バイ/オハザード6の二次小説を書いてます。
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触って欲しい
シェリーはここ数ヶ月、忙しい仕事の合間を縫ってふと浮かび上がる思考に溜息を吐きたくなった。
今日の仕事は早めに終わって、家路を急ごうとしても懸案事項を思い出しては足が鈍る。

ジェイクと付き合い始めて半年で身体を重ねた。それからアメリカとイドニアをお互いが行き来して、その度にジェイクはシェリーを求めてきたし、シェリーも会えない時間を埋めるかのように肌を重ねることを疑問に思ったことはない。そんな生活を3年続けて、春からジェイクとシェリーの家に一緒に暮らし始めた。抗体関係の検査で合衆国からの協力要請だった。期間が長期に渡るとのことで、一時的にシェリーの家に転がり込むことになったのだ。
最初、毎日会えるので家に帰るのが楽しかった。夜の方もジェイクは毎日とは言わないが頻繁に求めてきたし、シェリーも余程疲れていない時以外は応えた。
(結婚したらこんな感じなのかな)
そんな風に思いながらまだ肌寒かった気候も蝉の声を聞くようになり、更に季節は巡って通勤路の街路樹から金木犀の香りが漂うようになった頃、シェリーはふと気づいた。

(最後にしたの、いつだっけ)

記憶は曖昧でハッキリ覚えていない。でも1ヶ月は経っている。仕事が忙しくて1週間単位で家を空けたりするので、研究所に出かけるジェイクと顔を合わせないままということもままあった。
気になり出すとシェリーは落ち着かなくなった。顔を合わせればジェイクは普通だ。いつもと変わりない。
でも――触れて来ない。
ここ1ヶ月は特にシェリーが忙しくて勤務形態が無茶苦茶だった。だから、というのもあるがジェイクと顔さえまともに合わせてないような気がする。もうすぐジェイクの抗体からできるワクチンの目途が立つと聞いた。それはつまりこの同居生活も終焉を迎えるということだ。彼はイドニアに帰り、シェリーは誰もいない家へ帰ることになる。
そう思ったら堪らなくなった。
いつの間にかいて当たり前になった存在の大きさが今さら胸に迫る。
喧嘩したわけでもない。
嫌いになったわけでも飽きたわけでもない。
でもすれ違ってる――そんな気がした。
いや、飽きたのか――シェリーではなくてジェイクの方が。

思えば夜の行為はすべてジェイクにお任せだ。初めての時からずっと自分から何ら行動を起こしたことはない。
誘うのも彼の方で、シェリーはそれを待つだけ。いや、待つまでもなく誘われるから正確には待ったことすらない。
最中のことも今ではかろうじて記憶に留めておけるだけは慣れてきたから、何が何だかわからない内に終わった、ということはない。それでも自分から何かを仕掛けるとか、そんなことは皆無だ。というか発想すらなかった。
職場の女性たちの話を聞いていると、たまにそんな際どい話が出る。半分も理解できないまま聞いていたが、かろうじて自分から何もしない女性は男性も嫌がる、みたいなことを言っていたような気がする。
かと言って一体何をすればいいのか。誘うってどうやって?
シェリーは頭を抱えた。
(いつも、いつもジェイクはどうやって誘ってくるんだっけ?)
確かこの前は――


