バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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背中
夜中にふと目を覚まして、無意識に横にあるはずのぬくもりを探すようになって久しい。

その日もふと意識が浮上して、目を開く前に身体に感じていた温もりが遠のいた。
あれ、と思いながらシェリーが目を開けると、ジェイクが背中を向けてベッドに腰かけているのが見えた。
立ち上がる時にベッドがギシと音を立てる。静寂な空間の中で意外に響いたその音にジェイクはこちらを窺う。シェリーは慌てて目を閉じた。
いつも朝起きるのはシェリーの方が後で、ジェイクが既にベッドにいないことも多々ある。たまには私が先に起きてニッコリ笑って「おはよう、朝ごはんできてるわよ」と言いたい、と常々思っていたので、息を潜めてジェイクがもう一度寝るまで待つことにした。
目を閉じたまま気配を窺っていると、足音もなく気配が遠のくがわかった。気付かれていないことにホッとした。

ジェイクは本当に足音を立てない。身体は一見細いように見えるけど、シェリーなんかはすっぽり腕の中に納まるくらいに肩幅も大きいし、身長だって自分より頭一つ分は優に高い。なのにシェリーより大分あるはずの体重を全く感じさせない足取りで歩く。気配だって消せる――傭兵だから当たり前かもしれないが。
音も気配もなく大きな背中が薄闇の中を移動するのが見えた。
手にはペットボトルを持っていて、上半身は裸だった。
窓から射す月明りに照らされ、ジェイクの姿を浮き上がらせている。

――綺麗――

男の人を綺麗と表現するのはどうかと思うが、ジェイクの身体はしなやかで、形のいい頭に意外と太い首、服を着ている時からは想像できないくらいに筋肉がついていて、首から肩甲骨、腰への弓のような曲線を描いている。それをぼんやり見ながらシェリーは何かに似ている、と思った。
ジェイクは手にしたペットボトルを口元にやると、上を向いてゴクゴク豪快に飲んだ。月明りに照らされた首筋が綺麗に伸びて、喉仏が上下に揺れるのがハッキリ見えた。

そして、ふと思い当たる。

猫?猫みたい、ううん、それじゃ小さすぎるし、可愛い。もっと、大きな――


――豹。

優雅に音もなく移動して、ここという場面では獲物を逃さない。しなやかに駈けて綺麗な体躯を自由自在に動かして獲物を仕留める――そんな動物。
普段、ジェイクはシェリーをよく後ろから抱き締めて離さなかったり、ベッドに座ってる時もくっついてくる。耳にもよくキスされる。何だか大型動物にじゃれつかれてるみたい、と思ったことがあった。そんな時も優しくて甘い。でも、シェリーは昨夜のようなジェイクを初めて知った。

昨日の夜は色々あった後だったから、いつもより激しく求められ、シェリーも彼を失うかもしれないという危機感を脱した安堵から自らも応えた。いつもなら一度で終わるはずの行為もどちらからともなく二度目が始まり、眠りについたのはもう何時だったかも覚えていない。

いつものように優しくて甘いジェイクじゃなく、今のようにシェリーを起こさないように気配を殺してるジェイクでもなく、付き合い始めの頃のように戸惑いながら身体に触れてくるジェイクでもなく、

――野獣のようなジェイクを知った。

甘くて優しいのに、激しい。あの目に見つめられれば抵抗なんて出来ない。狙われたら食い尽くされるだけ。そう思った。

ぼんやりジェイクの背中を見惚れていると、肩に赤い痕が見えた。何だろう?と首を傾げた時、ジェイクがこちらに歩いてきた。慌てて目を瞑る。
するりと毛布の中に身体を滑り込ませる気配がして、シェリーの顔に吐息がかかった。続いて瞼に柔らかい感触がして、低く囁かれる。

「寝たフリ下手すぎだろ」

びっくりして目を開いたらジェイクのいたずらっ子のような笑顔があった。
「き、気づいてたの?」
「あんな熱い視線を浴びたらそりゃ」
「熱いって!」
「熱かった熱かった。何だよ、人の背中がそんなに珍しいか?」
ジェイクは自分の背中を見るように首を反らす。
「綺麗だなぁって思って――」
「はぁ?」
「豹みたい。大きくってしなやかで、音もなく歩いて。細いのに綺麗に筋肉ついてて…」
言いかけて、そういえば、とシェリーはジェイクの肩を身を乗り出して見た。
「何か肩に赤い痕が――」
間近で見たジェイクの肩の傷は引っ掻いたような痕で、何本か短い線があって、それはまるで――
言いかけて止まったシェリーをジェイクはニヤニヤしながら先を促す。
「赤い痕が?」
「な、何でもない!!」
毛布の下で身体を反転させてジェイクに背を向ける。ついでに頭まで毛布をかぶっていたら、後ろから抱き締められ、耳元で意地悪いジェイクの声がした。
「お前が付けた痕だぞ?忘れたのか?」
「…!!」
「結構毎回痛いんだけど。そろそろ慣れろよ」
「ジェ、ジェイクが手加減しないのが悪いのよ!」
「いつもは手加減してるっつーの。昨日はできなかったけど」
「…もういい、もうこの話は終わり!」
あまりの恥ずかしさに居たたまれなくなって、ジェイクに背を向けながら顔を覆っていると――
「キャ…!」
肩を掴まれてうつ伏せにされた。続いて背中に唇が落ちてきて、その冷たさに悲鳴が上がる。
「な、なに…?」
「何って、お前が俺の背中を堪能したから、今度は俺の番な?」
「触ってないじゃない!見てただけよ!!」
「ん?いいぜ、じゃあ、見るだけな?」
肩にあったジェイクの手が遠のき、毛布も肌蹴て背中が丸出しになる。そこにジェイクの視線を感じて、更に居心地悪くなる。
見られてるだけの方が余程居たたまれないことに気付いたシェリーは「も、もういい?」と早々に毛布を被ろうとする。
「まだ。お前は結構長い間見てたぜ?」
毛布を引っ張られて阻止される。続いて背中に吐息がかかって、息を呑んだ。
「ちょ、ジェイク!」
「触ってねぇよ」
「息がかかってくすぐったい!」
「我慢しろ」
何でこんな苦行みたいなことになってんのーー!とシェリーは毛布を胸に丸めて抱き締めて、嘆いた。



