転生おばあちゃんの孫は、タンテイ王子
―婚約破棄からの毒殺未遂事件と少年探偵団―

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  問題編11 カミラの四つのうそ  

 僕はエドウィンと一緒に、おばあちゃんとおじいちゃんに会いに行った。おばあちゃんに事情を話すと、彼女はすぐに了解した。
「分かったわ、小さな探偵さん。真実はいつもひとつね」
 おばあちゃんは、ちゃめっけたっぷりにウインクした。そしてその日のうちに、おばあちゃんと僕は南の侯爵家に向かう。手紙を書くより、直接会って説明した方がいいとおばあちゃんは判断したのさ。
 おばあちゃんは、ヴァレンティナと彼女の両親と話した。ヴァレンティナたちはこれ以上なく感謝して、お礼を言った。誤解は解けたのだ。これでヴァレンティナは幸せになれるだろう。本当によかった。
 次におばあちゃんは王城へ向かい、ドミニクに会う。僕はその場にいなかったが、おばあちゃんは彼をしかったそうだ。なぜなら、ことの始まりは、ドミニクがヴァレンティナを新年のパーティーでののしったことだ。
「別の女性と結婚したい。ヴァレンティナとの婚約を解消したい」
 ドミニクが素直にそう言って、ヴァレンティナにしっかりと謝罪していれば、こんな騒ぎは起きなかった。ドミニクは別の女性と、ひとり身になったヴァレンティナはカルロスと、それぞれ婚約して幸せになれただろう。

 翌日、城にヴァレンティナのお父さんがやってきた。彼は僕のお父さんと長い間、相談していた。僕は子どもだから、仲間に入れてもらえなかった。
「ドミニクの毒殺未遂事件は、単なる彼の不注意による事故だった。これは『事件』ではない。したがって誰も罰を受けない」
 大人たちの話し合いの結果、そうなった。南の侯爵家は、なんらかの利権をお父さんに譲ったみたいだったが、お父さんは教えてくれなかった。

 二日後、話していたとおり、カミラが城のメイドをやめた。事件が解決して、彼女ははればれとした顔だった。僕はエドウィンとともに、彼女を見送るため城門まで行った。
「僕は君がいなくなって、さびしいよ」
 せっかく仲よくなれたのに。僕はもっと、遠慮のないカミラとおしゃべりを楽しみたかった。
「私もです、アイヴァン殿下」
 彼女はさびしそうにほほ笑んだ。重そうな大きなかばんを、片手で軽々と持っている。前に彼女が言ったとおり、力持ちなのだろう。
「それに君には、疑問があるんだ。君は、私は十六才だ、私は王都で産まれ育った、私は子爵家の子どもだと言った。でも、それらの三つはうそだね。君は僕とエドウィンに、いつわりごとを話した」
 僕が言うと、カミラは目を丸くした。それから、うれしそうに笑う。僕が気づくのを待っていたと言わんばかりに。
「はい。そのとおりでございます」
 僕の背後に立っていたエドウィンが、少しあわてた様子で僕の前に出ようとする。うそをついていたカミラから、僕を守ろうとして。けれど僕は彼を制止した。
「カミラは、危険な存在ではないよ」
 僕は、心配性な護衛騎士にほほ笑んだ。エドウィンはとまどって、僕とカミラを見比べる。カミラは申し訳なさそうに笑った。
「ごめんなさい。これらみっつ以外にも、あとひとつ大きなうそがあります」
「まだ、うそがあるのかい?」
 僕は驚いた。
「まさか、君も異世界から転生してきたの?」
 カミラはスカートを揺らして、楽しそうに笑う。
「そんな特別な事情を持つのは、世界広しといえども、あなたのおばあ様しかいません。アイヴァン殿下、私はいつか必ず、あなたに残りのうそを教えます。いえ、私が打ち明ける前に、あなたには分かってしまうのでしょう。あなたは、王国一の探偵ですから」
 カミラは、僕をまぶしそうに見つめる。
「私にうそがなくなったら、私を少年探偵団に入れてください。あなたに生涯の忠誠を誓います」
 カミラは手を振って、城門から出ていった。最後に知らされた意外な事実に、僕はぼう然とする。エドウィンも、複雑な顔をしている。
「僕はさっき、残りひとつのうそが分かったのだけど」
 カミラが、……ではなかったとすると、カミラという名前も偽名だろう。エドウィンは苦笑した。
「私にも分かりました」
「事件は解決したけれど、カミラには完敗したみたい。僕は探偵より、探偵兼国王になりたくなったし」
 僕は軽く、ため息をついた。
「国王を目指すのは大変だと思うのに。不要ないさかいを増やすだけかもしれないのに」
 この国には、王子だけでも僕を含めて四人いる。一番上の兄には、西の侯爵家がついている。今のところ、彼が国王の最有力候補だ。一番年上の王子が王位をつぐのが、この世界では一般的だしね。
 二番目の兄のドミニクには、ヴァレンティナとの婚約解消までは、南の侯爵家がついていた。三番目の兄は体が弱く、国王にはなりたくないとだいぶ前から言っている。
 西と南の侯爵家以外では、北と東の侯爵家がある。北の侯爵家は、どの王子につくか決めかねている。南北格差問題に熱心に取り組んでくれる王子を探しているのさ。そして東の侯爵家は……。エドウィンは僕を、注意深く見ていた。それから、ほほ笑む。
「国王になったあなたを、私は見てみたいです。きっと、よい政(まつりごと)が行われると思います。祖父の気持ちは分かりませんが、――私はあなたが国王になりたいと言ってくれて、うれしいです。そして、あなたの力になりたいです」
 彼は、心の内をさらけ出すように話してきた。エドウィンはずっと前から、僕にそれを望んでいたのかもしれない。
 しかし彼は、自分の思いを口にしなかった。僕に何かを押しつけてはいけないと感じていたのだろう。そういうところまで、エドウィンとカミラは正反対でおもしろい。
 僕は去年の十月に、エドウィンと東部を旅行した。彼の祖父とも会って、いろいろなことを話した。好きなお菓子のことから、人はどう生きるべきかなんて話まで。僕は、僕の頼もしい騎士に笑った。
「ありがとう。君の言葉がうれしい。僕は欲張りで、探偵にも国王にもなりたい。でも君と一緒なら、きっとその夢をかなえることができる」
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