「仕事、忙しいのか?」
あまり夕食に手をつけないシェリーにジェイクが聞いた。
「え?あ、そうね。暑いからかな、あまり食欲なくて…」
ごめんね、せっかく作ってくれたのに…と申し訳なくて謝ると、ジェイクは笑った。
「別にそれは気にすんな。居候してるから、それくらいは…な」
正直シェリーよりジェイクの方が料理は上手い。料理は、というか、料理も、だ。
ジェイクに勝てるスキルが何か自分にあるのか――シェリーは思い当たるものがなくて悔しい。
それでも仕事の忙しさも相まって、ご飯は完全にお任せ状態だ。
「でも食べとかないと体力落ちるぞ?ただでさえお前ちょっと痩せたろ」
そう言いながら自分の終わった食器を下げるためにジェイクは立ち上がった。それを見上げて「そうかな?」とシェリーは首を傾げた。
「ああ、この辺とか特に」
そう言ってジェイクはニヤリと笑うとシェリーの脇腹から胸の下に腕を回した。そのまま椅子からシェリーを持ち上げる。
「きゃ…」
いきなり身体が浮いてシェリーは驚いて手足をバタつかせる。
「コラ、大人しくしろって」
太腿とお尻の境目をホールドされて抱っこされたシェリーはジェイクを見下ろす格好になった。対してジェイクはシェリーを見上げている。
「やっぱりちょっと軽くなってる」
「でも、ホントにお腹空いてなくて――」
「じゃあ、腹が空くよう協力してやるよ」
こちらを見上げるジェイクの顔を見てシェリーの勘が警鐘を鳴らした。
「え、遠慮する――」
言いかけた途端、視界がぐらりと揺れた。ジェイクの肩に担がれる格好になったシェリーはジェイクの背中を叩く。結構本気で叩いたのに、ジェイクはびくともせずに歩いて行く。その先には寝室。
「ちょ、ちょっと!待って、食べる!食べるから下ろして!」
「遅い」
寝室のベッドの上に放り投げられた。スプリングが自分の重みでたわんだ後、ジェイクが覆いかぶさって更にギシと音を立てた。
慌てて身体を起こそうとしたその首筋に唇が下りてきてきつく吸い上げられる。ジェイクの肩を押しながら首を竦めても無駄だった。最後の抵抗とばかりに「シャワーも浴びてない、のにっ」と言うとジェイクは意地悪く笑った。
「どうせ汗かくだろ。後でいい」
そのまま更に言い募ろうとしたシェリーの口を塞いで、シェリーの抵抗はやっぱり無駄に終わった。


シェリーは思い出して一人で真っ赤になった。
そうだった、最後にしたのは夏だった。すごく暑い日だった。今はもう秋で――つまり2ヶ月以上は経っている。
いや、そうではなくて。
こちらから誘う手段の参考にジェイクの誘い方を思い出してみたが――

(何の参考になるっていうのよーー!?)

シェリーは更に頭を抱えた。とりあえずジェイクを抱えるとか無理だし、どうすればいいのか。
そんな経験は当たり前だが皆無で、一体、世の女性たちはどうしているのか。
誰かに聞けばいいのか。でもいったい誰に?
クレア?でも忙しいクレアを呼び出してまで出す話題じゃないような気がする。しかもどんな顔してそんなことを聞けばいいというのか。

(む、無理!誰かに聞くとか絶対無理)

恥ずかしくて憤死できる自信がある。
じゃあ、どうしよう。自分で考えるしかない。でも何も思いつかない。

シェリーは途方に暮れて立ち尽くした。道行く人がシェリーとすれ違って通り過ぎてゆく。
それをぼんやり見ながら、通り沿いに並ぶ店に視線をやると、その目にあるものが飛び込んで来た――


**

「最近彼女とうまくいってないのか?」
研究所に通い詰めて半年。顔見知りも増えて世間話程度はできるようになった。その中の一人が聞いた。
「ああ?何で?」
「だってすげー機嫌悪ィ」
「んなことねぇ。気のせいだろ」
心当たりがあるので目を逸らしながらジェイクは言った。
「もう半年一緒に住んでんだろ。いいよなぁ、一緒に住んでるとやりたい放題だろ」
あけすけな物言いにジェイクは思わず苦笑したが、同時に少しイラつく。相手はジェイクと同じくらいの年代の男で、この半年ほぼ毎日顔を合わせているので遠慮もとうの昔になくなっている。そしてジェイクくらいの年代の男が集まれば話題はやはりそっちの方へいくのはデフォルトだ。
「んなわけあるか。シェリーは忙しいからな」
「でも毎日会えるだろ」
「1週間帰って来ないとかザラだぞ」
あー…とわかりやすく同情を顔に浮かべた奴を見ながらジェイクは舌打ちした。
今、その話題はジェイクにとって禁句に近い。
「じゃあ、全然やってないの?」
こいつは空気を読むという能力がないのか。研究ばっかしてるとこうなるのか?
「うるせぇ」
一言で切って捨てたジェイクに男は不思議そうな顔をした。
「え?ホントにそうなのか?何で?」
「お前はホントにうるせぇよ!」
身を乗り出してくる奴の頭をはたく。それでも悪気なく懐いてくる奴は追及をやめない。
「気になるじゃん。何で?何でやんないの?」

