バイ/オハザード6の二次小説を書いてます。
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日常の喧嘩
嫉妬

シェリーが他の男と喋ってるのを見ると胸がざわつく。
それを表に出すなんてダセェ真似はしないが、内心は不機嫌を押し隠すので精いっぱいだ。
もし反対だったらどうだろう。アイツが妬くことなんてあるのか?
俺が他の女と喋ったりしてたらアイツはどう思うんだろう?
他の女なんかこれっぽっちも興味はないが、シェリーが妬くならそれは見てみたい…気がする。

とか下らないことを思った罰なんだろう、この状況は。

「シェリー」
ドアの前でジェイクが声をかけても反応はない。
ドアノブを回してみるが、鍵がかかって入れない。
「冗談だって。他に好きな女なんかいない。お前だけ――」
言いかけて詰まる。この期に及んでも『愛してる』なんて口が裂けても言えない。
「お前しか好きじゃない」
言い換えてこの程度しか言えない。それでも反応がない。
ジェイクは溜息をついて、「悪かった。ここ開けてくれ」とドアを軽く叩く。
「何でそんなウソつくの!?」
ドアの向こうから噛みつきそうな勢いでシェリーが怒鳴る。
反応があったことにホッとして、ジェイクは再度謝る。
「ごめん、ちょっと悪ふざけが過ぎた」
本当に出来心だった。些細なことで言い合いになった時に勢いで「そんなに俺のことが気に入らないならもう別れたらいいだろ」と口走った。
「次はもっと可愛げのある女にするぜ」と付け加えたのは余計だった。みるみる顔が強張ったシェリーがそのまま家で唯一鍵のかかる場所――バスルームに駆け込んだ。
洒落にならねぇ、と青くなった。慌ててドアを叩くが反応はない。そのまま膠着状態が30分以上続いた。
「俺が悪かった。ここ開けてくれ。明日で帰るのに、こんな状態のまま別れるのは辛い」
ひたすら下手に出て同情を買ってみる。
「シェリー?」
何回目かわからない呼びかけにガチャと鍵が回る音がした。ドアノブを回してドアを開けると――

目にいっぱい涙を溜めたシェリーが立っていた。泣くのを我慢するように唇を噛みしめている。
思わず抱き寄せると、ジェイクの首に手を回して呟いた。

「…め、さい」

途切れ途切れに聞こえた言葉は「ごめんなさい」。
ここでその言葉が来るところが本当に参る。俺が悪いのに。
「明日、かえ、るのに、喧嘩して――め、なさい」
嗚咽を堪えて言う彼女を抱き締めて、ジェイクは「謝んな。俺が悪いんだろ」と言った。

売り言葉に買い言葉の別れ話でこんなに可愛い反応をする彼女に嫉妬してほしいなんて、俺はどこまで強欲なんだよ。



舌禍

ジェイクは口が悪い。
出会った頃ほどではないが、皮肉屋だし、言葉の選び方が雑だと思う。
シェリーがちょっとおしゃれしても全然気づかないし、「綺麗だ」とか言われたことなどない。
照れ屋だとは知ってるが、それでもこんな気合を入れておしゃれしている時くらい褒めて欲しい。

付き合って初めてのクリスマス。シンプルなワンピースにファーを羽織ってちょっと高めのヒールを履いて待ち合わせ場所に行ったら、フツーに「よぉ」と言われて終わった。
ぷぅと頬を膨らまして「何か言うことないの?」と聞いたら、顎に手を当てて少し考えて――

「俺も今来たとこ?」

何で疑問形で返すのよ!しかも全然違うし!
「私の格好を見て、何か言うことないの?」
ここまで言わないとわかんないなんて、ホントに朴念仁なんだから!

