バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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背中合わせ <2>
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クリスが時計を見ると昼の3時だった。
移動中のヘリで仮眠を取るべきだとわかってはいるが、寝つけなかった。
今日は一日移動して、目的地に潜入したが特に異変はなかった。更に南下するよう指示され、またヘリに乗って移動している。時差ボケと乗り心地の決していいとは言えないヘリでの移動で疲労は溜まっている。30半ばを超えてから特に体力には衰えを感じる。
今頃アメリカは夜中か。ジェイクにピアーズの話を聞くようシェリーに頼んでおいたが、行ってくれただろうか。
ピアーズの様子が変だと思うようになったのは最近だ。聞いても答えは決まって「何もない」だが、一緒にいて違和感がある。表面上は変わったところもなく元気だが、ふとした拍子に物憂げに考え込んでいる。
仕事仲間にもそれとなく探りを入れてみたが、ピアーズが話を漏らした相手は職場にはいないようだ。かつてのチームメイトも同様で、ピアーズは人懐こくてみんなに好かれる明るい性格だからか誰とでも仲良くなれるが、いわゆる親友と呼べるほど仲がいいのはいないようだった。かと言ってプライベートの友達が誰かなんてクリスは知らないし、誰かと会ってる様子もない。
どうしようか、と思っていたところにジェイクと仲よさげに言い合ってるのを見て、頼んでみようという気になった。
直接頼むのは気が引けるので、シェリーに話をした。大丈夫、任せておいて、と彼女は言ってくれたが――
最初は右腕のことで将来のことが不安だとか、そういうことなのかと思っていたが、どうもそうではなさそうだった。
クリスは自分のことで悩んでいるのではないか、と勘に近い確信で思っていた。では自分の何で悩んでいるのか、それは全く思い当たる節もなく、いつもそこで行き詰る。
退院する時に強引に自分の部屋へ連れて来て同居させた。そろそろ日常生活も慣れたようだし、一人にしても大丈夫だとは思うので共同生活も解消すべきかと思う時もあった。そして、もしかしてそう言い出せずに悩んでいるのかとも思った。
――別々に暮らすか?
そう何度も聞こうかと思ったが、口には出せないままだった。
両親も既に亡く、妹はいるが一緒に暮らした期間は短い。会う頻度もお互い忙しいので高くない。なので今まで一人だったし、それが当たり前だったから特に寂しく思ったこともない。独りに慣れているので同居なんて大丈夫かと思ったが、意外にも心地よかった。
帰って来て誰かがいると安心する。ピアーズは同じ部隊にいたから気心が知れてるし、気を遣うことを知っているから一緒にいて不快に思うことも皆無だった。普通なら一緒に住んだりすると摩擦が起きたりするんだろうが――

「隊長、ピアーズ元気ですか?」
後ろから声をかけられてクリスは振り向いた。
ピアーズと同期の奴がこちらを見ていた。
「ああ、元気だよ。HQの仕事にも慣れたみたいだし」
そうですか、とホッとしたような顔になった。
「アイツ、連絡取りづらくなったんで、ちょっと心配だったんですよ。フツーに話すんですけど、会おうってなってもなかなか都合合わなくて…何か暗いな、って思う時もあるし」
「そうか…原因は思い当たらないんだな?」
「ええ。女でもできたのかと思ったんですけど、そうでもないみたいだし」
意外なことを聞いた気がして、クリスは驚いた。
「女?」
「ええ、そんな素振りないですか?好きな奴でもできて、それで悩んでるのかなって思ったんですけど」
「気づかなかったな…」
「一緒に住んでて気づかないんじゃ、多分ないですね」
「どうだろうな。さぁ、もう寝とけ。着いたらすぐに行動開始だぞ」
「Yes, sir!」
そう言って立てた銃に頭を乗せて目を閉じた部下を見ながら、クリスも同じように目を閉じた。

――女、か。

もしかしたら当たらずも遠からず、かもしれない。
うまくいってるんならあんなに悩む必要はないだろうし、一緒に生活していて女の影はないから、もしかしたら片思いなのかもしれない。
うまくいったら同居は解消するべきだろうな。
クリスはそう思いながら、やっと訪れた眠気に意識を手放した。



