バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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Speaking of odds... <5>
結局、刺客も片付いたのでボディーガードも必要なくなり、ホテルの部屋も引き払って、ジェイクがシェリーの部屋へ泊まることになった。
シェリーの部屋へ行く途中、ジェイクは黙ったままでシェリーも何も言えなかった。
(まだ怒ってるのかな)
昨日の言葉をまだ謝っていない。でも謝るきっかけがないままここまで来てしまった。
ジェイクも不機嫌そうに前を向いたままで、タクシーを降りるとマンションへ向かって歩き出した。
一歩遅れてついて行きながら、シェリーは泣きそうになった。
ロイのことで随分傷つけたであろうジェイクが撃たれて呼吸停止になったシェリーを助けてくれた。もう感染の心配はないとはいえ、誰もができなかった人工呼吸を何の躊躇いもなくしたと聞いて、胸が苦しくなった。

――色々ごめんな。

研究所内の病院施設を出る時、ロイがシェリーを呼び止めてそう言った。
何に謝られてるのかわからないまま顔を見ていると、ばつが悪そうに頭を掻いた。
「助けてやれなくて、ごめん。人工呼吸、できなかった。好きだって言っといて最低だよな、俺」
シェリーは慌てて首を振った。
「そんなことない。誰だって躊躇うわ。自分の命がかかってるんだから。私が無茶したから…」
「でも彼は何の躊躇いもなかったよ。君は命を懸けてでも守りたい人なんだってさ。俺には言えない言葉だね」
あんなことを言ったのに、あんなに傷つけたのに、ジェイクはまだそんな風に私を想ってくれるの。
「私、彼をあんなに傷つけたのに…」
思わず顔を覆うと、ロイは優しく頭に手を乗せて言った。
「彼は傷ついてるんじゃないよ。怖がってるんだ。君を失うかもしれない、俺に取られるかもしれないってね。有り得るかい?」
シェリーは顔を覆ったまま激しく首を振った――横に。
「だろ?じゃあ、それをそのまま言えばいいよ」
「ごめんなさい…私、あなたも傷つけたわ」
「俺?俺はむしろ君に悪いことしたと思ってるよ。君を好きだと思ったのは本当だけど、彼のそれとは次元が違ったな。彼にも悪いことした。随分意地悪言ったから」
お茶目に笑うロイにシェリーも微笑んだ。
「何かあったらいつでもおいで。話ぐらいは聞けるよ」
そう言ってロイは手を振って出て行った。


「部屋どこ?」
ジェイクの声で我に返ったシェリーは慌てて自分の部屋を開ける。
「ここよ。散らかってるけど気にしないでね」
そう言ってジェイクを中に入れる。
リビングに通して「お茶でも淹れるから、座って――」と言いかけたシェリーをジェイクが引き寄せた。
持っていたカバンが重い音を立てて落ちた。抱き締められた、という認識は一瞬遅れてやって来て、どうしたのかとジェイクの顔を見ようとして、更に腕に力が入ってそれを阻む。耳元に寄せられた唇からの吐息がくすぐったい。その距離で囁かれる。

「好きだ」

驚いて、ジェイクの顔を見ようとするシェリーの首筋に顔を埋めて、ジェイクが続ける。
「言ったことなかったろ。もしそれでお前を不安にさせてたんなら悪かった。俺はお前が親しげに他の男の名前を呼ぶのにも嫉妬しちまうくらいガキだけど、お前を好きな気持ちは誰にも負けない」
ジェイクに好きと言われたのは初めてだった。言われて気づいた。

――ずっとそう言って欲しかった。

キスしても身体を重ねても、態度でわかっていても、やっぱり言葉にして言って欲しかった。
他の誰に言われてもこんなに心が揺さぶられることはない。心臓を甘く射抜かれたみたいな甘美な響きはジェイクでしか得られない。言われて初めて気づくなんて――なんて馬鹿なの。
「私も…好きよ。ジェイクが一番好き。それはずっと変わらないわ。でも、気を遣う順番を間違えたのね。それであなたを傷つけたわ。ごめんなさい」
シェリーはジェイクの背中に手を回して抱きついた。

しばらくそのまま抱き合っていると、ジェイクが何か呟くのが聞こえた。聞き取れなくて顔を離して聞き返そうとしたら、目を覗き込まれた。

「…いくらウィルスがあるからって銃の前で囮になるなんてこと、二度とやるな。俺の心臓が止まるかと思ったぞ。俺が行かなかったらどうなってたか」
「うん、ごめんなさい…」
項垂れるようにして俯くと、ジェイクの手が顎にかかって上を向かされた。ブルーグレイの瞳が近づいてきて、シェリーは目を閉じた。唇に柔らかい感触がして、シェリーはジェイクの首に手を回した。
深くなるキスに酔う前に、シェリーは聞きたいことがあったのを思い出して、慌てて顔を離す。
突然離れたシェリーを怪訝そうに窺うジェイクの胸に腕を突っ張って身体も離す。
「何だよ?」
「聞きたいことがあったの!」
目を輝かせて聞くシェリーに目顔で先を促すと――

「クリスとの話し合いはどうだった?」



*********

「ハァ?」
ジェイクは相当間の抜けた声を上げた。
「だから、今日クリスと会ったんでしょ?ちゃんとお話しできた?ずっと気になってたの」
「いやいや、違うだろ。今はそんな話をしてる場合じゃねぇだろ!後にしろよ」
そう言ってまた抱き寄せようとしたジェイクに「先に教えてよ」と抵抗する。
「いや、無理だし。昨日も我慢したんだぜ、今日これ以上待つのは無理」
「な!何言ってんの!こっちの方が大事でしょ!教えて」
「こっちの方が大事に決まってんだろ!あっ!てか、お前、ピアーズの奴と連絡取ってたんだってな?見舞いに行ったって聞いたぞ!」
キョトンとこちらを見返したシェリーは、わけがわからないような顔をした。
「え?そうよ、結構頻繁に連絡くれたわよ?お見舞いも行くでしょ、普通」
「俺は知らなかったぞ。ピアーズの奴と連絡取ってたなんて!」
「ジェイクがクリスの面会断ってたからじゃない!そのことしか話してないもん」
「嘘つけ、アイツ、俺が半年お預け食らってたこと知ってたぞ!」
言ってる意味がわからないのか、首を傾げるシェリーの腰を引き寄せた。
「今からやろうとしてるコトを半年待たされたって知ってたぞ?」
言い換えてやっと理解したらしく、逃げ腰になりながら「し、知らないわよ!」と真っ赤になる。
「しかもお預けって何よ?じゃあ今日もお預けね!」
ジェイクは口の端に笑みを浮かべて、シェリーの腰をしっかりホールドする。
「いいのかよ、そんなこと言って?後で泣きついても知らねぇぞ?」
え、と言いかけたシェリーの口を塞ぐ。いきなり手加減なしで思う存分腔内を味わって、解放する頃には腰を支えないと立てなくなっているシェリーにジェイクは意地悪く聞いた。
「どうする?ベッドに行く?」
本人は睨んでるつもりの潤んだ瞳で見上げられ、ジェイクは答えも聞かずに抱き上げた。首に手を回してきたシェリーに再度問う。
「どうする?やめる?」
やめるつもりなんか毛頭ないくせにそう聞くと、もう、と呟く声が聞こえてジェイクの首筋に顔を埋めたシェリーが小さく言った。
「…寝室に行って」
ジェイクは満足げに笑うと「仰せのままに」とシェリーを抱え直した。


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