バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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誰がために背負う罪 <2>
***

ふと目を覚まして隣にあるはずの温もりがないことに気づいた。

――またか。

クリスは起き上ると、肋骨が痛んだがそのままベッドを降りる。
正直、怪我は本当に大したことはない。だからピアーズにもそう言ったし、納得したように見えた。だが、夜中にこんな風に寝床を抜け出すのがほぼ毎日だ。寝ながらうなされていることもある。自分の名前を呼びながら飛び起きるので、夢の内容は聞かなくてもわかった。
生きて還った、だから心配するな、というのは気休めか。ピアーズが心配しているのは過去ではなく未来だとわかっている。それでも「じゃあ銃を置く」とはクリスには言えない。そしてピアーズがそれを心底望んでいるとは思えない。
俺に死んでほしくない、でも「行くな」とは言えないジレンマに苦しんでいる。それは痛いほどわかる。だがクリスにはどうすることもできない。
部屋を出てキッチンを覗くとピアーズが俯いているのが見えた。
「どうした?」
声をかけるとハッと振り向いた。振り向いた時には既にいつもの表情に戻っていて、それがまたクリスの胸を刺す。
(こいつはこんなに何でもないフリが上手かったかな…)
「別に。ちょっと喉が渇いて…」
「そうか」
お互い気づいている――何を思って、何を隠しているのか。それでもそれを口に出しては言えない。言っても解決しないことをやっぱりお互い知ってるからだ。
「来いよ」
顎で背後のリビングを指して、クリスはピアーズを促した。怪訝そうな表情をしたピアーズに笑う。
「もう寝れないだろ?」
そう言いながらソファに座ると、その隣を手で軽く叩いた。
「…なに」
「そんな警戒するなよ。何もしないよ」
「別にそんな、」
あからさまに何の話を切り出されるのか警戒しているピアーズにクリスは苦笑した。
いいから、と促してやっと隣に座ったピアーズに向き合って、この話はまだしたことがなかったかな、と考えながら口を開いた。
「覚えてるか?初めて会った時のこと」
「え?」
よっぽど意外だったのか、目を見開いてクリスを見たピアーズの顔が当時の顔と重なった。
あの時もこんな顔をしたな、とクリスは思い出して、目を細めた。


――ニヴァンス?ピアーズ・ニヴァンスだな?

覗き込んだ顔には勝気そうな目。クリスはその瞳を見た瞬間わかった。
こいつが例の――up set win's(一発逆転野郎)か。


***

BSAA(Bioterrorism Security Assessment Alliance)は2004年に製薬企業連盟によって設立された。
設立当初は民間NGO組織だったが、2005年のある事件をキッカケに国連直轄の実働特殊部隊となったという経緯がある。
歴史が浅いために人材不足という問題は深刻で、特に将来の組織を引っ張る若い世代を育成するという課題は上層部の頭を悩ませていた。
優秀な人材は他機関でも狙われているので引く手数多だし、そこにBSAAが参戦してもバイオテロという馴染のない敵の上にBSAA自体が設立されて間もないので認知度が低い。B.O.W.絡みの事件は隠蔽されることも少なくないため、その悪循環はその深刻さに更に拍車をかける。
優秀な人材を手放したくないため米軍をはじめとする他の機関の情報管理も厳しい。なので、引き抜きが成功するのはごく稀だった。

クリスはもともとオリジナルイレブンと呼ばれるBSAA創設時からのメンバーで、中でも高い作戦参加率と類稀なる戦闘能力を持つため、レベル10の権限を持つエージェントにまで登りつめていた。
だが、アルバート・ウェスカーとの因縁に決着をつけた後、すべての特権を捨てて実働部隊に移籍した。アルファチームの隊長に就任して、特に熱を入れたのは若手の育成だ。
自分はもう若くはない。いつまで現場にいられるかわからない。だから未来を託す次の世代を育てようと思った。
そして、見つけた。

――次世代を託すダイヤモンドの原石を。


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