バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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ゼロまでの距離 <4>
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「だから、それは――」
ソファに身体を起こしたクリスはピアーズの背中を見つめた。
「…べん、きょうをっ見てもらって」
予想外のことを言われてクリスは首を傾げた。
勉強?
「何の勉強?」
「…取ったら言おうと思ってたのに。分析官への昇級試験の勉強をディナには見てもらってた」
虚を突かれてクリスは言葉を失った。
「狭き門なのはわかってる。でもこれから先、アンタがもしエージェントに戻った時にサポートできたら…と思って」
「…戻るかわからんぞ」
「もし、だよ。通信要員よりも仕事の幅も広がるし、もしそうなったらもう一度一緒に働けるな、と思って」
わざとだろう、こちらを見ないようにしているピアーズの耳が赤い。
「ディナも最初はビジネスだったんだ。金払って雇う家庭教師だったんだけど、途中でいらないって言われて…その辺でやめときゃよかったけど、今期の試験に滑り込みたいと思って」
彼女を利用したみたいになって心苦しいんだろう。声に苦みが混ざる。

――お前はホントに可愛い奴だな。

ピアーズが全身全霊でぶつけてくる気持ちにクリスは正直竦む。
受け入れるのが重いんじゃない。受け入れてしまったら後戻りができないからだ。
物分りのいいフリができるのもここまでだ。このラインを割ってしまったら、もう女の方がいいと言われても放す気はない。お前はそれでもいいのか。
正直、年も違うし若いピアーズの将来をクリスが縛るのは気が引ける。その引け目が冷静という仮面を被らせていた。だが――

「お前が女と会ってると聞いて目の前が真っ暗になった」
唐突に話し始めたクリスに驚いたのか、ピアーズがこちらを向いた。
「今日も何時に帰って来るのか、帰って来なかったら――と思うと明かりをつけるのも忘れるくらい考え込んでた」
お前は、と続けたクリスをピアーズは何も言わずに見つめる。
「そんな俺を見ても呆れないのか。一度始めてしまったら俺はもうお前を手放せないと思うぞ」
ピアーズの顔に笑みが広がって、その嬉しそうな表情を見てクリスは答えを知る。

「望むところですよ。それ以前に俺の方がもうアンタを放す気はない」

不敵な笑みを浮かるピアーズに苦笑するとクリスはセットしているにも関わらず、頭全体をかきまぜるように撫ぜた。
「ちょっ!何するんですか!」
慌てたように言うピアーズに今度はクリスが不敵な笑みを浮かべる。
「じゃあラインを割れよ。お前がそれでいいなら、俺も覚悟する」
瞬時に真っ赤になったピアーズに、クリスは自分の意思が伝わったことを悟って更に笑みを深くした。
お前はやっぱり慌ててる方が可愛いな、なんて口には出せないが思う。
え、でも、と口ごもるピアーズにクリスは追撃をかける。
「他の奴じゃ勃たないんだろ?」
挑発を流せる性格じゃないのは知った上。案の定、ピアーズは頬を紅潮させて挑戦的な目をした。顔には言ったな、とわかりやすく書いてある。ダダ漏れだな。

ああ、言ったさ。お前が俺たちの距離をゼロにしたがっていたのは知っている。知ってて今までははぐらかしていたんだ。お前の逃げ場を奪わないためにな。俺はお前が思うほど物分りがいい方じゃない。逃げ場を提示してやった上で、お前は逃げずに飛び込んで来たんだ。相応の覚悟だろうな?

近づいてくるピアーズの顔を見つめながら、クリスは目を閉じた。

――二人の距離がゼロになるのはもうすぐ――

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