(んなこたぁ、俺が聞きたいわ!)

口には出さずに内心で叫ぶ。

シェリーとは別に喧嘩しているわけではない。
シェリーの仕事が忙しくてすれ違いの生活ではあるが、ジェイクの方に何ら気持ちの変化があったわけでもない。
最初は仕事でてんてこ舞いの彼女に気遣って誘えてなかっただけだったが、間が空くにつれて別の感情が湧いてきて誘いにくくなった。

――俺が誘わなかったら、シェリーはしたいと思わないのか。

嫌々応じている、というわけではないとわかっているが、やはり俺だけが求めている現況を少しだけ変えてみたくなった。
更に忙しくなった彼女とすれ違いの生活をいいことに、ジェイクはシェリーからのアクションを待ってみた。そしたら――2ヶ月以上が経った。この2ヶ月――正確には2ヶ月と5日だ、正直苦難の2ヶ月と5日だった。そしてそれは更に続くと思うとジェイクはげんなりした。
離れている時に2ヶ月しないことなんて当たり前だったが、何とも思わなかった。それは離れているからだ。でも今は――
ジェイクは溜息を吐いて思考を追い払う。あまり考えると箍が外れて襲いそうになる。正直何のための自制なのか自分でもわからなくなるが、もしシェリーの求める頻度と自分が求める頻度に差があるなら――それは知っておきたい。
そう思ってジェイクはこの思考を停止させることにした。考えれば考えるほど衝動を抑えられるか自信がなくなる。


検査が終わって家に帰ると珍しくシェリーが先に帰っていた。
明かりのついたリビングで「おかえりなさい」と迎えたシェリーにジェイクは思わず笑みが零れる。
「今日は早かったんだな?」
「ええ、一段落ついたから…明日はお休みをもらったし」
チラと上目遣いにジェイクを見たシェリーが「ジェイクは?」と聞いた。
「明日は…昼からでもいいって言ってたな」
「ホント?じゃあ今日はゆっくりできるわね」
嬉しそうに笑うシェリーを見て、ジェイクの心臓が跳ねた。
他意はない言葉なんだろうが、やはり期待はしてしまう。
「ご飯をね、作ってみたの。大したものはできなかったんだけど…」
待ってて、と言いながらキッチンに入って行くシェリーの後姿を見送って、ジェイクは手早く着替えた。
テーブルに着いて食事をしながらジェイクはたわいもない話題を振ってみるが、シェリーは聞いているのか聞いていないのか、終始上の空だった。
食事を終えて片づけている間もソワソワしていて、ジェイクは首を傾げた。
「どうした?」
堪らず声をかけると、シェリーの肩がビクっと跳ねた。
「な、何が?」
「何か様子が変だぞ?何かあったのか?」
「べ、別にっな、何もないっわよ」
(噛んでるし…明らかにおかしいだろ)
シェリー、と呼びながら傍に寄ると、シェリーは身体を固くした。逃げそうになるのを意思を総動員して抑えている、という感じで固まったまま動かない。
(何だ?何でそんなに固くなってる?)
ジェイクは訳がわからずシェリーの顔を見つめた。視線を下に向けたシェリーの顔色は蒼白といっていいほど白かった。
思わず手を頬に沿わせようとして――シェリーがビクっと頭ごとジェイクの手を避けた。行き先を失って宙に浮いた自分の手を下ろすと、ジェイクは一歩離れた。
「俺に触られるのが嫌なのか」
口から滑り出た言葉にシェリーが瞠目する。
「ち、ちが――」
慌てて否定するシェリーから目を逸らすと、ジェイクは背中を向けた。
ボタンを掛け違えたみたいに、俺たちの歯車も狂ったみたいだな――自分の仕掛けた駆け引きの代償がこれか、と思うとジェイクは自嘲した。
背後からかすかな衣擦れの音が聞こえた気がして、ジェイクは振り向いた。振り向いて、目を瞠る。
シェリーが真っ赤な顔をして立っていた。

