バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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シタゴコロ 〜StoryA〜 <3>
シェリーは空港に降り立つと足早に到着ロビーへと向かった。
調査は簡単な上に思いの外はかどったので随分早く終わった。アメリカに到着するのは夜中になるかと思ったが、まだ夜の7時だった。
そこそこの人込みに紛れてシェリーはそのまま到着ロビーを抜けようとして、足を止めた。
長身のすらりとした立ち姿に目を瞠る。
(な、何でここに?)
シェリーは訳がわからず立ち尽くした。
するとジェイクがこちらに歩いて来て、シェリーの目の前に立った。たった1日なのに、見上げた首の角度が懐かしい。こんな風にもう向かい合うことなどできないと思っていたから。
「おかえり」
何も言えずに立ち尽くしているシェリーにジェイクはそう言った。
「…ただ、いま」
シェリーも戸惑いながらも返す。
「どうしたの?どうして…」
「迎えに来た」
そう言ってジェイクはシェリーの手を引いて歩き出した。シェリーはジェイクの温かい手に触られた途端、弾かれたように手を引っ込めた。手を払われる形になったジェイクがシェリーを見る。シェリーは自分の手を胸に抱き込んで狼狽えた。顔に血が昇る。
数日前まではあんなにジェイクに触れたかったのに、今は触れられると居たたまれない。自分から頬や唇にキスしたなんて、信じられない。恥ずかしくて死にそうだ。
「何だよ、数日前まではあんなに積極的だったのに」
考えていたことを言い当てられて、シェリーの顔は更に茹った。
「あ、あれは、だから!」
「だから?」
「何も考えてなかったって言うか!」
「今は考えてるのか?何て?」
ジェイクは口の端を吊り上げて聞いた。シェリーは顔を赤くしたまま俯いた。何も言えずにいると、今度は手首を掴まれて、また手を引かれた。
「とりあえず行くぞ」
シェリーは抵抗せずに素直について歩く。頭の中が混乱して訳がわからない。
なぜジェイクは迎えに来たのか。
シェリーの気持ちを知ってるのか。知った上で迎えに来たのなら、その意味は?
シェリーがぐるぐる考えている間にタクシーに乗ったらしく、気づくと後部座席にジェイクと並んで座っていた。
そして――
ジェイクがシェリーの指に指を絡めた。シェリーは初日のタクシーの中で自分がしたことを思いだして、顔から火が出そうになった。
あの時は何とも思わなかった行為が今は身悶えするほど恥ずかしい。
「あ、あの…ジェイク、手…」
放して、と言おうとしたら、ジェイクが更に強く握った。
「お前だってしただろ」
「そうだけど…でも」
「嫌か?」
聞かれて反射で横に首を振る。じゃあいいだろ、と押し切られてシェリーはまた俯いた。