**********

「綺麗だなぁって思って――」
「はぁ?」

男に綺麗って何だ。意味がわからん。
夜中に起きて喉が渇いたからベッドサイドに置いてあったペットボトルを持って窓際に行った。結構静かだったから、ゴソゴソする気配でシェリーを起こしてしまわないようにと思ってのことだったが、ふとシェリーが起きているのに気付いた。でも声をかけてこないし、どうやら寝たフリを決め込むらしい。その割には向けられる視線が熱くて、背中越しに戸惑った。
――何をそんなに熱心に見てんだ?
窓の方を向いてるので、自分の背中しか見えないはずだが、背中なんか見たって面白いはずない。シェリーの背中ならきっとどれだけでも眺めていられるだろうが――
そう思いつつもベッドに戻って寝たフリを指摘すると、慌てたシェリーが「気づいてたの?」と聞いてきた。当たり前だろ、あんなに見つめられて気づかないわけあるか。視線っつーのは感じるもんなんだよ。
挙句の果てに人のことを豹とか言い出しやがった。意味不明だな、コイツ。

「肩に赤い痕が――」
更に言いかけた言葉を切ったシェリーの顔は真っ赤で、ジェイクの肩についた痕が何なのか察したようだ。
毎回つけられるので、消える頃にはまた新しくついて、シェリーと身体を重ね始めてから常時ジェイクの肩には痕がつくようになった。いつも手加減するつもりで始めるのだが、最後にはそんな理性も残ってなくて攻め立ててしまう。だから必死で爪を立てて耐えるシェリーに免じてこの傷に関しては不問にしている。
――のに、自分から振るか。
自分で振っておいて「この話は終わり」とトマトみたいになって言い切ってて、そんなとこが可愛い、と思ってる自分も大概だが。
更に背を向けるシェリーの綺麗な曲線を描いた背中が目に入って、あの時もこうやって背中を見たな、と思い出した。

中国の監禁施設のロッカールームで、ロッカーの扉を1枚隔てただけなのにいきなり検査服を全部脱ぎ捨てた。
男として認識してない事実を突きつけられてるようでムカついた。あの検査服で平気で近寄って来ようとしたのもそういうことなんだろう。こちらが目を逸らして咳払いしなけりゃ何も気にしなかったのかもしれない。それはそれでおいしいか、と今なら思えるが、当時はそんなことを思うべくもない。

もっと堪能したくてシェリーの肩を掴んでうつ伏せにベッドに押し付けた。そのまま唇を背中に這わせると、シェリーがびっくりしたのか短い悲鳴が上がる。
「今度は俺の番な?」
そう言うと触ってない、見てただけと抵抗する。ジェイクは口の端を吊り上げて同意する。
「いいぜ。じゃあ、見るだけな?」
(わかってないな、触られるより見られるだけの方が結構辛いぜ?)
つい先ほど体験済みのなのでそう思ったが、敢えてシェリーに素直に従う。手を離す代わりに顔を近付ける。吐息がかかったのかシェリーの身体が竦んで抗議が入るが、我慢しろと一蹴した。
シェリーにとっては見られるだけが居心地悪いだろうが、それはジェイクにとっても諸刃の剣だった。
手を伸ばせば届く、この綺麗な背中に触れれないなんて、どっちが我慢なんだか――
ため息に似た息を吐くと、目の前の背中がまた竦んで揺れた。ジェイクは毛布をかけると「もう寝ろ」と自分もシェリーの隣に寝転んだ。戸惑ったようにこちらを見るシェリーに薄く笑う。
「これ以上したらまた襲いそうだ」
「お、おやすみなさい!」
慌ててベッドの壁際まで寄るシェリーに苦笑いして、自分もそちらに寄る。何もしないけど離れることないだろ。
シェリーの頭の下に腕を入れて頭を抱え込む。ついでに頭の天辺にキスを落として「おやすみ」と言うと、警戒していた身体から力が抜けた。そのわかりやすい行動が可愛くてジェイクは微笑んだ。


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