バイ/オハザード6の二次小説を書いてます。
| HOME  | INDEX | PIXIV | ABOUT | BLOG | E-mail | 
業務連絡
『今日はね、久しぶりにクレアと会えたの!色々話して楽しかったわ。ジェイクの話もしたのよ?クレアもいつか会いたいなって言ってたわ。ジェイクの方はどう?元気?』

シェリーは携帯の画面を見ながら文字を打っては消し、また打っては消しを繰り返して、やっと送信ボタンを押した。
ピロンと送信が完了した耳慣れた音が聞こえて、画面をスライドさせた。
そのまま机の上に放置する気になれなくて、しばらく手の中に携帯を握り込んでいたが、もちろんそんなにすぐに反応があるはずがない。
シェリーは溜息をつくと、携帯をポケットにしまった。

ジェイクと付き合い始めて3ヶ月。イドニアまで会いに行って一晩一緒に過ごした翌日の昼にはシェリーは飛行機に乗らなければならくて、それから3ヶ月、一度も会えていない。
シェリーがまとまった休暇を取れないのが一番の理由だが、ジェイクの方も傭兵稼業で忙しいらしく、各地を飛び回っている。電話をしても繋がらないことが多く、逆にかかってきてもシェリーも取れないことが多い。時差の関係もあってそのすれ違いは深刻だ。

――初めての恋愛が遠距離って寂しいね

先輩にあたる女性エージェントにそう言われたことを思い出した。
言われた時はそんなもんかな程度でピンとこなかった。会いに行けなかった頃のことを考えると、想いを受け入れてもらえただけで舞い上がってそれ以外は頭になかった。でも3ヶ月経って、寂しいの意味を痛感した。
「もっとメールを返してくれたらいいのにな…」
思わず呟くと、ポケットの携帯が震えてくぐもった着信音が聞こえた。慌ててポケットから出して画面を開く。

『そりゃよかったな。俺は今から仕事だ。またな』

一目で読めてしまうくらいの短文にシェリーは肩を落とした。
ジェイクのメールはまるで業務連絡のように素っ気なくて短い。会えない上に声も聞けない。挙句にこのメールはちょっとひどいと思うが、それを言う機会さえままならない事実に溜息しか出ない。
シェリーも最初はスクロールするくらいの長文のメールを送っていたが、返信は常に一行で、返ってきたらまだマシな方で返信すらないことがままあった。戦場に出てて忙しいのかな、と思うようにはしているし、重ねて打つのも気が引けて自然とメールの回数も3日に1回が5日に1回になり、今では1週間から10日に1回だ。それすら3回に1回は返信が来ない。
シェリーは返事を打つ気にもならなくて、画面を閉じると再度ポケットに携帯をしまう。
明後日はオフだが、1日しかない。でも前の日、つまり明日は早く終わるかもしれない。終わってすぐ飛行機に飛び乗ったら夜には着く。また同じように翌日の昼過ぎには飛行機に乗らないといけないけど、一目会えればそれでいい。それくらい会いたい想いは募っていた。
(でも、もしかしたら国外に出てるかも。今から仕事だって書いてたし)
会いたい、でも相手が会いに行っていい状況なのかもわからない。聞けば済むのに聞く手段がシャットアウトされている気がする。声が聞けないとすべてが不安になる。
それでも不安よりも会いたい気持ちが勝って、シェリーは再度画面を開いて文字を打った。

『仕事頑張ってね。明日の夜からそっちに行こうと思うんだけど、会える?』

簡潔に書いたメールを送信して、待つ間の不安を紛らわせようとベッドに入って目を閉じた――携帯は手の中に握りしめたまま。


**

目を覚ますと既に朝だった。
シェリーはベッドに起き上った拍子に落ちた携帯を見て、昨日のメールのことを思い出した。
慌てて画面を開くと――新着メールなし。
溜息をつく気にもなれずに携帯をベッドの上に放り投げると、支度のために洗面所へ向かう。
朝食を摂って出勤の準備をしている間もメールが鳴ることはなかった。
仕事で必要だから携帯は家に放置できない。もし可能ならこのまま持たずに出勤したい気分だった。
連絡を待つ間がこんなに苦痛なことは今までなかった。逆に言えばこんなに連絡したい相手が今までいなかっただけなのだが、返事が来ない携帯を持っているのが苦痛だった。どうせ返事が来ない、と思う方が楽だから、シェリーは期待しないように極力質問文は入れないようになった。
このままメールが来なかったらどうしよう。会いに行ってみようか。でももしいなかったら、夜のイドニアで路頭に迷う。この前のようなことがあったら困るし、ジェイクの家の鍵なんて持ってない。
「もう!何で連絡して来ないのよ!」
不安が苛立ちに変わるのもいつも通りの行程だ。でないと押し潰されてしまう。不毛な無限ループに嵌った気がしてシェリーは気分が重いまま日中仕事をこなした。
仕事を終えた時点で携帯を見ても返信はなく、諦めるかと思いつつも諦め切れずに支度をして空港まで来た。
そのままズルズルと手続して搭乗を待つばかりとなった。
(どうしよう…会えなかったらホテルとか取れるかな)
そう思いながら搭乗のアナウンスが流れて、シェリーは迷いつつも今さら引き返すこともできずに飛行機に乗った。乗ってしまえばもう携帯は繋がらない。

(何だか私ばっかり好きみたい)

