バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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ゼロまでの距離 <3>
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ピアーズは腕時計を見ながら早歩きで家路を急いだ。
(ヤバ…いくらなんでも遅過ぎだな)
既に0時を回っている。帰りに勤怠表を端末で確かめたらクリスの作戦行動は終了になっていて、アルファ隊長の報告も済みとなっていたから、既に家にいるはずだ。
仕事で遅くなったというには無理があるな、と言い訳を考えつつ、どうするか…と思いながら玄関の鍵を開ける。
リビングに続く廊下も、その先のリビングも真っ暗だったから、もう寝てるのか、と思った。
なので、リビングの明かりをつけてびっくりした。

「何してるんですか?」
真っ暗な部屋の中でソファに座っていたクリスがピアーズを見上げた。ピアーズは笑った。
「電気もつけずに…もしかして俺を驚かそうとでも?」
「どこ行ってたんだ?」
口調は穏やかだが、どこかいつもと違う雰囲気でクリスが聞いた。
「え…っと、ちょっと同僚と飲みに…」
「誰と?飲みにってお前、飲んでないだろ」
いつもなら「そうか」で済むのに、今日は追及が厳しい。顔には笑みさえ浮かべているのに、クリスの目は昏かった。
この段になってようやくピアーズはクリスの様子が違うことに気づいた。
「誰って…職場の奴ですよ。飲むっていうかメシ食ってただけです」
「メシ食うだけでこんな時間まで?」
「クリス?」
思わず呼んだ名前にクリスは一瞬表情を歪めた。
「――彼女と会ってたんだろう」
不意にクリスが立ってピアーズに近づいた。後頭部を掴んで引き寄せる。首筋に顔を近づけて、吐息がかかる距離でクリスが囁いた。
「香水の匂いがする。彼女と一緒の匂いだな」
今までにない距離に狼狽する暇もなく、ピアーズは言われた言葉に目を瞠る。顔を離してクリスを見る。
「な、何を言って…」
「ディナって言ったか。彼女と付き合ってるんだろう?」
何で知って…!という思いが顔に出たのだろう、クリスが笑った――泣きそうな笑顔だった。
「図星か」
言われて悟る。付き合って、の方だと誤解されたのか。
「ちがっ!何でアンタがディナを知ってるんだと思って」
「今日支部で見かけた。支部でも噂らしいな」
ピアーズは舌打ちしそうになった。だから人目につかないところで落ち合おうと言ったのに…と思ったが後の祭りだ。
「彼女にも話しかけられたしな。彼女、お前が好きなんだろ」
言われてピアーズは目を逸らした。

――もうわかってるでしょ。

そう言った彼女は射抜くような視線でピアーズを貫いた。
メシの後に気分が悪いから部屋まで送ってくれと言われて送って行った。玄関先で帰ろうとしたら中まで連れて行けと言われて仕方なく支えながら部屋に入った。
そして帰ろうとしたらそのままソファに倒され、自分の上にディナも倒れてきた。
「言わなくてもわかってるでしょ」
自分の上に乗る柔らかい感触が久しぶりでピアーズは眩暈がした。そうでなくてもディナは綺麗で魅力的で――自分も男で――気づくと唇にも柔らかい感触がしてピアーズは左手を彼女の背中に回した。

「お前も好きなのか」
クリスの声で我に返った。静かにこちらを見つめる目に怒りも悲しみも読み取れない。
「もしお前が彼女の元に行きたいと言うのなら」
冷静なクリスの声が響く。

――俺のことは気にしなくていい。

ピアーズは反射で怒鳴った。
「何だよ、それ!」
俺がアンタを捨てて女に走ってもいいのか?何でそんなに冷静なんだよ!?
言いたいことは溢れるほどあるのに言葉にならない。
「そんな簡単に断ち切れるほどの関係かよ、俺たちは。アンタにとって俺は何なんだ?」
「大事だからこそお前の意思は尊重したい」
「はぁ?意味わかんねぇ!大事だったら放すなよ!」
ピアーズが口調を荒げてもクリスは冷静だった。
「お前が決めたことなら俺にはどうしようもない」
「じゃあ俺が終わりだと言えばアンタは終われるのかよ!?」
「お前の意思に従う」
何だよ、それ!とクリスの胸倉を掴みながら、吐き捨てるように言った。
「アンタの意思はないのかよ!俺が終わりっつったらそんな簡単に終われるような気持ちかよ!」
俺のためと言いながらそれは執着がないだけじゃないか。なに綺麗事言ってんだ!
至近距離で睨み上げたピアーズにクリスは困ったような顔をした。
「じゃあどうしろって言うんだ。お前は彼女と付き合うんだろう?俺がいたら邪魔じゃないか」
俺はもう必要ないだろう、と続けて言われてピアーズは頭にカッと血が昇った。
掴んだ胸倉をソファに向かって力いっぱい突っ放した。常時であればふらつきもしない力だったろうが、クリスはされるがままにソファに倒れ込んだ。その上にピアーズは乗ると再度胸倉掴む。額がくっつきそうなほど顔を近づけて睨む。
「今日、彼女に言われたよ。こんな風にソファの上で迫られたよ。俺だって男だからな、フラっときたさ。アンタとは何もできないからな。キスされてその気になって――」
クリスの顔に初めて不愉快そうな表情が刻まれた。その目を見ながらピアーズは言い放つ。

「でも相手がアンタじゃなきゃ勃たねぇよ!」

瞬間、クリスの目が見開かれた。
アンタは何もわかっちゃいえねぇな。なに物分りいいフリして楽な方に流れようとしてんだ。
俺の一生丸ごと背負うっつっただろ?
あんないい女相手に俺はまるで役立たずだったよ。彼女にも悪いことをした。でもそれが俺の正直な気持ちだ。

「…お前はそれでいいのか」
どこまでも冷静に聞き返されてピアーズは舌打ちした。
アンタはどうやったら俺のことで取り乱したりするんだ。何で俺ばっかり――
「少なくとも彼女とメシ食ったり噂になる程度には交流したんだろ?やっぱり女の方がいいと一瞬でも思ったんなら――」
「違う!」
どう違う?と目顔で先を促されて、ピアーズは身体を起こしてクリスから離れた。
そのまま背を向けて頭を抱えた。

「だから、それは――」


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