バイオハザード6の二次小説を書いてます。
| HOME  | INDEX | PIXIV | ABOUT | BLOG | E-mail | 
誰がために背負う罪 <3>
2009年冬――中近東の某国で作戦展開中だった米軍の陸軍特殊部隊がB.O.W.に遭遇。多数の死傷者を出したが本来の任務である要人の救出には成功。

苦労して手に入れた報告書をクリスは隅から隅まで読んだ。その報告書には驚くべき顛末が記してあった。
二週間前、クリスも自分のチームを率いて同じ場所に立っていた。任務は中近東の某国の内戦にB.O.W.を使用している形跡があり、その真偽を確かめるという内容だった。その時――


「こちらアルファ!現地に到着した!」
インカムに向かって言うとHQより応答があった。
『こちらHQ!数キロ東で戦闘が始まった模様!詳しい位置を送る!』
腰に備えてあった端末が震えて着信を知らせる。手に取ってみると今の位置から十ブロックほど先の市街地が示されていた。
「よし!行くぞ!」
クリスは自分の部下に向かって言うと走り出した。

中近東の某国は旧ソビエト連邦が崩壊後、独立国家となったが情勢は常に不安定だった。政府軍とそれに反発する反政府軍が激しく衝突し、大小さまざまな紛争が絶えない。
繰り返される銃撃戦や地雷などで市街地は瓦礫と化した。建物という建物は全壊の憂き目に遭い、かろうじて残った家の壁などがところどころ残るのみとなっている。
そんな中を駆け抜けながら、前方から銃声が聞こえてきた。
辿り着いてみると、戦況は混乱の極みだった。
逃げ惑う一般市民の中には小さな子供まで混じっている。
闘っているのは、反政府軍と――アメリカ兵――
クリスは瞬時にインカムに向かって怒鳴る。

「米軍がいるぞ!詳細を調べろ!」

BSAAと米軍は目的が違うので同じ括りには入らない軍隊だが、それでもこんな風に戦場で鉢合わせるのはまずい。
米軍の作戦には政治が絡んでいることも多々あるし、それでなくても同じ国の別組織が目的もわからず横槍を入れるわけにはいかない。
いかない――が。

『陸軍特殊部隊!反政府軍に捕らわれている要人の救出作戦のため撤退せよとのこと!』

インカムから流れてきた声に舌打ちした。
撤退と言われれば普通は撤退するべきだろう。だが――
「B.O.W.が混じっている!一般市民もいるため要救助だと思われる!」
クリスは耳元のインカムを押さえながら怒鳴ると、後ろに待機する部下に手で合図した。
半壊にとどまった建物を遮蔽物にして北側と南側に分かれて銃撃戦が展開されており、反政府軍はほとんどが私服のような格好だった。米軍の方が明らかに武器も潤沢で訓練もされていることが一目瞭然だった。だが、米軍は手も足も出ない状態のようだった。
距離にして150メートルを間に睨み合っている状態だが、一気にその距離を詰めることができない。
なぜなら、両者の間に立ち塞がっているのが――太い首が隆起した肩に埋まっているように見え、全身が緑っぽい鱗のような固い皮に覆われ、体長2メートルは超えているであろう巨躯に手足の爪が鉤のように大きく発達している、明らかに異形のB.O.W.が一体と――逃げ遅れた市民が悲鳴を上げている。中には子供も混じっていて、足が竦んで動けないのか、逃げるでもなく立ち竦んでいる。正に阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

『しかし、上の判断は――』
言いかけた通信要員の言葉をクリスは遮る。
「一般市民を助ける!このままでは巻き添えを食う!米軍にそう伝えろ!」
クリスはその勢いのまま後ろを向いて部下に向かって怒鳴った。
「一般市民を助けろ!狙うのはB.O.W.だけだ。戦闘には加わるな!」
「Yes, sir!」
言うが早いか数人の部下たちが散る。
クリスもそれに加わりながら、子供に向かって走る。だが、異形のB.O.W.は目の前の竦んで動けない子供に向かってその大きな鉤爪を振り上げた。間に合わない。銃を構えながらそう思った。銃弾の雨が降る中に飛び込むことはできないから反政府軍と米軍が睨み合っている間を垂直にB.O.W.に向けて発砲することになるが、射程範囲に入るまであと50メートルはある。
ちくしょう、と内心臍を噛んだその刹那、今まさに醜い己の武器を振り下げようとしていたB.O.W.が棒立ちになったかと思うと、ゆっくりと前のめりに倒れた。
――ライフル、しかもあの大きさのB.O.W.を一撃で倒すなら対物ライフルだ。クリスは一瞬でそう認識したと同時に舌を巻いた。対物ライフル――例えアンチマテリアルライフルだとしても一撃では無理だ。急所に1mmの狂いもなく叩き込まなければ。そしてB.O.W.の急所などその専門であるBSAA隊員である自分ですら全てを網羅しているわけもない。ましてや人間相手の訓練しかしていない陸軍兵士のスナイパーがそんなことを知るわけもない。あのタイプのB.O.W.の急所は頭ではなく胸だ。しかも背中側。それを正確に射抜いた――BSAAの隊員ではなく陸軍のスナイパーが。

頭ではなく、胸の背中側を。

B.O.W.がいたことによって間を詰めれなかった米軍は、その後は戦況を押し返した。
クリスは市民数人を誘導し、安全な場所に確保して自分のチームに一時撤退を命じた。
その後の反政府軍と米軍の顛末は帰国してからBSAAの報告書で概略だけを知ったが、あの起死回生の一発の銃弾を放ったスナイパーの名前は知ることができなかった。概略だけだったのでそのことまでは載ってなかったのだ。何とか詳細な報告書が手に入らないかと元空軍のコネをフル活用してなんとか手に入れた。そこには作戦の事細かな経緯とともにクリスが一番欲しかった情報も載っていた。

――ピアーズ・ニヴァンス。

それが原石の名前だった。


BACK - INDEX - NEXT