バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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Speaking of odds... <1>
――追い詰められた。

ロイは拳銃の握ってドアから外を窺う。反対側から同じく外を窺っている彼女に目配せして頷く。
外からの銃撃は止んでいる。銃声の音から判断して敵は1人。ヒットマンだろう。つまり、プロだ。十中八九、外にもいるはずだ。もしかしたらスナイパーもいるかもしれないので、窓にも近づけない。
どちらにしろ、ホテルの窓は嵌め殺しだからそちらから出るのは無理だ。出口はこのドアしかない。だが出た途端、廊下の端に陣取ってる敵に蜂の巣にされる。このまま膠着状態が続けば弾が切れる。応援が到着するまでに何分かかるか。それまで保てばいいが――

「私が囮になるわ」

目の前の彼女が外を窺いながら言った。

「外に出て反対側へ走るから、敵の姿が見えたら撃って」
「バカ言うな。囮をするなら俺がやる」
「私じゃきっと一発じゃ当てれない。適材適所、でしょ?」

いつか自分が言った言葉を返されて、ロイは詰まる。

「敵がまだ一人の間にしなきゃ。外にいる応援を呼ばれたら終わりなのよ」
「それでも君を的にさせられるか!俺が行く!」
「私は頑丈だから心配しないで!」

言うが早いか、彼女はドアを足で蹴って駆け出した。途端に銃声。ロイは自分も飛び出すと彼女が走った逆方向に銃口を向けて――引き金を絞った。



**********

彼女と出会ったのはもう5年前になるか――

ロイ・リーダスは海軍兵学校を卒業してからアメリカ海軍に入隊、少尉に任官した。元々の身体能力は高かったが、軍の四角四面の規律には馴染めず、上官との折り合いは悪かった。それに加えてあることがきっかけで退役した。27歳の頃だった。その後は合衆国のエージェントに着任。エージェントとしての活動を5年経験した後、新人エージェントの教育係に任命された。
そして、ちょうど教育係になってすぐの頃、彼女と出会った。

新人エージェントの教育は手の空いたエージェントが担当する。潤沢な人材がいるわけではないので、常時教育する側に人手を回せないからだ。つまり、教える側も教わる側も毎回顔ぶれが変わる。だが、訓練の内容はマニュアル化されており、教育する側もそれに則って訓練を進めるので問題はない。

「シェリー・バーキンです。よろしくお願いします!」
元気に挨拶した子を見て、ロイは目を丸くした。第一印象は「若すぎるんじゃ?」だった。
手元の資料を見ると、22歳とあった。ハァ?どう見ても10代だろ、コレ。経歴を見ると白紙が多くて首をひねる。ただ大統領補佐官の書き添えがしてあったので、その関係らしい。
「ロイ・リーダス。よろしく」
その日の訓練は銃器の講義となっていたので、部屋へ移動しながら雑談がてら話を振る。
「すごく若く見えるね」
「よく言われます。童顔なんで、いつも10代とか言われちゃうんです」
だろうな、と納得しつつ話を続ける。
「エージェントにはどういう経緯で?」
「あ、極秘なんですけど…」
言いつつ指を口元に立てて「実は国に監禁されてて貴重な実験台になってたんです。その代償にエージェントとしての仕事を回してもらうってことで合意したんです」とにっこり笑った。しかもウィンク付き。
ロイは思わず吹き出した。経歴書に空欄が多いのを見てもワケありなんだろう。言えない、とロイは解釈したが、その返し方が気に入った。

面白い子だなぁ――第一印象はそう変わった。

ロイはそれからシェリーの訓練はすべて都合を合わせた。無理やりねじ込んだりもしたので、シフトを管理している奴(たまたま知り合いだった)からは「そこまでするなんて珍しいな、お前」とニヤニヤしながらからかわれたが、我慢してやり過ごした。訓練で都合をつけないと会えないからだ。
ロイは自分でも自覚してるが、そこそこモテる。海軍にいた頃もコンパ要員として駆り出されることが常で、女っ気のない隊員たちからは重宝されていた。適度にマメだし、顔も悪くなく、愛想もいいのでコミュニケーション能力は高い。ただ女関係には冷めていたので、周りの隊員の引き立て役を買って出ることが多かった。付き合うことがあっても仕事の忙しさが災いしていつも長続きしない。それでもそれなりに経験も積んでいるので、シェリーに対しても楽観視しながら時機を待つ構えだった。

