB〜 <3>
****

あまり人のいない食堂に入ると、ポツンと座るシェリーの姿が目に入った。
近づいて行くと気配を感じたのか顔を上げた。目が合った瞬間、顔が赤くなった。目が泳いで慌てたように下を向く。
(怒っては…ないみたいだな?)
まずはそのことにホッとしながらジェイクはシェリーの前に座った。
「よぉ」
とりあえず声をかけてみると、俯いたままうん、と小さく答える。
「メシどうする?」
「…うん」
答えになってない答えにジェイクは笑った。聞いてんのか?と俯いた顔を覗き込むと、シェリーが大げさに後ろに仰け反った。椅子がガタッと大きな音を立てる。
「あ、あの…」
赤い顔のまま言葉も出ないシェリーにジェイクは首を傾げる。
昨日のことを気にしてるのは明白だが、反応が少しおかしい。怒ってるわけではなさそうだが、かと言って気にしていないわけでもなさそうだ。
「何だよ、どうした?」
「き、昨日の、ことっなんだけどっ」
「ああ」
ジェイクは背もたれに背中を預けてシェリーの先を待った。
「何であんなことしたの?」
「はぁ?」
何でって質問の意味がわかんねぇぞ。
「だから、どうしてそこまで私にしてくれるの?」
ジェイクはああ、と合点がいった。そっちか。
「お前が大事だから」
目を大きく見開いてシェリーが固まった。予想外の答えだったようだ。
「な、何言って――」
「何ってホントのことだからな。お前は俺にとって大事な女だから」
もう別に隠すこともないので素直に言う。
「…襲いたいってこと?」
「何でそっちに行くんだよ!?」
ギョッとして聞き返すと、途端にしょんぼりする。
「やっぱり違うのよね…」
おま、それって襲われたいって言ってるみたいだぞ?
何だか会話が変な方向に流れてきてジェイクは戸惑った。
「何だよ、襲われたいのか?」
「…ジェイクにとって私はそういう対象じゃないんでしょ?」
シェリーの思考が読めない。何が言いたいんだ?
「お前は昨日の話を全く聞いてなかったようだな?」
「聞いてたわよ!ちゃんと警戒心持つわ!もう部屋に泊まってとか言わないし、身体に触るのも我慢するわ。そんな風に思うのはジェイクにだけなんだけどっ、他の人にはそんなこと思わないけど、ちゃんと警戒心を持つわ。私なんて――なんて思わない…ように努力するわ」
一気に言い切ったシェリーの言葉の数々にジェイクは眉間に皺を寄せた。
「今なんつった?」
「え?だから…ちゃんと警戒心持つわって」
「その前。俺だけって何だ?」
シェリーは首を傾げながら聞かれるままにもう一度言った。
「…部屋に泊まってほしいとか思うのはジェイクだけよって。他の人には思わないわ」
ジェイクは恐る恐る聞いた。
「――お前、言ってる意味わかってんのか?しかも我慢するとか何だ?」
身体に触るのを我慢するとか言わなかったか?俺の聞き違いか?
「えっと、だから、ジェイクの身体に触ったりすると安心するから――でもジェイクが嫌なら我慢するって――」
ジェイクは目の前のテーブルに突っ伏した。いきなりの行動にシェリーが目を丸くする。

――誰かこの天然女を何とかしてくれ。


***

ジェイクの顔を見た途端、シェリーは目を逸らした。
いけない、ちゃんと昨日のことを謝って、聞きたいことを聞かないと、と思うのに顔をまともに見れない。
どうしよう、と思うとますます顔に血が昇る。ジェイクが何か話しかけているのも気づかず相槌も曖昧で、いきなり目の前にジェイクの顔が現れてシェリーは焦った。ガタンと椅子を倒しそうになって更に慌てる。
「あ、あの…」
怪訝そうな顔をされて、シェリーは言葉に詰まる。それでも思い切って一気に言い切る。
「あんなことさせて――あんな嫌な役をさせてごめんなさい。もう部屋に泊まってとか言わないし、身体に触るのも我慢するわ。そんな風に思うのはジェイクにだけなんだけどっ、他の人にはそんなこと思わないけど、ちゃんと警戒心を持つわ。私なんて――なんて思わない…ように努力する、わ」
言えた!と思いながらジェイクをチラと窺うと、物凄く険しい顔をしていてシェリーは慄いた。
え?言い方間違えた?
聞き返されて素直に答えたけど、違うと返された。
「その前。俺だけって何だ?」
え?だから…
部屋に泊まって欲しいとか、そこまで一緒にいたいと思うのはジェイクだけなんだけど。ジェイクの身体に触れてると安心するんだけど、襲われるとか考えたことなかったのは本当なので、他の人にはそもそもそんなことは言わないし、しないけど、ジェイクも嫌なんだったらもうしない。我慢するわ。嫌がられてるのにできないから。
「――お前、言ってる意味わってんのか?」
険しい顔のまま問われて戸惑う。意味って何?
そんなシェリーの前でジェイクはテーブルに顔を突っ伏した。

