バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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逃亡劇の果てに
高速で走っていた搬送用乗り物のスピードが落ちたと思った瞬間、目の前に光が広がった。
死闘を乗り越え、やっと終わりが見えてきた逃亡劇。
シェリーは安堵のため息と共に、隣の男に視線をやった。
目の前を鋭く見つめる男――ジェイク。
この半年、彼とくぐり抜けて来た死線を思い出し、胸が苦しくなった。
シェリーはエージェントとしての任務を全うした。
あとは、ネオアンブレラの海底基地を脱出し、彼の血液を国の機関に渡せばシェリーの仕事は終わる。
なのに今は嬉しさよりも、胸には苦さが広がる。
――なぜ?
その答えを見つける前に、シェリーが見つめる先で彼の視線が動いた。
「どうした?」
そう優しく聞いた彼――ジェイクの顔を見た途端、シェリーは自分の置かれた状況を自覚した。
自分の手は彼の手の上に重ねられ、彼の手は自分の肩に置かれている。身体が密着して、今さらながら鼓動が早鐘を打ち始めたのが分かった。顔に血が昇って赤くなる。
何も言わないシェリーを怪訝そうに見たジェイクが何か言いかけた時、やっと搬送用乗り物がガクンと揺れて停まった。
素早く立ち上がったジェイクが辺りに警戒を払いながら、シェリーに手を差し伸べる。
その手を握りながら、シェリーはふと思った。
こんな風に立ち上がる時に手を貸してくれるようになったのは、いつからだろう?
最初に出会った時は、転んでも皮肉しか言わなかった。名前も――普通に呼んでくれるようになったのは――
そこまで考えて、またも赤くなりかけた顔色を隠すためにシェリーはジェイクに背を向けた。
「何だよ、どうしたんだ?」
背後で怪訝そうに聞いてくるジェイクに「何でもないわ」と答えながら、周りを見渡す。
しっかりして、シェリー!まだ終わったわけじゃないのよ!
「クリスたちはレオンに聞いてここに来てくれたらしいわ。多分、BSAAかFOSが救助ヘリを寄越してくれるはずだから…」
シェリーはそこまで言って言葉を切った。
(そう言えばクリスたちは無事だろうか?)
そんな想いが顔に出たのか、ジェイクがこちらに歩み寄ってシェリーの顔を覗き込んだ。
「アイツらはちょっとやそっとじゃ死なねぇよ」
シェリーは彼のブルーグレイの瞳を見ながら思う。
ジェイクはなぜ自分の考えてることがわかるんだろう。何も言ってないのに。いつからか、ジェイクは――


*********
ジェイクはじっと見つめてくるブルーアクアの瞳を見返した。
その瞳の中には戸惑いを浮かべた自分が映っていた。
先ほどからシェリーの様子がおかしい。
目を逸らしたと思ったら、こんな風に見つめてくる。
一体、何を考えているのか――さっきまではクリスたちのことを考えてたのは間違いない。
では今は――?
シェリーの一挙一動に敏感になっている自分にジェイクは内心苦笑した。
きっと、今の自分ならどんな人ごみでも、どんなに離れていても彼女を見つけられるだろう。
自分よりも随分頑丈な彼女なのに、思わず庇ってしまう。
何故なのかは一応自覚しているつもりなので、特に慌てはしない。
シェリーがどう思っているかは知らないし、知るつもりもない。
どちらにしろ、ここから脱出できたらお別れだ。もう会うこともないかもしれない。
それでも、ジェイクは自分に色んなことを教え、与えてくれた彼女を忘れないし、そんな気持ちを後悔もしない。
しばらくお互い見つめ合ったまま動けずにいると、低いエンジン音が彼の耳朶を打った。
彼女は気づいていないのか、まだ見つめてくる。その見ようによっては熱い視線を引き剥がし、ジェイクは音のする方に視線を投げた。
赤く焼けた光の中に軍用ヘリの姿が小さく浮かび上がった。
シェリーもそれに気づいて二人で並んでそれを見つめた。
――さぁ、タイムアップだ――長かった逃亡劇ももうじき幕を閉じる。
ジェイクは近づいてくるヘリを見ながらシェリーの指に自分の指を絡めた。
驚いた彼女がこちらを見たのが分かったが、構わず強く握る。
すると、彼女からもおずおずと握り返してきた。
その感触にジェイクは思わず笑みを漏らした。


*********
不意にジェイクが指を絡めてきた。
今までの自分たちの間に、そんな感触の覚えはない。
数え切れないほど手を握ったり、抱きかかえられたりはしたけど、その感触は初めてだった。
思わず彼を見上げると、更に強く握る。目は合わない。
ジェイクは私のことをどう思ってるのか。私は――?
12歳の頃から国に軟禁されていて、普通の子供時代を送って来なかった。
毎日毎日繰り返される検査や自由のない生活に何の疑問も抱かず、自分はもうこうやって一生を終えるかもしれないと絶望したこともあったけど、クレアのお蔭で自分を見失わずに済んだ。
どんなに悪い状況でも、決して諦めるな――その教訓は今の私を支えてる。
バイオテロを世界から一掃するため、レオンもクリスも、形は違えどもクレアも奔走している。そんな彼らと肩を並べて自分もエージェントとして生きる糧を得た。
彼らのことは尊敬しているし、信頼もしている。
では、ジェイクは?
彼のことを思うとレオンやクレアとは違う感情が湧き上がってくる。
信頼している、それは当然。一緒に逃亡して来て、背中を預けることができる。

でも、この感情はそれだけだろうか?

今まで感じたことのないような胸が苦しい、この感情は?
わからない…でも、握ってきた指の感触に嫌悪は感じない。いや、むしろ――

シェリーは戸惑いながらもしっかりと握り返した。

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