どこに行くんだろうと思っていたら、シェリーの家の前にタクシーが停まった。
送ってくれたのかな、と思っていたら、ジェイクも一緒にタクシーを降りたので戸惑った。
やっぱり指を絡めたまま手を引かれて部屋に連れて行かれる。
「あの…今日はどこに泊まるの?」
「ここに泊まる」
シェリーはびっくりしてジェイクを見た。
「だって、嫌だったんでしょ?」
ジェイクはわざとそっぽを向いたまま頭を掻いた。
「だからそれは…」
しばらく逡巡する間があって、ジェイクは溜息をついた。
やっぱ俺から言わないとダメだよな…と呟いて、ジェイクはソファにドカッと座った。足を広げてシェリーの手を引いて前に立たせる。手を握ったままジェイクがシェリーを見上げると、真摯な瞳とぶつかった。
「お前が好きだから、一緒の部屋に泊まれなかった」
言われてシェリーの頭が真っ白になる。
え?何て?
「ええ?何?好きって…」
「もう二度と言わねぇ!」
噛みつくように言われてシェリーは自分の聞き違いでも思い違いでもないことを悟る。ジェイクの顔が赤い。
「それでどうして泊まれないの?どうしてずっと避けてたの?」
ジェイクの気持ちも信じ難いが、それよりもそっちの方が疑問だった。好きなら一緒にいたいんじゃないの?
ジェイクはがっくりと肩を落とすと、だからそれはーと言葉を選ぶように唸った。
やがて顔を上げるとシェリーを膝の上に横抱きに抱えた。その勢いのまま顔を近づける。
至近距離で見つめられてシェリーは慌てて腕をジェイクの胸に突っ張る。
「な、何?」
「好きだからキスしたい。抱きたいと思うだろ?好きな女から同じ部屋に泊まってって言われたんだぜ?それを我慢する男の身にもなれってんだ」
「我慢?」
「お前の気持ちがわからないのに何もできないだろーが!」
シェリーが考え込む。あの時点で既にジェイクはシェリーを好きだと自覚していたということだろうか?確かに、あの時はシェリーはまだジェイクが好きだと自分で気づいてなかった。それでこんな風にされても戸惑うだけだったろう。怖いと思ったかもしれない。
「お前はちょっと男に対して無防備すぎる。男に対して部屋に泊まれなんて襲って下さいって言ってるようなもんだぞ?」
「そうなの?」
「…他の男に言ってねーだろうな?」
「言うわけないじゃない。レオンになら言うかもしれないけど。でも、あんな風に話したいとか触りたいとか思うのはジェイクだけよ」
言った途端、ジェイクが目を見開いたので、シェリーは自分が変なことを言ったのか心配になった。
「触りたい?」
聞き返されたので素直に答える。
「歩いてる時とか袖を掴んだりしたかったもの。何だかジェイクに触れてると安心するっていうか――」
「お前、試してんのか?」
言葉尻に被るように言われてシェリーは首を傾げる。何を?と表情で聞くと――
「俺の忍耐力を試してんのか?言っとくけど、今日はもう我慢しねぇぞ。お前の気持ちもわかったことだしな」
シェリーは慌てた。
「わ、私、何も言ってないわ!まだ!!」
「じゃあ今から聞く」
しれっと言い返されてシェリーはまた顔が赤くなる。
「何で俺から離れようとした?」
至近距離で見つめられてシェリーは目を泳がせた。
「…嫌われてると思ったから」
「だから泣いたのか?」
何で知って…と言いかけたシェリーの脳裏にレオンの顔が浮かぶ。もう、お喋りさんね。
「泣くほど辛かったのか?俺に嫌われて?」
「わ、わかんない…」
もうほとんど言わせるに近いじゃない、と思いながら微妙に抵抗してみる。
「じゃ、考えな?」
う、と詰まってシェリーの視線があちこち彷徨う。
「何でそんなに辛かったんだ?」
畳みかけるように聞いてくるジェイクを上目遣いに睨む。
「聞かなくてもわかってるでしょ!」
「シェリーの口から聞きたい。俺は言ったぞ?」
もう、と口を尖らせてシェリーは諦めた。

「好きだから!好きだから嫌われて苦しかったの!」

言った途端に唇に優しい感触がした。すぐに離れてジェイクがシェリーを抱えたまま立ち上がった。
「じゃ、もう遠慮しなくていいな?」
そのまま寝室の方へ歩き出す。シェリーは意味を悟って慌てた。
「ちょ、ちょっと待って、て、展開が早い!」
「どこがだ。こっちはずっと待ってたんだ。遅いくらいだ」
「私にしたら早いもの!もうちょっと待って」
「いつまで?」
聞かれてシェリーは考え考え答えた。
「次に会った時まで…?」
「却下」
ばっさり切られてジェイクは寝室のドアを器用に開けた。
「嫌ならやめるけど、そうじゃないなら覚悟しろ」
そんな聞き方ズルイ…とシェリーは呟いた。
ジェイクは満足げに笑うと、寝室のドアを閉めた。


別ストーリー/ジェイクがシェリーを襲うバージョン⇒StoryB
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