そして、シェリーの訓練に対する熱意はすごかった。
質問も毎回多かったし、講義に関して言えば予習復習もきっちりやっていた。実技に関しては飲み込みは悪い方ではない。ただ、少々どんくさいのは如何ともしがたかったが。
射撃の練習も最初は壊滅的だった。的にかすりもしない自分に落胆したのか、もっと練習したいと言い出した。
「それはダメ。銃の練習は訓練以外の自主練は認められてないんだ」
「ええ!?そうなんですか?どうして?」
「弾もタダじゃないからね。適材適所を探せってことだよ。ビンボー組織の基本だろ?」
「えー…私の適所はどこなんだろ…」
本気で考え込む彼女にロイは笑って頭を撫でた。
「それをこれから探すんだろ?今日はもう終わりだけど、よかったらこれから食事でもしながら話の続きでもする?」
プライベートの誘いはまだ早いか、という目測は誤って、「いいんですか?」というシェリーの快諾の元、近くのレストランへ繰り出すことになった。
もしかして俺、脈あり?と思いながらも、話の内容は終始エージェントのことだったのではやる心にはブレーキをかける。
「すごい熱意だけど、あんま最初から飛ばすなよ?」
「はい。わかってはいるんですけど…バイオテロには特別な思い入れがあって――少しでもそれを撲滅する手伝いができるなら、って思っちゃうんです」
「そうか。でも危険もあるから、いつも冷静にな。絶対にパニックになるなよ」
言いつつロイはその"特別な思い入れ"を聞いてもいいものかどうか迷った。迷ってる間にシェリーが話題をこちらに振った。
「リーダスさんはどうしてエージェントになったんですか?」
「ロイでいいよ、シェリー。エージェントには…まぁ、色々あってね。前は海軍にいたんだけど、辞めてこっちに移ったんだ」
「そうなんですか…」
辞めた理由を聞こうか迷う表情が浮かんだ。しかし、やはり聞くのは思い止まったようだ。顔を見てると全部わかって面白い。ロイは自然に笑みが深くなった。

それから訓練の後は食事に誘うようになった。話の内容は変わり映えしなかったが、彼女との会話は楽しかった。
ロイが柔道をしていて、黒帯だという話になった時には何か技を教えて欲しいとも言われた。じゃあ、ということで、次の訓練の後は訓練場で柔道を教えることになった。訓練場を借りる時の同僚のニヤニヤ顔が鬱陶しかったが、心は弾んでいた。この頃にははっきり自分の気持ちは自覚していたので、チャンスかも、という思いはあった。
そして、柔道の練習は楽しかったが、ある意味苦行だった。

「やっぱり体重が関係あるのかしら」
最近は口調が砕けてきたシェリーは、コツを掴めずロイを投げる前に潰れてしまう。
「そりゃ体重が重い方が有利だな。寝技には関係ないけどな」
「寝技?」
「寝ながらかける技だよ。そのまんまだな」
「どうやってするの?体重関係ないなら私でもできる?」
「そりゃできるけど…」
え?マジで?という思いでシェリーを見ると、「教えて」と目を輝かせて言った。
いや、ちょっとそれはヤバいんじゃ――と言うに言えない感情を抱えて、ロイはシェリーに寝技をかける羽目になった。寝技は大抵身体が密着する。邪な気持ちはないが――いや、ホントはちょっとはあるが――2人きりの練習でそんなに密着したらヤバいだろ。そう思うがシェリーはそんなことを微塵も考えてないようだ。もしかして俺は男として認識されてない?もしくは誘ってるか――いや、それはないか。そういうタイプじゃない。
そんなロイの葛藤などお構いなしにシェリーは無邪気に「こう?」などとやっている。三角絞めをされた時に足で頭を挟まれた時は太腿の感触で眩暈がした。コレ、わかっててやってたら魔性の女だな。
長いような短い、天国なような地獄の時間が終わって、シェリーに「付き合ってくれてありがとう」と笑顔で言われ、ロイは反射で言った。
「もしよかったら――付き合わないか?」
自分としては随分とストレートに言ったものだ。そう思ったが――
「うん?ご飯行くの?いいわよ、どこ行く?」
ロイはがっくり肩を落とした。魔性じゃなくて、天然かよ!
ニコニコ見上げてくるシェリーに苦笑いしながら、「じゃあいつものとこで」と返した。
「着替えてくるね」と足軽く出ていく彼女を見送って、ロイはその場に大の字に寝転んだ。

