バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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Speaking of odds... <4>
結局、奴の車に乗ってホテルまで帰って来て、車の中ではふてくされたように窓の外を見ていた。奴も特に話しかけて来るでもなく淡々と運転していた。
部屋の前で何も言わずにドアを開けて叩きつけるように閉めた。奴は何を言うでもなく向かいの部屋の前に立っていたが、顔を見たわけでもないのに笑ってる表情が頭の中にチラついた。
確かに奴が言う通り、選ぶのはシェリーだ。
だがジェイクはシェリーに選ばれる自信があるのかと言われれば――微妙だ。今日の態度を見れば余計にそう思う。あいつが気になるのか。好きと言われて揺れてるのか。俺との間で?
(くそっ)
考えれば考えるほど思考は悪い方へ転がっていく。たまらなくなってジェイクはシェリーへ電話した――が、奴の言う通り、電源が切られているのか繋がらなかった。
奴の言う通りだったことが気に食わなくて、更に気分はささくれ立つ。
あんな風にずっと好きだった、なんて言われてシェリーは嬉しかったのか?俺はシェリーに好きなんて言葉を言ったことがない。付き合うきっかけもシェリーが作ってくれた。俺は待ってただけだ。自分から行動していない。その後ろめたさが今になって自分を刺す。
奴は大人で、ちゃんと自分の気持ちを素直に伝える術を知っている。それに比べて俺はシェリーを責めることでしか自分の気持ちを表せなかった。ロイ、なんて親しげに呼ぶな、と言えばよかったのか?言えるわけない、と頭ではわかってるが、それでも苛立つ気持ちは抑えきれなくて――結局シェリーにぶつけた。

――あんまり困らせないで。
――子ども扱いかよ。

あの時は腹が立ったが、子ども扱いされても仕方ねぇな…俺。



**********

シェリーは翌日、ホテルのロイの部屋をノックした。すぐに顔を出した彼はシェリーを招き入れるためにドアを大きく開けた。怪訝に思ってシェリーはロイを見上げた。研究所に行かないの?というわかりやすい疑問を表情に浮かべると同時に、部屋で二人きりになるのが気まずい――そんな感情も読み取れてロイは苦笑いした。
「そんな警戒すんなよ。何もしないよ」
「別にそんな…」
「彼は朝早くBSAAの人と出て行ったよ。何かえらい喧嘩腰だったけど」
シェリーは迎えに来た人が誰なのか見当がついて微笑んだ。やっとずっと断られ続けた面会が今頃実現してるんだろう。
「そう」
「入ったら?」
「研究所に行かないの?」
首を傾げながら聞くとロイは「まだ時間早いよ」とドアノブを押さえたまま言った。
「じゃあ、あっちで待ってよ?」
しばらく無言で見つめてきたロイをシェリーはまっすぐ見返した。
「同じ部屋には入りたくないって?」
「入る必要ないってこと。行こう?」
そう言った途端、ロイはシェリーの腕を引っ張って部屋の中へ引きずり込んだ。
床に押し倒して自分も覆いかぶさる――と同時に木のドアの表面が穿って破片が落ちてきた。
続けて聞こえた音に血の気が引いた。

――サイレンサー付きの銃声。

ロイは既に起き上って銃を手にしている。シェリーも慌ててホルスターから銃を抜いて壁に背をつけた。
ドアは右側に外開き。敵はドアから出て左側。ドアを遮蔽物にはできない。
「なーんか嫌な予感はしてたんだよな」
全く緊張感のないロイの声にシェリーはロイの顔を見た。
「昨日から変なのがウロウロしてるしさ。彼はBSAAに連れて行ってもらってよかったよ」
そう言って携帯を取り出したロイはいつもとは違う笑顔で言った。
「応援が来るまで20分ってとこかな。持ちこたえるぞ」