シェリーはあまり考えないようにしていた思考が浮上するのを止められなかった。
ジェイクはあまり会いたいとか思わないのかな。3ヶ月くらい会えなくても声を聞けなくても連絡を取れなくても平気なのかな。もしかして遠路はるばるアメリカから会いに来た私を無碍に出来なかっただけとか?
シェリーは考えれば考えるほど思考が坂を転がるように悪い方へ傾くのが止められない。
会いたい人に会えない時間は人を不安にさせる。見えない分その膨らみは半端なかった。
シェリーは考えることを放棄して眠る努力をすることでその不安に対抗するべく、窓の縁に頭を預けて目を閉じた。

イドニア空港に着いたのは夜の11時だった。荷物は持ち込みのボストンバッグだけだったので、足早に到着ロビーに出た。出た途端、腕を掴まれた。驚いて振り返ると、会いたいと願った人が立っていた。
「ジェイク」
思わず口から出た名前にシェリーは泣きそうになった。
「おま…夕方からずっと電話してたのに繋がらなかったぞ。返事聞く前に飛行機に乗ったのかよ?」
「だって、返事なかったから」
「戦場に出てたから、携帯は切ったままだったんだよ。帰って来れたからよかったけど、いなかったらどうする気だったんだよ?」
眉間に皺を寄せて責める口調のジェイクにシェリーは苛立った。
「ホテルにでも泊まるわよ。ジェイクの返事を待ってたら、いつまで経っても来れないじゃない」
シェリーの口調に棘を感じたのか、ジェイクが顔を顰めた。
「何怒ってんだよ?」
ジェイクに掴まれた腕を払って「怒ってない」とシェリーは言った。
「怒ってるだろ。もっと事前に言ってくれたら俺だって迎えに――」
「事前に言ったってジェイクは返事くれないじゃない」
我ながら尖った口調だと思ったが、もう止まらない。不安だった分、苛立ちも大きかった。
「シェリー?」
シェリーの口調が荒いのが気になるのか、ジェイクが顔を覗き込んでくる。それを避けてシェリーは後ろを向いた。
戸惑った間が後ろであって、手に持ってたボストンバッグを取られた。そのままもう一方の手で手首を掴まれて、出口に向かってジェイクは歩く。
「とりあえず行くぞ。話はそれからだ」
手を引かれてジェイクについて歩きながら、シェリーは項垂れた。せっかく会えたのにこんな雰囲気になって、気が重い。それでも連絡が取れなかった不安が素直になることを邪魔する。
バイクに乗って家まで30分ほど走った。

家に着いて、玄関を開けたジェイクがドアを押さえたまま身体を開いたので、シェリーは先に中に入った。後ろでドアが閉まる音がした途端、後ろから抱き締められた。
ジェイクの匂いがして、シェリーは胸が詰まった。
「何怒ってたんだ?」
「怒って…ない」
「連絡しなかったからか?言っとくけど身体が空いてからはずっとしてたぞ。繋がらなかったからもしかしてもう向かってんのかと思って空港に行ってみたんだよ」
正解だったな、とジェイクは続いて呟いた。
それでも折れどころがシェリーにはわからなくて、ずっと下を向いていたら、ジェイクがシェリーの身体を反転させた。前から向き合って目を覗き込まれる。
「どうした?」
優しい口調で聞かれ、シェリーは目を逸らした。もう何に怒っているのか、どう収めればいいのかわからない。
「何でもない」
「言わないとわかんねぇぞ」
「言ってもわかんない!」
もう怒ってるのか拗ねてるのかシェリーにもわからない。ジェイクはそんなシェリーに怒るでもなく「言えよ」と促す。
「メール…」
言いかけてやっぱり言ってもいいか迷った。
「メールがどうした?」
「…文面が短い。返信くれない時がある。電話が繋がらないことが多いから、メールくらいは頻繁にしたいのにジェイクはそうでもないのかなって…3ヶ月会えなくても辛いのは私だけ――」
言いかけた言葉を唇で遮られた。すぐに離れて、額と額をくっつけた距離でジェイクが言った。
「んなワケあるか!俺だって会いたかったに決まってるだろ!」
「だってメールが…」
「メールなんかで満足できるか!メールや電話でもっと会いたくなって、でも会えないと辛いだろうが!だから我慢してる。まぁ、もともと筆不精ってのもあるけど、それは勘弁しろ」
「でもあんな業務連絡みたいなメールはどうかと思うんだけど」
それでも抵抗を試みると、ジェイクは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「メールは会う手段だろ。目的じゃない。俺はメールなんかで満足できねぇぞ」
「そうだけど、ずっと連絡を取らないと不安になるじゃない」
「どんな?」
聞かれて詰まった。どんな不安?
「だから、忘れられてるんじゃないかとか…」
「お前な、俺はお前が会いに来るまで1年も待ったんだぞ?3ヶ月くらいで忘れるわけないだろ」
「でも…」
「心配しなくても俺はしつけぇからよ。お前がもう忘れてって言ってもそれはできねぇ相談だからな」
畳みかけられてシェリーは黙った。更にジェイクは言い募る。
「業務連絡で上等じゃねぇか。メールなんかで満足されてたまるか」
「何だか…丸め込まれてるみたい…」
「丸め込まれとけ」
ジェイクはそう言うともう一度顔を寄せる。シェリーは微妙に抵抗しながら交渉する。
「…せめて返信は3行にして」
「…努力する」
そう言いながらジェイクはシェリーの唇にキスを落とした。




**

――以降、ジェイクの返信メール。

『元気だ。
今から戦場に出る。
次はいつ会える?早く会いたい』

改行ばっかで3行。でも会いたいと入れてくれるようになったので、業務ではなくなったのかな、とシェリーは笑った。


BACK - INDEX - NEXT