「…馬子にも衣装だな」

シェリーは思わずジェイクの腕を叩いた。
「本気で言ってる?」
シェリーの声音で地雷を踏んだと思ったのか、ジェイクが慌てる。
「冗談だって。かわいいかわいい」
「何その棒読み!もういいわよ!ジェイクの前で絶対おしゃれなんかしないんだから!スカートも絶対はかない」
そのままジェイクに背を向けて歩いて行こうとして、手を掴まれる。
「悪かったって」
人込みでもめるのが気になるのか、声を潜めてジェイクが言う。それでも掴まれた手首は絶対放しそうになく、シェリーは仕方なく足を止める。
「機嫌直せよ」
「…直るようなこと言って」
この辺が折れどころか。あまり長引かせて初めてのイベントが台無しになっても嫌だ。そう思っての言葉だったが、正直期待はしていなかった。この状況を劇的にひっくり返せる言葉をジェイクが言えるわけ――

「俺のために綺麗になったシェリーが可愛い」

な、んでっ!言えるなら最初から言わないのかな!
普段はぞんざいな癖に、ここぞという時は言葉の選び方を間違わない。

「満足?」
ニヤニヤしている顔が想像できる声音で言われて、シェリーは俯いたまま呟くしかなかった。
「合格」



ナンパ
シェリーは鈍い。
色々鈍いが男に対して無防備すぎる。
俺と付き合いだしてからは大分マシになったが、付き合う前とかコイツこれで大丈夫だったんかと心配になる。

「今日ね、道を聞かれたんだけど、私ここに住んでないんでわからないって言ったら、じゃあ案内するよって言われてね?」
ジェイクはミネラルウォーターを飲もうとして止まった。
「おかしいわよね?道わかんないのに案内できるの、って思わない?」
ジェイクの家に来て、買い出しを頼んだらこの始末。一人で歩かせることもできないのか。
「それで?」
「結構ですって言ったら、観光ならホラ、有名な大聖堂があるじゃない?あそことか見応えあるよって言われてね?」
ああ、お前が行ってみたいって言ってたとこな。俺がつまんないから行くの拒否したとこな。
「ジェイクは一緒に行ってくれないから――」
「オイオイ、行ってくれないから何だよ?」
まさかそのナンパについて行こうとしたんじゃないだろうな?
「今日は無理でもいつでも連絡くれたら付き合うよって言ってくれてね?親切な人よね?」
メモを出してニッコリ笑ったシェリーの手から、その忌々しい紙を奪って破る。
「親切なワケねぇだろ!ただのナンパだろ!ホイホイこんなもん貰ってくんな!!」
「ええっ!」
ええっじゃねぇ!簡単に釣られやがって!
「男から声かけられたら全部ナンパだと思え!答える必要ねぇから全部無視しろ」
でも大聖堂行きたいんだもん、と口を尖らせるシェリーにジェイクは溜息をついた。
「俺が一緒に行ってやるから、ナンパについて行くなよ?」
「ホント?今日?」
「…ああ」
やったー、ナンパされた甲斐があったと喜ぶシェリーを見てハタと気付く。

「おま、まさかわざと――」

シェリーはニッコリ笑って「約束だからね?」と言った。

――いい根性してるじゃねぇか。逃げる素振りに簡単に餌を投げる俺も大概だがな。



誘い

ジェイクは新しいバイク雑誌を買ってくると周りが一切見えなくなる。
イドニアの彼の家へ来て、例の如く1日しか時間がないのに夕方買った雑誌を延々めくっている。
よほど欲しい雑誌だったらしく(古本)、夕食の時もめくっていた。話しかけても生返事で、シェリーは段々イライラしてくる。
明日には帰っちゃうんだからね!?忙しい時期に入るから、次はいつ会えるかホントにわかんないだからね!?
内心そう思いながらも雑誌に嫉妬してるみたいで口には出せず、悶々とジェイクの隣でテレビを見ていた。
チラとジェイクを窺うと、すげぇなコレとか呟きながら雑誌に釘づけだったので、試しに肩に頭を乗せてみたが、全くの無反応で悔しくなる。腕を絡めて雑誌を覗き込んだら見えねぇと腕でガードされた。
むぅ、と悔しくなって伸び上って頬にキスしたらようやくこっちを見た。
「何だよ?」
「明日帰るんだから、構ってよ」
「何だよ、誘ってんのか?」
ニヤニヤしながら言われて頬が火照ったが、その通りではあるので反論はしない――が、ジェイクは。