――下着姿で。

ジェイクは目が吸い寄せられて離せなかった。
シェリーはいつも下着は白だ。それ以外を見たことがない。確かに白がシェリーに一番似合ってる気はするし、正直中身にしか興味はないから今まで気にしたこともなかった。だが今は――真っ黒な生地にレースをあしらった下着だった。腕を胸の前で交差しているからブラは隠れているが、下も同じデザインのお揃いで、黒が色白のシェリーの肌には映えて煽情的だった。しかもそんな挑戦的な色を着けているくせに俯いた顔は恥ずかしそうに赤くなっていて、今にも泣きそうだった。
そういえば、と帰って来た時にシェリーを見て思った。
(スカートなんて珍しいな)
いつもならラフなTシャツとかトレーナーとかで、下は足のラインがはっきり出るパンツを穿いていることが多い。それが今日はワンピースだった。Aラインの膝丈でファスナーを下ろせばそのまま下着姿になれるような――そのワンピースは足元に落ちていた。

「あ、あのっ」
俯いたままの真っ赤な顔が泣きそうに歪んだ。
「…何ていうか…その、」
シェリーの意図を悟りかねてジェイクは黙ったまま先を待った。もしかしたら自分が待っていたものがこれから訪れるのかもしれない。そう思って。
「触られるのが嫌じゃないの。その反対なの!でもどうやってそれを伝えたらいいのか、わからなくて…」
シェリーは自分の頬を手で挟んでそのまま続ける。
「それでっ、こんな下着を買ってみたんだけど…」
そこまで言ってシェリーは沈黙に耐え切れなくなったのか、足元のワンピースを掴むと踵を返して脱兎の如く逃げ出そうとした。それをジェイクは手を伸ばして阻止する。腕の中にシェリーを閉じ込めて、身体を回転させると背中に手を回した。ワンピースが再び足元に落ちた。
我ながら自分の顔が嬉しくて崩れるのを自覚しながらジェイクはシェリーを見つめた。
見上げたシェリーの目尻から涙が零れた。
「嬉しい」
端的に自分の気持ちを伝えながら、ジェイクはシェリーの涙を指ですくった。
「お前からそんなこと言われるなんて思ってもみなかった。下着も――」
そう言って目線を下げて下着を見ると、途端にシェリーの顔が耳まで赤くなった。
「俺のために買ってくれて、すげぇ嬉しい」
「ほんと?」
「ああ。たまんねェ」
そう言いながら首筋に唇を這わせると、シェリーはジェイクの背中に手を回した。
「もう…飽きたのかと思った」
呟くように言われてジェイクは唇を止めた。
「全然…触ってくれなくなったから…」
「いつから?」
え?と聞き返されて、ジェイクはシェリーの顔を覗き込んだ。
「いつから気になってた?」
「え…と、1ヶ月くらい前から…?もっとかな…」
「最後にしたの、いつか覚えてるか?」
「2ヶ月くらい前だよね?」
「2ヶ月と5日だよ!お前は1ヶ月しなくても大丈夫で、それから更に1ヶ月も気にしながら悩んでたのかよ!?」
「な!何でそんな正確に覚えてんのよ!?」
「当たり前だろ!こっちはどんなけ待ってたと思ってんだ!」
え、と顔を見返されて、バツが悪くてジェイクはそっぽを向いた。
「待って?」
「お前は俺が誘わなきゃしたくないのかと思って。俺ばっかり――」
言いかけた言葉はシェリーの唇で遮られた。頬に当たる唇の柔らかさともう片方の頬に添えられた手の温かさで、ジェイクはシェリーの方を見た。シェリーの手がジェイクの両頬を挟んで、真っ直ぐに目を見ながら呟く。
「ごめんね。自分からは何もできなくて…全部ジェイクに任せっぱなしで…」
いや、とジェイクが答えると、シェリーが唇を寄せてきた。ジェイクが目を閉じると、温かくて柔らかい感触がして、2ヶ月我慢したツケが一気に反動をつけてやって来るのがわかった。それでもジェイクはぐっと我慢して、物足りない唇だけのキスに甘んじた。
「今日はお前が俺をリードしてくれんの?」
シェリーの唇が離れてからジェイクは口の端を吊り上げた。至近距離で目を見開いた彼女を見つめた。
逡巡する間があって、シェリーはジェイクの手を引いて寝室に向かった。
わざとのようにジェイクに顔を見せないシェリーの髪の間から覗く耳が赤いのが見て取れて、ジェイクは握られた手を強く握り返した。