**

クリスへの気持ちって何だ?
ジェイクは意味がわからずに固まった。
「ちょっと待て、お前…ゲイなのか?」
突っ伏したまま動かなかったピアーズがピクリと反応したかと思うと、勢いよく顔を上げて「んなわけあるか!」と怒鳴った。
「言っとくがなぁ!俺は男に対してそんな気持ちを持ったことはこれまで一回もない!フツーに女が好きだ」
「じゃ何だ、クリスへの気持ちってのは?」
「それがわかったら苦労せんわ!」
グラスを一気に呷るとまたカウンターに突っ伏す。
「クリスは尊敬してるし信頼してる。戦う意義を俺に教えてくれたのもクリスだしな。右腕を失って一番ショックだったのはクリスと一緒に戦線復帰できないことだった。もう隣で銃を構えることが出来ないのが何よりも嫌だった。クリスと会えないのは辛い。だから一緒に暮らそうと言われて戸惑ったけど嬉しかった。でも――」
ピアーズは突っ伏したまま独り言のように呟く。
「今度はいつこの同居を解消しようと言われるか怖くなった」
「解消したくないのか?」
「会えなくなるだろーが!」
ピアーズは顔を上げて噛みつきそうな勢いだ。
「会いたいのか?」
そう聞いたらピアーズは考え込むように目を逸らした。
「会いたいというか…会えないと辛い」
それ一緒じゃんか。どう違うんだ?ジェイクは首を傾げた。
「クリスが言ったんだ。お前は俺のために右腕を失ったから、俺はお前に俺をやるよって――」
ジェイクは目を剥いた。
(何言ってんだ、あのおっさん!!)
まるで告白みたいじゃないか。男に言う言葉じゃねぇぞ!
「俺の一生丸ごと背負うって…」
もはやジェイクは言葉も出ない。何なんだ、この会話は。こいつら意味わかって言ってんのか?
「クリスがどういうつもりでそんなこと言ったのかわからない…けど」
俺もわかんねぇ!わかりたくもないけど!内心突っ込みながらも何も言えずに黙ったままだ。
「も…わけわかんね…自分の気持ちも、クリスの気持ちも…」
呟くように言ってまたカウンターに突っ伏したピアーズの頭をジェイクは軽くはたいた。
「つーか!」
いてぇ、と顔を上げたピアーズはジェイクを睨む。
「要はヤリたいかヤリたくないかって話が何でそんなややこしくなる?」
ぽかんと鳩が豆鉄砲食らったような顔でピアーズがジェイクを見た。
「さっきから聞いてりゃ好きな女のこと話してるみたいだぜ?」
「な!」
「ヤリたいのかよ、クリスと?」
酒のせいで赤くなった顔が更に茹る。
「んなわけあるか!考えたこともねぇぞ!」
「ホントかよ?会いたいとか会えないと辛いとか、好きなんだろ?」
「好きだよ!当たり前だろう」
やっぱり噛みつくような顔で答えるピアーズを見ながらジェイクは思った。
(そこで当たり前とくる意味が俺にはわかんねぇ…)
どう見ても好きな女の話をしてるようにしか見えない。言ってる意味わかってんのかね、こいつら。
「あー…まぁあれだ。ヤリたいとかは別にして、好きなんだろ。男とか女とか関係なく人として好きってことでいいだろ。何を悩むんだ?」
「クリスがどう思ってるか気になる」
お前、それどう考えてももう恋愛対象として好きじゃねーか!
頭を抱えてジェイクはどう言うべきか迷った。
「大事なもんに女も男もあるかって言ってたけど――」
もはや自分で何を口走ってるのかわかってない態のピアーズの言葉にジェイクは更に驚く。
どう聞いても相思相愛にしか聞こえない。ホントに自覚してねーのか?
軍隊など男所帯だからゲイも多いと聞く。隠してる場合がほとんどだろうし、機関によっては隊内で混乱が生じるからという理由で発覚した場合には除隊という判断が下る場合もある。今まで普通に女が好きだったんなら、確かにクリスに対する気持ちは混乱するだろう。
だがここまで悩んでおいて、まだ気づかないって鈍いにも程があるだろ。いや、こいつの常識が拒否してんのか。
気づくとまたお代わりしているピアーズに「もうやめとけ」と声をかける。うるせぇ、と一気に呷ろうとしているのをグラスごと奪って止める。
「クリスと話し合えよ。わかんないことは聞いたらいいだろ。お前の気持ちもそのまま言えばいいだろ」
「言えるか、こんなこと!」
「何でだよ?」
「気持ちわりィだろ!大体何て言うんだよ?あんたが好きだって言うのかよ?」
グラスを奪い返しにこちらに身を乗り出すピアーズを押し戻した。
「言えばいいだろ、ホントのことなんだから。少なくともクリスはお前を心配して俺に話を聞いてやれと言うくらいにはお前のことが気になってるんだから」
「それは元部下として気になってるんだろ。そんな奴からンなこと言われたら今までの関係も壊れるじゃねぇか」
「もう今までの関係じゃお前が満足してないんだろ。だからグダグダ悩んでんだろ。いつまで悩む気だ?言っとくけどお前がそうやって悩んでる間、クリスもお前を気にして悩むんだぜ」
虚を突かれてピアーズが黙り込む。そしてまたカウンターに突っ伏す。
「オラ、帰んぞ!それ以上飲むと歩けないだろ。お前を担いで帰るのはご免だからな!」
強引にピアーズの肩を掴んで立たせると、清算してジェイクは店を出た。


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