――そして、冒頭に巻き戻る。



**********

「シェリー!!」
敵が廊下の端で倒れたのを確認してから後ろに向かってロイは叫んだ。
見やった先の廊下に倒れている彼女を見てロイの顔から血の気が引いた。
走ってそばに行くとうつ伏せで倒れた彼女の下に血だまりができていた。
抱き起して顔に頬を近付ける。息をしていない。更に血の気が引いた時、バタバタと足音が聞こえた。
応援が到着したようで、見知った顔が何人か走ってくるのが見えた。
「息をしていない!人工呼吸をするから心臓マッサージを!」
ロイは叫ぶとシェリーの顎を掴んだ。そのまま口づけようとして――肩を掴まれた。
見ると研究所で見た顔だが誰だか知らない奴が自分の肩を掴んでいる。
「人工呼吸はいい。心臓マッサージだけで」
「何で!?呼吸停止だぞ!?」
構わずシェリーの方へ向き直ると、鋭い声が飛んだ。
「彼女はGの保菌者だ!粘膜感染の可能性がある!」
理解するまでに時間がかかった。何だって?
「どいて!」
ロイは誰かに押しのけられ、今度は抵抗しなかった。離れたところで彼女に心臓マッサージをしているのをぼんやり見ていた。
誰が、何だって?
「シェリー!!」
一際大きな声が聞こえて、ジェイクが走ってくるのが見えた。ロイには目もくれずにシェリーに駆け寄ると、ロイと同じように呼吸を確かめ――何のためらいもなく顎を掴んで口づけた。
何度か繰り返し、シェリーの身体が痙攣したように震えて、咳き込んだ。身体を折って激しく咳き込み、しばらく痛みのためか苦しそうに呻いて――ゆっくり起き上った。身体の上に溜まった血が下に流れ落ち、毛の長い絨毯に黒い海が広がる。
ジェイクがホッとしたように息を吐いて、彼女を支えて立たせている。
ロイは何が何だかわからないまま、茫然と突っ立っていた。
ジェイクがこちらを向いて、燃えるような目つきで睨むと胸倉を掴んだ。
「てめぇがいながら何でこんなことになってんだ!?」
何も言えずに黙っていると、後ろからシェリーがジェイクを止めた。
「ジェイク…違うの、私が勝手に飛び出したのよ。ロイはちゃんと止めたわ」
「止めれてねぇぞ!いくらお前が頑丈だからって囮にするなんて、何考えてんだ!」
「頑丈…?どういうことだ?」
訳が分からない。何でシェリーが立ってるんだ?撃たれたんだろ?
「てめぇ、知らないのにシェリーを的にしたのか!」
「ジェイク!もうやめて」
シェリーはジェイクを抑えてロイの前に来た。服には血のりがついて、到底立っていられるような状態ではないはずだ。
「ごめんなさい。機密扱いだったから言えなかったんだけど――」



**********

ロイは椅子に座ったまま項垂れた。
先ほどのシェリーの話が頭の中をグルグル回っている。
Gウィルスの保菌者。だから撃たれても驚異的な回復力で傷は瞬く間に完治する。さっきは心臓を撃ち抜かれて一時的に呼吸停止になったらしく、ジェイクの人工呼吸がなければ危なかったかもしれないと聞いた。でも、誰も彼女に人工呼吸はできない――ウィルスが移るかもしれないから。
ロイはそれを知って尚、彼女を助けるために人工呼吸はできなかった。

ロイが海軍を退役するきっかけとなったのが、友人の死だった。バイオテロを仕掛けられ、無残にもB.O.Wに変異した友人を目の当たりにした。士官学校からの付き合いで、入隊してからも縁があったのか同じ隊に配属され、ずっと背中合わせで戦ってきた。その友人をウィルスに殺された。それをきっかけにして、肌に合わなかった軍を退役し、バイオテロの撲滅を掲げるDOSに入ったのだ。
自分もあんな風にバケモノに変異するかもしれないと思うと、反射で身体が竦む。
どう言い訳しようとも、シェリーの命と自分の命を天秤にかけ――ロイは自分の命を取ったのだ。
それに比べてジェイクは――彼は全く躊躇がなかった。

「おい」
呼ばれて顔を上げると、ジェイクが立っていた。
「腕の怪我を見るってよ」
言われて気づいた。弾丸がかすったらしく、右腕に血のりが固まっていた。
言うだけ言って部屋を出て行こうとするジェイクに声をかける。
「シェリーは?」
「もう大丈夫だ。一応見てもらってるが、心配ないだろうよ」
そうか、と安堵の息を漏らしたロイは、躊躇いつつも更に質問を重ねる。
「何で…何で躊躇せずに人工呼吸できたんだ?抗体があるからか?」
ジェイクは鼻白んだ表情でこちらを見た。
「抗体なんか知るか。俺に移らないのが抗体のせいか感染経路のせいかなんて関係ねぇだろ。シェリーが死ぬとこだったんだぞ、んなこと考えてられるか」
「抗体があるかわからないのに、自分の命を賭けたのか?」
ジェイクは心底呆れたような顔をして首を振った。
「あんたは何もわかってねぇな。俺にとってシェリーは命を懸けてでも守りたい女なんだよ。あんたは違ったようだがな」
皮肉でも何でもなく言い放たれた言葉はロイを容赦なく刺した。その通りだ。自分か彼女か――そんな重い命題を突き付けられて一体誰が躊躇せずに彼女の手を取れる?
自分には無理だった。どう言い繕ったところでその事実はひっくり返らない。一度竦んだ身体にもう彼女の手を取る資格はない。
「You're right. I thought the odds of getting her are law...But I wouldn't think it ends in tears like that.」
(そうだな…オッズのわからない賭けだとは思っていたが、まさかこんな理由で弾かれるとはね…)
自嘲気味に言ったロイは「Speaking of odds...」と呟いたジェイクの声に顔を上げた。

「It was meant to happen.」

ジェイクにそう皮肉気に言われたが、ロイは本当のことなので言い返すのは控えた。


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