***

シェリーの耳に寝室のドアが閉まる音がやけに大きく響いて肩がビクッと跳ねた。
更にジェイクの指先に絡めた自分の指先が震えているのがわかった。
ベッドの傍まで来てジェイクに向き直る。いつもならジェイクから起こすアクションが今日はない。シェリーは耳まで燃えるように熱くなるのを感じながら、次にすることを考えた。
(ジェイクがしてくれてることをやればいいのよね)
まずはキス。キスから…
俯いた顔を上げないと、と思うのに自分からキスをねだるなんて恥ずかし過ぎてなかなか顔を上げられない。放すタイミングを失って握ったままだったジェイクの手を更に強く握り締める。
「いてぇ」
強く握り過ぎたのか、ジェイクがシェリーの額を自分の額で小突いた。
「あ、ごめ…」
「緊張してんのか?自分のやりたいようにやったらいい」
顔を上げないまま上目遣いに見上げると、ジェイクの優しく微笑んだ瞳とぶつかった。
いつもよりジェイクの表情が甘い気がしてシェリーの心臓もぎゅーと掴まれたみたいに痛くなる。甘くて、切ないくらいに痛い。
目の前のジェイクの胸を手で軽く押すと、ジェイクはベッドの端に腰かける格好になった。その前にシェリーは立って、ジェイクのシャツの裾に手をかけた。めくり上げるとジェイクは素直に手を上に挙げる。脱いだ服を床に落として、シェリーは部屋が明るいままなことに気づいた。
慌てて電気を消しに行こうとして――ジェイクに手首を掴まれた。
「いいだろ。暗くしたらお前の下着も見えなくなる」
「む、無理よ!明るいままなんて――」
「俺は見たい」
真摯な瞳に見上げられ、シェリーは堪らずギュッと目を瞑った。

