バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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傷痕
シェリーはふと夜中に目を覚ました。薄暗い部屋を見回して、自分の部屋ではないと悟ると同時に昨夜のことを思い出した。

(そうだ、ジェイクに会いに来て…)

時計を見るために起き上がろうとしたら、自分の腰をがっちりホールドされて全く動けないことに気づいた。
見ると、ジェイクが後ろから自分の腰に手を回したまま眠っていた。ジェイクの寝顔が珍しくて、シェリーは彼の腕の中で自分の身体を反転させると彼と向き合った。顔と顔が近くて、ジェイクの寝息を間近に感じてシェリーは思わず微笑んだ。

「朝まで話すか」と言っていたのに、いつの間にか自分は眠ってしまったらしい。
彼の寝顔を間近で見ながら、自分の想いを受け入れてもらえた実感が湧いてきて、彼の頬に唇を落とした。
普段は恥ずかしさが勝ってこんな近くからまともに顔を見れないが、今なら――
そう思ってしばらく彼の寝顔を見つめて、ふと手を伸ばして左頬にある傷痕に触れた。
なぞるように目の下から顎にかけて指を滑らせると、その手を掴まれた。

びっくりして声も出ないシェリーの目の前でジェイクは目を開けると、「くすぐったい」と言った。

「起こしちゃった?」
「そりゃ顔を触られて起きない傭兵じゃ今頃生きちゃいねえよ」
「あ、そっか。ごめんね」
「別にいーけど、傷痕が気になるか?」
「うん…その前に、あの…ちょっと近い…から離して?」
自分でも顔が赤くなるのが分かる。対するジェイクは涼しげに「却下」とますます腕に力を込める。
「何でよ?」
何とか腕から脱出しようともがいてみたが、びくともしなかった。ジェイクは一見細いのに、密着してみてその筋肉の固さに驚いた。しかも…

「何で上半身裸なのよ!?」
「俺はいつも寝る時はそうなんだよ」
「いいから、ちょっと離して!」
「何でだよ?」
「いいから」

こんなに間近だと逃げ場がない。
こんなに間近に誰かがいることなんて今までなかった。人の温もりがこんなに心地いいなんて知らなかった。でもその心地よさに相反するように恥ずかしくて居たたまれない。私、変な顔とかしてない?
ジェイクが少し腕の力を抜いたのでシェリーは慌てて身体を反転させて抜けようとしたら、またがっちりホールドされた。

「!?ジェイク!?」
「顔は見えねえからいいだろ」
そう言って後頭部にキス。
「明日からはまた当分会えないんだから、これくらいは勘弁しろ」
「・・・もうっ!ヘンなトコ触ったら承知しないわよ!?」
「ヘンなトコってどこだよ?」
声だけでニヤニヤしてる顔が想像できる。
「タイプじゃないって言ってたのに」
ウスタナクから逃げて隠れた時のことを思い出して言うと、
「だな。俺はもっと凹凸がある方が好みなんだがな・・・」
「もう!!どうせズン胴よ!悪かったわね!!」
「でもお前なら何でもいいけど」
「!!」

そんな恥ずかしいセリフ、さらりと言えるキャラだった!?
シェリーはもう何も言えなくて黙った。
後ろではジェイクがシェリーの耳が赤くなるのを見て、可愛くて仕方ないと思ってることなど知る由もない。


**********

「で?これが気になるのか?」
左頬の傷痕のことだろう、シェリーは頷いた。
「聞いたわ、信頼してた上司に裏切られたって」
「誰から聞いたんだ?」
「えと…あなたを保護する任務の前に調査があって、3年…今では5年になるのかな。5年前の南米の事件で辛くも生き残ったっていう人がいたから、話を聞いたの」