「でも今日はコレ見るからナシな」

素っ気なく言われて更に頬が紅潮する。いつもなら絶対しない行動でジェイクにこちらを向いて欲しかったのに、断られてその行動自体が恥ずかしくなった上に断られた事実に打ちのめされた。
何かが切れる音が自分の中でしたような気がする。
無言でベッドから降りると、そのまま荷物をまとめて玄関へ行く。その頃にようやくシェリーの行動に気づいたジェイクが雑誌を放ってこちらへ来る。
「何してんだよ?」
「帰る」
一言、端的に言うとジェイクは戸惑ったように腕を掴んだ。それを振り払うと玄関を開けて外へ出る。
「何怒ってんだよ?抱かなかったからか?」
言われて羞恥に眩暈がした。繋がりたいのは副産物みたいなものだ。そうじゃなくて、ジェイクに自分を見て欲しかっただけなのに、そんな風に思われるなんて――
色んな感情が絡まって、複雑にシェリーの心を頑なにする。
「放して。帰る。いなくてもいいでしょ。ジェイクは雑誌に夢中なんだから」
「オイオイ、雑誌に嫉妬かよ?勘弁しろよ――」
揶揄するように言うジェイクを突き飛ばすと、「バカ!ジェイクなんかだいっきらい!!」と叫んで走った。
必死で走ったがジェイクの足に敵うはずもなく、30メートルも行かない内に腕に閉じ込められる。そうなるともう振り払うのは不可能だった。
「おい、落ち着けよ。何だよ?」
顔を覗き込んでジェイクはギョッとしたように黙った。その反応でシェリーは自分が泣いていることに気づく。
「な、何で泣く?」
言葉にならなくてジェイクから顔を背けた。
「シェリー?とりあえず中に入るぞ?」
そう言ってジェイクは手を引いて家へ戻ろうとしたが、頑なになったシェリーはその場で踏ん張る。
ジェイクは小さく溜息をつくと、シェリーを肩に担いだ。視界が反転してシェリーは抗議したが、ジェイクは無視して家へ戻った。
部屋へ入って鍵をかけたジェイクがベッドにシェリーを下ろすと、そのまま覆いかぶさってくる。たまらずシェリーが後ずさろうとしてもジェイクに阻まれる。逃がさない、ということだろう。
「放してよ」
出た声が震える。
「嫌だ。逃げるだろ」
「逃げないから離れて」
「何で帰るのか言ったら放す」
間近で言われて頭に血が昇る。
「ジェイクが雑誌ばかり見てるからでしょ!私がいなくてもいいじゃない」
「だったら素直に言えよ」
「構ってって言ったじゃない」
言い返すと先ほどのやりとりを思い出したのか、ジェイクが黙った。
「明日帰るのに。またしばらく会えないのに…」
また涙が出てきてシェリーは手で顔を覆った。
「あー、悪かった」
そう言って顔を寄せてきたジェイクから思い切り顔を背ける。
そんなことでごまかされるわけないでしょ!今日は絶対もうしないんだから!
そんな決意が伝わったのか、ジェイクは身体を起こすとシェリーの手を引いてベッドの上に二人で座った。
「ごめん、もう雑誌は見ない。シェリーがしたいように今日はする」
「…こっちを見て欲しかっただけなの」
「悪かった。何でも言う通りにする」
シェリーは目の前のジェイクから目を逸らすと、「何でも?」と聞いた。
「うん」
ジェイクがうん、なんて返事を初めて聞いておかしくなったが、シェリーはかねてより聞きたかったことを言ってみた。
「愛してるって言って」
ぐっと詰まったようにジェイクが顔を顰めた。そっぽを向いて逡巡する間があって――
シェリーの頭を両手で掴んで引き寄せると、耳元で囁いた。


――愛してる

初めて言われた言葉にシェリーは目の前のジェイクの首に手を回して強く抱き締めた。



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