――ズルイ。

そんな顔して言うなんて、ずるいんだから!
「…み、見られてたらリードなんかできないっ」
かろうじて交渉すると、ジェイクが思案顔になった。ソロバンを弾いている顔だ。
「…じゃあ消して」
シェリーは慌てて電気を消しに走った。正直、明るい場所か自分がリードか、と聞かれればどっちもどっちだ。それでも見られていると思うときっと心臓がもたない。
スイッチを押すと部屋の明かりが落ちた。真っ暗な中を手探りで進んで行くと、ベッド脇のスタンドライトがまばゆく光った。ジェイクがつけたらしい。一番下の弱さまで光を落とすと、ジェイクがベッドに仰向けに寝転んだのが見えた。
シェリーは傍に寄るとベッドに上がってジェイクの横に正座した。
(こ、これからどうすれば…)
とりあえず一緒に寝転べばいいのか。ジェイクは完全に待ちの姿勢なのか寝転んだまま天井を見上げている。
完全に考え込んだシェリーを見かねたのか、ジェイクが手を広げた。
「来いよ」
え、とシェリーは戸惑った。上に乗れと言うことなのか。
「お、重いよ?」
「お前が重いわけあるか。お前を待ってたら朝までかかる」
ごもっともなのでシェリーは素直にジェイクの広げた手の中に入る形で上に乗った。触れた素肌が温かい。
ジェイクの手が背中に回って抱き締められる。シェリーは引き寄せられるようにジェイクに顔を寄せた。
眉間、瞼、頬、といつもジェイクがしてくれるように順番に唇を落としていく。最後に唇に触れるだけのキスをして、顔を離そうとしたら後頭部を掴まれた。反射で逃げようとするシェリーをジェイクが逃がすわけもなく、そのまま舌を捻じ込まれた。いつになく長いキスで翻弄されたシェリーは、解放された時には息も上がっていた。
シェリーがジェイクを睨むと、「お前が遅いから」としれっと言った。
「私には私のペースがあるの!」
「ハイハイ、じゃ早くな」
いつの間にかジェイクの腹に上に馬乗りの格好になっていたシェリーは慌てて降りようとして――ジェイクに腰を掴まれた。
「あのなぁ、どこ行くんだよ?」
「だ、だってこんな格好恥ずかし――」
「そんなんじゃいつまでたっても進まないぜ」
で、でも、と言いかけたシェリーの腰に置かれていたジェイクの手が下着の中にするりと入って直接お尻を撫ぜた。
「ちょ、ちょっと!ジェイク?」
「あんま我慢させてっと1回じゃ済まなくなるぜ?」
綺麗に割れた腹筋を駆使してジェイクはほとんど反動なしに起き上った。シェリーはジェイクに跨ったまま向き合う格好になる。ジェイクの手は下着の中に入ったままだ。
「な、なに言って…」
「もう限界」
そのまま噛みつくように口を塞がれ、背中がのけぞる。ジェイクが片腕でそれを支えて、次いで胸の縛めが緩んだ。黒い肩紐がはらりと肩から腕に滑り落ちる。
頭の芯が蕩けながらも必死でジェイクの舌を追う。このまま流されるわけにはいかない一心でシェリーは意識を保った。
やっと唇が解放されたと思ったら、既にジェイクの舌は次のターゲットに移っていて、首筋にチリっと痛みが走る。そのまま胸に唇が下りてくるのをシェリーは焦る思いで背中を丸めて阻止した。
(このままだと流される!)
一体何に対する対抗心なのか。リードするはずがされる側に回されそうになって、シェリーの負けず嫌いの性格に火がついた。
ジェイクにもその思いが伝わったのか、フッと笑う気配がした。
「何だよ、続きができねぇじゃん」
背中に回ってた手が上から下に滑った。その掌の感触に思わず丸めた背が弓なりに反った。
ジェイクはシェリーの身体を誰よりも知っている。きっとシェリー本人よりも。
肩に緩くかかっただけの黒い下着ごと胸を差し出す形になったシェリーに、ジェイクは薄く笑った。
「可愛い」
胸の谷間に顔を埋めて、ジェイクは肩から紐を落とした。
「やっ…」
またもチリと痛みが走るキスを胸にされて、シェリーは飛びそうになる意識を必死で追った。
「リードっ!するって…言った、のにっ」
息も絶え絶えで胸元に顔を埋めたジェイクに言う。
「待てない。限界っつったろ」
胸に吐息がかかって更に身体が震えた。ついては消える所有印のように、さざ波のように強弱をつけて襲ってくる快感をシェリーはただ享受するだけになっていた。
「2回目はリードしてくれていいぜ?」
からかうように見上げてくるジェイクに、シェリーは頬を膨らませた。

「ぜったいもうしない!!」

ククっと喉の奥で笑ったジェイクは続きをするべくシェリーを押し倒した。

→あとがき

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