「ええっ!何?どうしたの?ジェイク??」

慌てて肩を揺すろうとして、シェリーは止まる。触っちゃいけないんだっけ。
どうしよう、と迷ってるとジェイクが何か呟いた。くぐもって聞こえなかったので顔を寄せて聞き返す。
「え?なに?」

――昨日、俺にキスされてどう思った?

もう一度言われた内容にシェリーは驚いた。それでも考え考え顔を伏せたジェイクに答える。

「びっくりしたし怖かったけど…でもジェイクは私のために嫌な役をやってくれたんでしょ?優しいなって思ったわ」
「嫌だったか?」
不意に顔を上げて真っ直ぐこちらを見ながらジェイクが聞いた。視線が絡んで目を離せなくなった。
「えっと…イヤ…じゃなかった、けど」
昨日のキスを思い出して顔が赤くなるのがわかった。でも目を逸らすことはできなかった。
「何で?」
「え?」
「何で嫌じゃないんだよ?付き合ってもない男にキスされて」
シェリーは思ってもない質問に詰まった。理由を問われるとは思わなかった。
「ジェイクの方こそ好きでもないのにキスまでして…何でそんなに優しくするのよ」
答えになっていないとは思ったが、答えはすぐに出そうになかったので敢えてシェリーはそう言った。
「それはもう言っただろ。お前が大事だからだって」
即答で返された言葉にシェリーは目を丸くする。
「俺は好きでもない女にキスなんかしねぇぞ」
ふてくされたような顔でテーブルに肘をついたまま目を逸らしながら言うジェイクの言葉をシェリーは反芻した。

――え?

でも、昨日、私にキスしたじゃ――
「嘘」
零れた言葉にジェイクは横目でシェリーを見てから呟いた。
「やっとわかったか、この天然女」
「え?ちょ、ちょっと待って。嘘でしょ?」
ジェイクは口の端を吊り上げて笑うとテーブルから身を乗り出してシェリーに近づいた。
「ここでさっきの質問に戻るぞ。何で俺にキスされて嫌じゃなかったんだ?」
「ええっ!」
戻るの!?えーと、だから…
「俺は言ったろ?お前が好きだからキスした。お前が大事だから優しくする。お前は何で俺がキスしても嫌じゃなかったんだ?」
「わ、わかんない」
頭の中がグチャグチャで沸騰寸前だったシェリーは立ち上がった。顔が赤い。
「コラ、逃げんな」
シェリーを追うように立ち上がったジェイクから逃げるようにシェリーは早足で食堂から出た。後ろからジェイクが追って来る。
シェリー、と呼ばれて心臓が鳴った。何でこんなにドキドキするの、こんなのまるで――
廊下を足早に歩いて行くと、ジェイクがシェリーの手を取って手近な部屋へ引っ張った。
「ちょ、どこに行くのよ?」
「お前こそどこ行くんだよ?逃げんな。答えを聞くまで放さねぇぞ?」
「は、放して…よ」
ジェイクが閉めたドアにシェリーを押し付けて顔を近づける。思わず目を閉じると間近でジェイクの声がした。
「何で俺にだけ触りたいんだ?」
「…し、知らない」
「何で俺にキスされて嫌じゃなかったんだ?」
「わ、わかん――」
ない、という言葉はジェイクに飲み込まれた。昨日とは比べ物にならないほど優しいキスだった。まるで自分が宝物になったような錯覚に陥る。ジェイクの気持ちが自分に流れ込んでくる。
言葉で言われるより饒舌なキス。唇が離れるのが惜しい。
ジェイクの唇が離れて、シェリーは目を開けた。目の前にジェイクの端正な顔が見えて、やっぱり心臓が跳ねる。
「これでもわかんねぇのか?」
見たこともないほど優しい顔で微笑まれてシェリーは悟った。