5年前の南米、と聞いて、ジェイクの顔は自然に険しくなる。

10代半ばから傭兵部隊に入隊して、入隊間もなくある男に出会った。
隊長だったその男はジェイクにあらゆる戦闘技術を叩き込んだ。訓練は苛烈を極めたが、ジェイクは耐えた。男がただ厳しいだけじゃなく、隊の存続を第一に考え、隊員を消耗品でなく一人の人間として扱っていたからだ。
ジェイクだけでなく、隊員のほとんどがその男を尊敬し、信頼していた。
幾多の戦火をその男の指揮の元、ジェイクはくぐり抜けた。その男の指揮に微塵も疑いなどなかった。先の展開を読んだ戦略の立て方や粘り強い戦い方は、その男から学んだと言っても過言ではない。その男がいれば、隊の士気も上がった。
そんな隊生活が2年。2年の間、何の兆候もなかった。その男の元で戦果を挙げていくものだと疑ってもなかった、そんな時、南米への出征を命じられた。

忘れもしない、5年前の夏――ジェイクが17歳の頃だった。
いつもの通り作戦を立て、その男の指揮の元、何の問題もなく帰国できると思っていた、そんな矢先――

「奴が裏切ったんだ。敵方と通じてやがった」

あの時のことを思うと今も苦い思いがこみ上げる。

「そいつはな、2年だぜ、2年。2年もの間、隊のことを一番に考えた厳しくも優しい隊長を演じてたってワケさ」
「すごく信頼してたのね…」
「俺は父親がいなかったから、重ねてたんだろうな。親父がいたらこんな感じかな、ってな。今から思うと笑っちまうぜ?スパイ相手にそんなこと思ってたなんてな」

ジェイクの口角が引きつるように上がった。笑いたかったのかもしれない。だがすぐに表情は抜け落ちた。

「お蔭で部隊は全滅の憂き目に遭った。死んでいった仲間、なんて感傷はねぇが、奴らも俺同様、そいつのことを肉親のように信頼し、尊敬してた。だが、裏切られたショックを理解する間もなく死んでいったよ、奴の目の前でな!」

ジェイクはベッドに拳を叩きつけると、肩で息をした。
「俺はな、絶対に嫌だと思った。あいつに騙されっぱなしで死ぬのは絶対にごめんだってな…」
今から考えればその一心で戦った。裏を返せばあいつのお蔭か?笑えねぇ。

「ヤツら、弾をケチりやがって、ナイフでかかってきやがった。こっちがもうとっくに弾切れだと知ってたからな。だが、俺は銃より接近戦の方が実は得意なんだよ」

数が多いから手こずったけどな、とジェイクは呟く。

「その時に…?」
シェリーはジェイクの方へ身体を向けると両手で頬を挟んだ。右手の親指で傷痕をそっとなぞる。
「ああ、ナイフってのは嫌だよな。痛ぇし、血がドバっと出やがる。目より下でよかったぜ。上だったら目に血が入って戦えなくなるところだった」
「それで、どうなったの?」
「応援が来て、敵を押し戻して、俺は瀕死で救護班に助けられて、目が覚めたら軍の救助テントだった」
「その…人とは、その後は…?」

ジェイクはシェリーの手を外して、起き上がった。シェリーに背を向けて、ベッドの端に腰かけた。

「会ったこともねぇ。探し出して、裏切ったことを問いただしたりしたくなかったと言えば嘘になる。でも、その事件の後、お袋が死んでな、もうそれどころじゃなくなっちまった。お袋が死んで、俺の中で何かが切れちまった。もうその男のことも、何もかもがどうでもよくなった。そんな熱い部分は俺の中で完全に死んだんだ。誰も信用するな、金さえありゃ大抵のことはできる。人を助けても誰が得をする?俺じゃねぇ、だったら、俺は俺のためにしか、もう生きない…そんな風に思っちまったのさ」

シェリーはそっとジェイクの背中に額をつけて寄り添った。

「やめないで」

言葉の意味を測りかねて、ジェイクはシェリーの方へ横顔を向けた。

「17歳の時のあなたに言えたらよかった。人を信用することをやめないで。その人1人のために、まだ会ったことのない人をすべて拒絶するのはあなたのためにならない。どんなに辛くても、きっとあなたを想ってあなたを見捨てない人が必ず現れる。あなたのお母さんのように。それを信じて、強く生きて――そう、言えたらよかったのに――」

ジェイクはシェリーの手を握ると言った。

「いいんだ、もう――見つけたから」(That's all right. I already found you.)

目を見開いたシェリーの顔をジェイクは覗き込んで「だろ?(Did I?)」と聞いた。

シェリーは微笑んでジェイクの額にそっとキスした。

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