転生おばあちゃんの孫は、タンテイ王子
―婚約破棄からの毒殺未遂事件と少年探偵団―

戻る | 続き | 目次

  問題編4 異国の果実で報復を  

 カミラがフルーツの盛り合わせをテーブルに置くと、ヴァレンティナの自慢話が始まった。
「カルロスは毎日、新鮮なフルーツをたくさん贈ってくれるの」
「それは、よかったな」
 ドミニクの顔は引きつっている。彼は、カルロスの力を見せつけられているのだ。カミラは静かにテーブルから離れた。
「私はもう食べ飽きているわ」
 ヴァレンティナが見せびらかすように、サクランボを食べる。
「あなたも食べていいわよ。こんなにも、お城では食べられないでしょう? 南部地方だともう、サクランボが食べられるのよ」
 彼女は笑う。その一方で、声はかすかに震えていた。彼女は不慣れなことをしているのかもしれない。
 きっとヴァレンティナは、新年のパーティーでこれ以上はなく、ドミニクに傷つけられたのだ。だから傷つけられた心を取り戻すために、周囲に自慢をしている。そして今、ドミニクに復讐している。
 ざまぁみろ、私の今の婚約者は、あなたより上の男だ。私はこんなにも愛されている。ヴァレンティナは一生懸命に虚勢を張って、笑っている。
 彼女の心情は分かるし、同情もできる。しかし、賢いやり方ではない。これが正しいとも思えない。カミラは扉を開けて、部屋から出ようとした。
「これは何だ? 口の中が痛いぞ!」
 いきなりドミニクがさけんだ。カミラは驚いて振り返る。
「のどが、かゆい? ――お前は俺に、毒を盛ったな!」
 ドミニクは激怒して、ヴァレンティナに詰め寄る。
「何を言っているの?」
 彼女は困惑しているようだった。幼子のように、おろおろしている。
「医師を呼んでまいります!」
 カミラは大声を張り上げた。おそらく今、一番冷静なのは自分だろう。ドミニクとヴァレンティナは、カミラの声を聞いてもいない。カミラは部屋から走って出ていった。
「私と医師が部屋に戻ったときには、ドミニク殿下は嘔吐されていて、ヴァレンティナ様は真っ青な顔で立ちつくしていました。顔色だけで言うと、ヴァレンティナ様の方が病人のようでした」
 カミラは落ちついた様子で、僕に話した。
「ヴァレンティナ様のご様子から、彼女が毒を盛ったようには思えませんでした。ですが……」
 カミラは紫色の瞳を伏せて、言葉をにごす。ヴァレンティナの持ってきたフルーツを食べて、ドミニクは嘔吐したのだ。フルーツに毒が入っていたと考えるのが、普通だろう。ヴァレンティナが食べたサクランボ以外は毒入りだったのだ。
「ヴァレンティナ様は、調理場から客室にフルーツを運んだ私が毒を入れたと言っています。もしくは、調理場でフルーツを切り分けた者か、皿に盛り付けた者が毒を盛ったと」
 カミラはつらそうだった。ヴァレンティナは、果物の盛り合わせに関わった者全員を疑っているのだ。それとも罪をなすりつけようとしているのか。
「私たちメイド、調理場で働く人たち、運ばれるフルーツを見ただけの騎士たちまで、みんなが容疑者にされています」
「ところで、その盛り合わせに入っていた外国の果物とは、どんなものなんだい?」
 僕は話題を変えた。カミラは両目をまばたかせる。ちょっと考えてから話した。
「色は黄色でした。一口サイズに四角に切られていました。調理場の者に聞けば、もっとくわしく分かると思います」
「そうか。なら調理場へ行こう」
 僕は立ちあがる。
「殿下は、その外国のフルーツの中に毒が入っていたとお考えなのですか?」
 カミラは目を丸くした。
「ですが私は、ドミニク殿下が食べた場面を見ていません。殿下とヴァレンティナ様の前では、できるだけ下を向いていたので。だから殿下が何を食べて毒と言ったのか、さだかではないのです」
 カミラは王子の僕に臆せずに、よくしゃべる。ちょっとめずらしいタイプの少女だ。
「どのフルーツに毒が入っていたのか、僕にもまだ分からないよ」
 僕は笑った。推理するために必要な情報が、まだそろっていない。
「ただ心に芽生えた好奇心を無視すると、僕の灰色の脳細胞がうまく働かないのさ」
「灰色の、ノウサイボウですか?」
 カミラはきょとんとした。僕のおばあちゃんいわく、外国の探偵にはちょびひげがあって、灰色の脳細胞を使うのだ。そして日本の探偵は、おしりだったり三毛猫だったりする。異世界には探偵がたくさんいるんだね。僕は笑顔で、カミラに答を告げた。
「簡単に言えば、外国の果物に興味があるだけだよ」
戻る | 続き | 目次
Copyright (c) 2021 Mayuri Senyoshi All rights reserved.
 

-Powered by HTML DWARF-