――どうしてあんなにジェイクに会いたかったのか。
――もっと話したくてずっと一緒にいたかった。触ると安心するのはなぜか。
――あんな風にキスされても嫌な気持ちにならなかったのはどうして。

「好き…だから?」
呟くとジェイクが顔を顰めた。
「疑問符がつくのかよ?」
「だって、わかんないもの。こんな気持ち初めてだし。でもジェイクと会えると嬉しいの。話をいっぱいしたいと思うの」
ジェイクは顰めた顔のまま溜息をついた。
「ホントにどこの箱入りだよ、お前は」
「…ジェイクは私を襲いたいと思うの?」
シェリーは気になりながらも聞けなかったことを聞いてみる。聞かれてジェイクが目を瞠った。
「はぁ?」
「だ、だから!私の身体を気味悪いとか思ったりしないの?」
「思うわけねぇだろ。どっからどう見ても普通の女じゃねぇか、お前は」
「ホントに何とも思わないの?私に気を遣ってるんじゃなくて?」
重ねて聞いたらジェイクが片眉を上げてシェリーを見下ろした。へぇ、と呟いた声音に不機嫌な感情が混じるのがわかった。
「証明して欲しいんならしてやるけど?今すぐ」
え?と聞き返す間もなく顎を掴まれて上を向かされる。荒々しく唇を噛みつくように塞がれて、声を上げようと開いた口に舌が侵入する。一度許した侵入を阻止する術などシェリーにはなくて、抵抗の意を示すには手でジェイクの腕を叩くくらいしかない。それでもそんなことでジェイクが止まるはずもなく、食い尽くされる錯覚を覚えるようなキスをされながら、シェリーは頭の芯がぼうっとして溶けていくような感覚がした。

「――!」

そんな感覚を覚醒させたのはシャツの裾から入ったジェイクの手の冷たさだった。
背中に回されていたジェイクの手がシェリーのシャツの中に入って、素肌に直接触れたのがわかった。さすがにシェリーは塞がれた口から声が漏れる程度には抵抗した。
「んー!!」
拳でジェイクの胸を叩くと同時に口が解放された。シャツに侵入した手もするっと逃げる。
ジェイクは膝が抜けたようにその場に崩れ落ちそうになったシェリーを支えて、腕の中で頬を上気させて上目使いで睨む彼女を涼しい顔で見下ろした。
「何だよ、お前がやれって言うから」
「なっ!私のせい!?言ってない!そんなこと言ってないわよ!」
「お前が何回も聞くからだろ。俺はお前の身体を気持ち悪いとか気味悪いとか思わない。他の誰がそう思おうと関係あるか。俺はお前がGの保菌者だろうが何だろうが、お前がお前だから好きなんだ――って何回言ったら理解できる?」
シェリーは先ほどの茶化した雰囲気は消えて、真摯な瞳で見下ろすジェイクの言葉に泣きそうになった。

――どうして。

どうしてジェイクは私が言って欲しい言葉がわかるの。
Gウィルスなんて関係ない。Gだから欲しいんじゃなくて、Gだから気味悪いんじゃなくて、私が私だから必要だって――誰かに、ずっと誰かに言って欲しかった。

シェリーはたまらずジェイクの首に手を回して抱きついた。
「ありがとう、ジェイク」
抱きつかれたジェイクがフッと笑う気配がして、シェリーの耳元で呟いた。
「で?お前は俺をどう思ってんだ?」
シェリーは首に回した手に力を入れて、言った。

「大好きよ」


**
「さて、と…」
ジェイクは首に抱き着いているシェリーを抱え直した。
「帰るか」
うん、とジェイクから離れた。俯いた顔が赤い。
「ホテルまで送るわね」
言われてジェイクは反射で言った。
「オイオイ、今日はお前ん家に泊まるだろ!」
「え?何で?」
「何でって――」
出来上がってない時に泊まれっつって、出来上がってんのに何で別々なんだよ!?
「だって、ジェイクが言ったのよ?もう男の人を家に泊めたりしないわ」
「だからそれは――」
「ジェイクだって男の人だもん。私のそばで何もしないでいられないんでしょ?」
(何かしたらダメなのかよ!?)
口に出せない叫びはシェリーには全く届かない。無邪気に笑うシェリーの顔を見ながらジェイクは溜息をついた。

ここで強引に出れない俺はきっとシェリーには負けっぱなしなんだろうな。

ジェイクは内心、それも悪くないかもな、と思いつつ、前を歩くシェリーの手を握った。



別ストーリー/ジェイクがシェリーを襲わないバージョン⇒StoryB

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