――俺、ちょっと結構本気かも。


そんな感じで3ヶ月に渡る訓練を終えて、もう会う口実がなくなるというその日、ロイはシェリーに言った。

「訓練が終わっても会わないか?」

普通に聞いたら告白してるのと変わらないと思うが、やはりシェリーはそうは取らなかったようだ。
「いいですよ。また色々話聞かせて下さいね」
ニコニコ言われて脱力したい気分を振り払う。じゃあ、電話するな、と言うとハイと威勢のいい返事。
これで脈なしとかだったら俺は結構へこむぞ。でも数ヶ月シェリーを見てきて、有り得る、と思っていた。
シェリーは鈍いが馬鹿ではない。こちらの好意に気づいてないのでああも無邪気に懐いてくるが、気づいてその気持ちに応えられないとなれば、あの無邪気さも一気に消えるだろう。こちらの気持ちに気づいて尚、ああ振る舞えるような性格ではない。
そう考えるとロイは今一歩を踏み出せない。
振ったサイコロの目がどちらに転がるのか――それが今は読めないからだ。吉と出れば関係は一気に進むだろうが、凶と出れば…会うことさえ叶わなくなる。そして気づく。

――会えなくなることにこんなに怖気づくなんて、初めてだ。


訓練が終わってからは2〜3ヶ月に1度程度の割合で食事に誘った。
都合が合えば頓着なく付き合ってくれる。話は相変わらず仕事のことが多かったが、ちょっとずつロイの昔話も聞くようになった。ただ、シェリーの昔話はほとんど聞けなかった。彼女の自分へのラインはかなり手前に引かれており、それを割るのは躊躇われた。会話の端々に割れば逃げるサインが出ていたからだ。ロイはそういうサインには敏かった。 そんな曖昧な関係のまま1年以上が過ぎた頃、シェリーに初めてエージェントの任務が下った。

「東欧へ行ってくるわね」
任務の内容は同じエージェントでも箝口令が敷かれるのが慣例で、ロイも深くは聞かずに頷いた。
「よかったな、誰と行くんだ?」
「一人よ」
何の疑問も持っていないようにシェリーが言った。一人で行くと聞いて、ロイは怪訝に思った。
任務は大抵二人一組だ。しかも初任務のシェリーにバディもつけずに一人で向かわせる?なぜ?およそ有り得ないことだと思った。
「ちょっと待てよ、何で一人なんだ?誰の指令?」
「シモンズ大統領補佐官よ?私は補佐官付のエージェントだから」
「いや、でも一人はおかしいだろ?初任務な上に通常でもバディは必要なんだから」
「人を保護するだけなの。内紛の激しい地域だけど、B.O.Wの姿も確認されてるからBSAAも投入されてるし、私はその人を説得してアメリカに連れ帰るだけでいいのよ。特に危険な任務じゃないわ。だからじゃないかしら?」
ロイは腑に落ちないまま、それでもそれ以上詳しい話は聞けず、シェリーと別れた。任務の内容としては2日あれば十分だと思っていた。しかし、シェリーはそれから半年間、行方不明になった。

連絡の取れないまま過ぎる日に焦って色んな情報収集を試みたが、見事に空振りばかりだった。
ここまで内容が明らかにされないのはおかしい。上層部からの圧力だとしか思えなかった。かと言ってロイの力ではシェリーの上司であるシモンズに会うことさえできない。
日々の仕事に忙殺され、シェリーの行方はおろか、シェリーの任務についての詳しい内容もわからないまま日だけが過ぎてゆく。
そして、アメリカのトールオークスでのテロ発生、続いて中国でのミサイル着弾と立て続けに起こった事件でロイも駆り出され、更に忙しく駆け回っている中、シェリーが帰国したと聞いた。
もちろんすぐに連絡を取ったが、なかなか会えなかった。
やっと会えた時には蝉の鳴く声がうるさい時期に突入していた。


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